5-12 創作、時々画策
ココは浅葱町。一応、異世界。ワタシはひたすら執筆していた。今日はケイさんはヘッドホン無しで楽器をいじっているため、かなりの音だ。しかし、ワタシは執筆スイッチが入ったので多少の音は気にしない。しかし、ネコの声には敏感だ。
「ニャ~」
「あ、もう夕飯の時間か。タマ、すまないね。今、用意するからね。」
「ニャ♪」
「なんで、ギターの音より小さいアッキーの声に反応するんだよ。」
「ネコのお腹空いたサインはそりゃ、飼い主としては敏感になるわよ。」
「ホントに集中すると楽器の音は気にしないんだな。で、人間の夕飯はどうすんだ?」
そうだった、忘れていた。もう作るには時間が遅い。
「そうねえ、チャイブピザのチラシが入ってたから、アサツキピザにするかね。食べられるの今のうちだし。」
「最初はあんなにアサツキに辟易してたのにな。」
ケイさんが茶化すように笑う。
「そうねえ、でもあと少しだと思うと食べ納めかと思えて。あ、ケイさんのパソコン借りるね。Webだと500円引きだって。」
ワタシはケイさんのパソコンにてピザの注文を始めた。前にも言ったがこちらに戸籍も住民票もないからネットの契約はできない。こちらの世界のケイさん名義を借りてネットだけは開設している。こんな生活もあと数ヶ月なのかと寂しくも思う。
「作品はどのくらい進んだんだ?」
「8割5分ってとこ。締切まであと半月切ったし、終わったら梅雨明けだろうからタカヒト君やみっちゃん達とバーベキューするし。急がないと。」
「バーベキューか…。その場で引っ越しの事実を公表するか。親の介護とかなんとか言えば収まりもつく。」
「そうだね…。」
「バーベキューには浅葱さんも呼ぶんだろ?そこでアッキーのことも頼んでみるか。」
「…ぐずっ。」
その話をされると泣いてしまう。
「そんな顔するなよ。ネコは人より家につくっていうだろ、浅葱についてると思うんだよ、アッキーは。」
「ならば、週の大半を過ごすワタシのS市の家についてそうじゃないかぁ。どうしてS市に連れていけないのよ。」
大泣きになって反論するも、ケイさんにあっさり論破されてしまう。
「しかし、アサツキを前にしたアッキーを見ろ。」
「パクパクパク…ニャ~ン。」
そこにはキャットフードにアサツキトッピングしたものを幸せそうに食べているタマがいる。
「あんなに幸せそうな顔して食べてるじゃないか。アイツは家や人じゃなくアサツキにつくんじゃないのか?ならばこの世界しかないだろ?」
「ううう…わかったよ。浅葱さんに話してみる。」
「あと、石垣…敬一郎さんにもまだ伝えてないんだろ?早くした方がいいぞ。言いにくいのはわかるけどさ。」
「はあい…。」
すっかり暗い雰囲気になったところ、チャイムが鳴った。
「どうも~チャイブピザです。ご注文のアサツキピザをお届けにあがりました~。」
「お、来たな。たっちゃん、わりい、今、手が離せないから支払いを頼む。」
「わかった。はーい、今行きます。」
ワタシは財布片手に玄関へ向かうと代金を支払い、ピザの箱を受け取った。
「はい、ちょうどいただきます。アサツキがこぼれますんで、開ける時は気をつけてくださいね。」
あ、アサツキがこぼれる??試しにちょっと開けてみるか、とちょっと開けた瞬間。ボロッと大量のアサツキがこぼれて床に落ちた。
「な、なんだ、この尋常ならざるアサツキの量は。」
「ニャー」
タマがすごい勢いでやってきて、床のアサツキを食べ始めた。
「あ、こら、タマ、床に落ちたものを食べるな。」
「ニャーン♪」
ワタシの注意もお構いなしにタマは床に落ちたアサツキを食べ続ける。
「な?アサツキについてるだろ?」
ケイさんが同意を求めるように言う。その通りかもしれない。
…ココは浅葱町。一応、異世界。
夢の収束と愛する者との別れを痛感させられる夜でもありました。
一方、タカヒト君の部屋では会話、いや会議が交わされていた。
「あの二人、なんで急に創作活動に本腰を入れたんだろうな。みっちゃんは何か聞いてるか?」
「ううん、全く何にも。なんでだろう、あの強硬な態度は今までのキョウさんじゃないよね。アッキーの事もなんか話すとたっちゃんは悲しそうな顔するし、何かあったのかしら?」
「なんかいろいろ隠してるよな。キョウは部屋にいない日も多いし、たっちゃんも実家の場所教えたがらないし。」
「それはタカヒト君に押し掛けられたくないんじゃ…。」
「それ以上は言わないでくれ…。」
「ご、ごめんタカヒト君、泣かないで。まあ、あまり知られたくないんじゃない?異母兄弟だし、家庭が複雑とか?」
「なんかそれだけにしちゃあ、腑に落ちないんだよなあ。付き合ってないと言う割りにはたっちゃんは浅葱さんと親しいし、ううう。」
「いろいろ探りいれる必要ありそうね。」
ワタシの知らないところで、何か動き始めたようでもあった。
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