5-18 執筆、時々押し売り

 ココは浅葱町。一応、異世界。今日は図書館で黙々と執筆してます。

「なんかまじめに執筆してるのが不気味ねえ、フリーター妹。」

 シキブ姉さんが気持ち悪そうにワタシを見ながら相変わらずの毒舌をしかけてくる。

「なんとでも言ってくださいな。ワタシには時間がないんで。」

 ワタシは気にせずに図書館でも執筆している。雑誌への投稿が終わってもこちらの投稿サイト「カキヨミ」にできるだけ投稿するためだ。普段はケイさんのパソコンから投稿するが、最近は私物のパソコンをオフラインにして書き込んでいる。さすがに紙から起こすには時間が足りない。

「でも、実家に帰っても執筆はできるんじゃない?」

 シキブ姉さんは至極まっとうな意見をしてくる。が、ワタシも理論武装はしている。ふっ、その辺は抜かりないぜ。

「シキブ姉さん、実家の親に反対されてるから兄さん家に遊びにくるふりして、執筆してるのお忘れですかい。それに浅葱って資料豊富だし、他より芸術活動しやすいんですもの。」

「ああ、確かにそうだったわね。でも、そんなに小説家になりたいなら、反対されても押し切ればいいのに。」

「まあ、そのあたりはいろいろとね。」

 ワタシはパソコンに打ち込みながら返事をする。まあ、元の世界の公務員のしがらみとかは言う訳にはいかないからね。

「まあ、雑誌に投稿はしたんでしょ?いい結果出るといいわね。」

「ありがとうです。お礼に…。」

「何かくれるの?」

 シキブ姉さんの目が輝いてきた。

「ケイ兄さんのCDを3割引きで売ります。あ、今ならライブの優待券付きですよ。」

 ワタシは今、小説家目指すタマゴであるがライブチケットを捌く売り子でもあるのだ。こういう時には攻めて売らないと。

「えーと、ライブハウス“オニオンヘッド”立見ドリンク付きで4000円のところを3800円…押し売りですかい。しかも微妙な値引き。」

「しょうがないですよ~。もうすぐ引っ越しで時間ないし、放浪の旅に出た不詳の兄の活動を支える健気な妹ってことで。」

「うーん、時間ないのなら、旅に出るのが間違ってない?」

 ギクッ!なんか、あちこちで疑われてる気がする。ならば撤退するか。

「ああ、そろそろ帰らないとタマがお腹すかせてるわ。じゃ!今度来たときに代金よろしくっす~!」

「こら~!!図書館内の販売活動は禁止よ~フリーター妹~!」

 そうして颯爽と図書館から出たワタシを観察する密かな影があったのは気づかなかった。


「こちらコードネームレッドチャイブ。ただいまたっちゃん、図書館を出ました。」

 植え込みの影から女性が誰かに電話をかけていた。

「こちらグリーンチャイブ。そのまま尾行続けてくれ。」

「了解。なお、ネコのアッキーを連れていないからアパートに戻る模様。」


「ふう、なんとかシキブ姉さんを誤魔化した。しかし、なんだか視線を感じるような気がする??ま、早くタマにごはんあげて、元…実家に戻るかな。」


「こちらグリーンチャイブ。たっちゃんアッキー捕獲後、撤収とのこと。」

「了解。ターゲットの独り言を言うクセが役に立っているな。」

「レッド…ねえタカヒト君、こんなコトして何になるの?」

「お、おいコードネームはちゃんと言えよ。たっちゃんの言動がおかしいからさ。実家の場所も教えてくれないし、駅まで送ろうとしても頑なに拒否するし。できる限り尾行すれば実家の手がかりつかめるかと思って。みっちゃんだってキョウの引っ越し先は知っておきたいだろ?」

「そりゃあ、そうだけど。」

 ワタシは気づかずに独り言を言いながら帰路についている。誰も聞いちゃいないから独り言を多少言ってもいいだろう。

「今日はカルカンのアサツキバージョンを買い置きするかな~。こっちの商品名なんだっけな?」

 そんなワタシの後ろをつけるみっちゃんには気づかない。

「たっちゃんの独り言って時々意味不明なのよね。商品名とか微妙に違うし。まあ、尾行続けるわよレッド。」

「了解~。」

 ワタシはそのまま、商店街にてキャットフードを買い、アパートへ戻った。


「こちらグリーン。たっちゃん、アッキーをキャリーに入れてアパートを出ました。」

「よし、そのまま帰り道を尾行すれば…。」

「あ!」

「どうした、グリーン!」

「え、と、言いにくいのだけど浅葱さんが車で迎えに来てる。会話からして送ってもらうみたい。」

「何ぃ~~~!?浅葱さんだとぉ!?」

「もしかしたらタカヒト君のエスコートを断る理由ってさ、えっと…。」

「言うな~!それ以上言うな~!!」


 そんな会話があるとは露知らず、ワタシは浅葱さんの車に乗り込んでいた。

「ふう、これで大丈夫かな。すみませんねえ、浅葱さん。無理を言ってしまって。なんか、視線を感じたから尾行されてる気がして。気のせいならいいけど。」

「いえ、これも浅葱家の秘密を守るためでもありますから。確かに達子さんの帰り道がいつも旧館へ直帰だと不審がられますね。少し迂回していきましょう。」

「はい、お願いします。」

「ニャ~」

 …ココは浅葱町。一応、異世界。ケイさんのライブ準備も含めていろいろ着々と進んでいる。用心にこしたことはない。

 しかし、ワタシはいろいろとこうしてタカヒト君達に探られていることには気づかなかった。


「嘘だあ~浅葱さんとは何でもないって言ってたのに~。」

「タカヒト、そろそろケータイをやめて仕事してくれないか?ケーキがそろそろ切れるんだがなあ。」

 店長が苦言を呈すると、娘であるペコさんが店長の肩に手を置き首を振りながら制した。

「父さん、タカヒト君はどうも失恋したみたいだから、そっとしてやって。でも、ドMだから明日には元に戻ってると思う。」

「そっか、なら仕方ない。」

 …ついでにタカヒト君があちこちでドM認定受けてることにも気付かなかった。

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