5-15 タマ、帰還する

 ココは浅葱町。一応、異世界。

 相変わらず、浅葱側での創作活動にいそしんでます。今日は浅葱の投稿サイト『カキヨミ』にアップする短編を書きながらケイさんと会話です。

「そっか。敬一郎さんは納得してたのか。」

「うん、形あるものはいつかは滅すると。やはり年齢を重ねてるだけあって達観していたわ。ケイさんにも頑張れと言ってたよ。」

「そっか。俺もここでどこまでできるかなあ。」

「最後の一か月はココに滞在するんでしょ。その日程でライブを開けるようにすればいいじゃない。あとは自主制作でCD作るんでしょ?曲はできたの?それとも元の世界と共通?」

「半々にしようかな、と思ってるんだ。元の世界での活動もあるしな」

「そっか、大変だねえ。なんか手伝えることあったら言ってね。」

『ぴんぽ~ん♪』

不意にチャイムが鳴ったのでビックリした。アパートの住人が来るにはまだ早めの時間だったのと、貼り紙してあったからだ。

「あれ?タカヒト君達かな?貼り紙してあるのに?」

「俺が出るよ。」

 そういって、ケイさんはギターを置いて玄関に出て行った。

 その様子を確認して、もう少し書くかと机のPCに向かい直したその時だった。

「ニャ~」

 ん?いないはずの声がする?

「ニャ~ニャ~」

 気のせいにしてはいやにリアルな声だな??

「お~い、アッキーが帰ってきたぞ。」

 そこにはタマを抱えたケイさんが笑顔で戻ってきた。後ろには浅葱さんもいる。

「た、タマ?どうしたんだ?浅葱さんの家で何か嫌なことでもあったのか?」

 するりとケイさんの腕から飛び降りてタマはワタシの胸に飛び込んできた。

「ニャ~ニャ~」

「た、タマ…。」

 抱きしめると、タマが寂しがっていたのが痛いほどわかる。

「あれからずっと達子さんの事慕って泣いてたんですよ。元気も無くなってくるし、だからお返しにきました」

 浅葱さんがゆっくりと説明を始めた。

「普通の猫は人ではなく、家につくといいます。でも、浅葱猫は犬に近い知能と習性があるので飼い主につくんです。」

「そ、そうだったのか。そういえば敬一郎さんも似たことを言っていた。」

「口で言うのは簡単なんですが、納得していただくためにあえて預かりました。アッキーには辛い思いさせてしまって申し訳ありません。」

「い、いえ、こちらこそ無知なばかりに手間をかけさせてしまって申し訳ないです。」

「だから、達子さんの世界でもあなたがいればアッキーは大丈夫ですよ。アサツキは多少足りなくてもね。」

「ニャーニャー」

タマが本当に寂しがっていたのね、それなのにワタシは…。

「ううう、ごめんねタマ。もう手放すなんて言わないから。なるべくアサツキをワタシの世界でも用意するからね。一緒にワタシの世界で暮らそうね。」

「いやあ、泣かせる光景だなあ。」

 …ココは浅葱町。一応、異世界。

 こうしてタマがワタシの世界についてきてくれることになったのでした。

 そして、ワタシ達の部屋の玄関先にはもう一人の人影。

「ケーキ持ってきたけど、部屋に入りにくくなってしまったな~。でも、“私の世界”ってどういう意味だ?」

 タカヒト君が陰でそっと聞き耳を立てていたことは室内の誰も気づかなかった。

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