5-13 バーベキュー、時々アサツキ
ココは浅葱町。一応、異世界。カラッと梅雨明けして爽やかな青空が広がり、夏の暑い日差しが降り注ぐ河原に来ています。
やっとこさ、雑誌への作品を書き終えて今日は約束していたアパートの住人達とバーベキューです。ここの川はなかなか綺麗だし、山も見えて景色がいい。タマは迷子対策として首輪にリードを付けてワタシの腰と繋げてます、念のため。
「いやあ、こちらのも景色もきれいなもんだな。なあ、たっちゃんにアッキー。」
「ニャ~♪」
「ぐう~...zzz」
しかし、ワタシは眠くて先ほどから舟を漕いでばかりしていた。ダメだ、横にならせてくれ。ワタシはベンチに横になって寝始めた。
「お~い、たっちゃん、寝るな。」
タカヒト君が起こしにかかってくる。この眠りを妨げる者は
「たっちゃんは昨夜ギリギリまで清書して、今朝コンビニで投函したんだ。Web申し込みできるって言ったのにアナログだからなあ、こいつ。だから寝かせてやれよ。」
「キョウさ~ん、愛情込めてお肉焼いたわ~ん。ほら、特製のアサツキソースを付けて♥️」
相変わらずみっちゃんはケイさんに熱烈アタックしていたが、眠いからいいや。寝てよ。
「い、いや他の皆にも分けてやれ。」
「そうそう、俺にも一口。パクッ」
「あ~キョウさん専用なのよ!サトシ、アンタが食べるな!」
「ええ~ひでえ!」
うるさいなあ、寝られないや。それにちょっとサトシさんがかわいそうだな、と思ったその時。
「あのう、ならばこちらのグリルチキンを召し上がりますか?もうすぐ焼き上がりますの。」
「アネゴとタカヒトさんへの差し入れなんですが、沢山用意したんで皆さんにも。それから口直しのピクルスもありますよ。」
「おう、不器用ながらもアタシも手伝ったんだぜ。あ、他にもアサツキとキノコのアヒージョってものあるぜ。」
アサツキ三人娘が持参した料理を作って勧めていた。さすが
「わ~い、ありがとう!いやあ
サトシさんは無邪気に喜んでるし、いっか。ぐう~。
「アンタ、それじゃ単なるスケベオヤジだよ。」
みっちゃんが容赦ないツッコミを入れているが眠いから(ry
と、再び横になって寝ようとしたその時だった。
「賑やかですねえ。すぐに場所がわかりましたよ。」
「ホント、若いってのはいいことじゃなあ、フォッフォッフォ。」
いかん、この人達はちゃんと起きて応対せねば。ワタシはガバッと起きた。
「浅葱さんと信次郎さん、いらっしゃいませ。本日はようこそお越しくださましてありがとうございます。 」
「あ、浅葱さん!?なんで俺だと起きなくて浅葱さんだと起きるんだよ?!それになぜ浅葱さんが招待されてるんだ?!」
タカヒト君が動揺しているが、なんだと言うのだろう。
「皆さん、紹介しますね。こちら浅葱総一郎さんに浅葱信次郎さんです。プロフィールは…この町の人なら不要よね。」
思わぬVIPクラスの登場にいち早く反応したのはみっちゃんであった。明らかに目の輝きが違う。ケイさんはどうなったんだ、おい。
「まあ、あなたがあの浅葱さんですか。初めまして町のマスコットをデザインしたミチヨといいます。どうぞ、こちらへ。」
みっちゃんはあっさりと自分の隣にスペースを確保している。やはり押しが強いなあ、ワタシも見習わなくてはならないかしら。
「みっちゃん…ちゃっかりしてるなあ。」
「俺は難を逃れたからなんでもいいや。」
「俺は
男衆は肉食系女子を目の当たりにして、やや引いている。
「では、美人さんの隣にお邪魔しますか。よろしくな、ミチヨさん、フォッフォッフォ。」
「え、あ、はい…どうぞ。」
信次郎さんがみっちゃんの隣に移動した。手招きしていた以上は拒否できない。まあ、おじいさんも浅葱さんだしなあ。ま、世の中こんなもんだ。
そうして皆が集まったのでバーベキューを再開した。こちらのバーベキューも元の世界とそんなに変わらない。お料理のアサツキ率が高いが、まあ、この世界のお約束だ。
「いやあ、屋外での飲食は茶会以外のスタイルは初めてですね。立って食べるのもビュッフェパーティーくらいですし。」
浅葱さんが物珍しげに焼けている肉や酒を眺めながら言うのにはさすがにギャップを感じた。ちゃ、茶会にビュッフェパーティーですか。やっぱ金持ちは育ちからして違うわ。
「なんで浅葱さんまでいるんだよ~。」
タカヒト君は何故か不満げだが、別にいいじゃないか。浅葱さんが何かしたのか?ま、いいやケイさんが本題に入るし。
「いや、メンツは多い方がいいから誘ったし、皆に知らせようかと思って。実は秋頃に俺達引っ越すんだ。」
「はい?」
「へ?」
「なんと?」
「ええええ~~!?」
アパート住人組とアサツキ三人娘はやはり驚いているが、浅葱さん達は事情を知っているため沈黙していた。
ケイさんは説明を続ける。
「どうも親の具合が良くなくてな。介護ってほどじゃないんだが、そばにいた方がいいんじゃないかってことで実家に戻ることにしたんだよ。」
「だから兄さんのアパートが引き払われるから、ワタシも浅葱に来れなくなっちゃうんだ。親をほっといて浅葱に来る訳にはいかないし。」
「そっか…親御さんが…。」
「…そ、そんな、キョウさんとお別れ…。」
ケイさんは打ち合わせした通り表向きの理由を述べている。まあこれなら筋が通るだろう。そしてワタシは浅葱さんへ切り出した。
「それでですね。実家にはココほどアサツキはないからタマを浅葱さんに託したいんですよ。」
「ニャ?」
「え?うちにですか?」
「兄さんと話したんですよ。きっとこのネコは家でも人でもなくアサツキについていると。故郷でもあるこの町で暮らした方が幸せなんじゃないかって。
「いいんですか?それで。」
「ワタシだって辛いんですが、浅葱さんの都合が悪ければほかをあたります。」
「いえ、悪くはないですが…。」
「ニャニャニャ??」
浅葱さんは何か考え込んでいる。その沈黙は余計不安になるには充分だった。
タカヒト君がその沈黙に耐え切れないのか、口火を切った。
「ならばアッキーは俺に引きとらせてくれよ、それでたっちゃんはアッキーに会いにくればいいさ。」
「タカヒト君はダメだよ。」
ワタシに速攻で却下されたタカヒト君は何やらダメージを受けている。
「ええっ!なんで!」
「あのアパートはペット禁止だし、第一、タカヒト君は小鳥飼ってるんでしょ。タマのエサになるよ。」
「ああ~しまった~!!確かにピーちゃんがエサになるなんてイヤだ~~。」
タカヒト君はなんか勝手に苦悩しているが、ほっとこう。ワタシは浅葱さんに向き直って問い直した。
「…やれやれ。で、浅葱さん、どうでしょうか?」
「う~ん、口で説明するのは簡単なんですが…。ではこうしましょう。今日、このままアッキーを預かります。」
「ニャッ?!」
「それで様子を見ましょう。話はそれからです。」
「ニャ~ニャ~」
「ううう、良かったわね、タマ。アサツキも高級アサツキのあさきゆめみしにもきっと困らないわよ。」
…ココは浅葱町。一応、異世界。
梅雨明けの空は美しく、積乱雲は力強く広がる。この空も来年は見ることができないんだなあ…。
「ちょっと、タカヒト君!これはキョウさん専用なのよ。勝手に食べないでよ!」
「いいじゃん、ちょっとくらい。」
「良くない!アンタはコンビニの焼肉弁当で十分だ。」
「ひ、ひでえ、だいたいなあ。お前、キョウさんキョウさんとくっつきすぎなんだよ。ウザいぞ。」
「タカヒト君だってたっちゃんにスルーばかりされてるじゃん。」
「き、傷口に触れるようなコトを。ええい、ヤケ食いじゃ~。」
「だからキョウさんへの愛の料理を食うな~~~!!」
「いやあ、青春じゃのう。フォッフォッフォ」
…人が感傷に浸ってる時にまったくこいつらは。
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