5-11 変化

 ココは浅葱町。一応、異世界。

 あれからのワタシとケイさんの浅葱でのライフスタイルはガラっと変わった。

 まず、部屋に鍵をかけるようになった。ドアに「創作中!入るべからず!」なんて札をかけるようにしたのは住人のたまり場と化していた対策だ。

 チャイムの電源を切る案も出たが、大家さんの家賃督促も無視したらマズイとの意見でさすがに見送られた。とにかく、ワタシは締め切りまでに作品を仕上げないと。これを逃したらこの世界でのチャンスはもうない。

 ケイさんはそんなワタシに気遣ってかヘッドフォンで作曲活動している。音を出す必要が出たら、ワタシは花月堂や図書館へ行くという決まりは自然と出来ていた。まあ、自分は執筆スィッチが入ると多少の音では動じないのだが、気遣いはありがたい。

 そしてアパートのドアの前には立ち尽くす2名の男女。

「…今日も札がかかってる。ケーキの差し入れしたいんだけどなあ。」

「あたしの愛のイラストも受け入れてもらえないのよ~。」

 そこへサトシが通りかかった。

「お二人さんよう、なんかわかんないけど、何か追い込んでるというか追い込まれている節があるから、見守ってやったら?」

「でも差し入れが~。」

「でもキョウさんへの愛が~。」

 ワタシはドアの外がガヤガヤしているから開けて声をかけた。

「皆、何やってんの?」

「あ~やっと開いた。」

「天岩戸の伝説どおり、外で騒ぐと効果あるのね~。キョウさんへ…。」

「いや、そうじゃなくて。集中できないから静かにしてもらえる?締め切りまであと一ヶ月切ってるからさ。」

「えっ…!」

 タカヒト君とみっちゃんがなんかダメージを受けているが、まあいいや。

「悪いね、兄さんもワタシも事情あるからさ。その代わり、完成して一区切りついた頃には梅雨明け宣言も出るだろうからバーベキューでもしよ、ね?」

「あ、あのじゃあ、今日は差し入れを。」

「あたしはイラストの新作をキョウさんへ。」

「あ~はいはい。ありがとね。ケイ兄さんへ渡してあげるから預かるね。じゃ、静かにお願いね。」

 ワタシは用件を済ませるとドアを閉めた。冷たいみたいだが、仕方ない。ワタシ達にはとにかく時間がない。

「そっとした方がよかったみたいだな?まあ、きっと一時的なものさ。」

 しょんぼりとしている二人を見ながら、サトシは慰めるのであった。

「あっ、そうそう。」

 ワタシが再びドアが開いたためか、タカヒト君とみっちゃんはなんか希望にすがるようにした目でワタシを見てきた。しかし、目的は別だ。

「あ~タマ、来た来た。お帰り、部屋に入んなさい。おやつに新発売のアサツキ入りジャーキー買ったからね。」

「ニャ~。」

 今度こそ鍵を閉める。ここは賃貸だしペット禁止だからネコ用ドアなんて気の利いたものはないからね。

「俺たちはネコ以下だったのか~。」

「あたしたちはネコ以下だったのね~。」

「だから、そっと見守ってやれって。」

 何やら外はまだ騒がしいが、ほっとくことにした。期限はあと7ヶ月。何度も言うがワタシ達には時間がとにかくない。

「ニャ~」

 タマはアサツキジャーキーをかじりながらくつろぎ、遊んでいる。とても微笑ましい光景だ。

 それを見ながら、辛い決断も残されている事を痛感するのであった。

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