5-9 タマの選択

「ただいま…。」

 食事会を終えてアパートに戻るとケイさんとタマが移ろいでいた。

「おう、浅葱さんの夕飯は豪華だったか?今日は泊まりだろ?部屋に鍵付けたからそっち使っていいぜ。」

「ニャー」

 タマがワタシの元へ駆け寄ってきた。

「はい、タマ。お土産。あさきゆめみしをもらったわ…。ケイさんにはお持ち帰りでローストビーフアサツキ風味を…。」

「ニャ~ン♪」

「どうした?ごちそう食べた割には暗いな。こっちはコンビニご飯でアッキーはアサツキ入りカリカリフードだったよな。」

「ニャン」

 だめだ、平常心が保てない。

「うっうっ…うわ~ん!ケイさん~!」

 ワタシはこらえきれずに大泣きしてしまった。

「お、おい、どうしたんだよ。」


「そうか、浅葱への道が塞がれてしまうのか…。」

「ニャニャ…。」

 話を一通り聞き終えたケイさんは考えこみ始めた。タマもなんとなく理解したらしく、落ち着きが無く部屋の中をうろうろしている。そしてワタシは半泣きになって動揺している。

「どうしよう。浅葱に来られなくなっちゃう。皆とも会えなくなっちゃう。」

「ニャ~ニャ~」

「敬一郎さんと信次郎さんが連絡とれなくなっちゃう。」

「ニャ~ニャ~」

 ケイさんは相変わらず何か考えこんでいる。ワタシは泣きながらいろいろわめいている。

「そうすると…。」

「もうどうしたらいいのか。」

「ニャ~ニャ~」

「あと7ヶ月か…。」

「タマも故郷に帰れなくなっちゃうし。」

「ニャ~ニャ~」

「だ~っ!!少しは落ち着けっ!二人とも!」

 ケイさんの一喝でワタシ達は動きがストップモーションがかかったように固まった。

「話からすると、もはや取り壊しは避けられないんだよな。」

「う、うん。」

「そもそも俺達がここに通ってる理由はなんだ?」

 それはもちろん決まっている。ワタシは答えた。

「それぞれ音楽と小説の腕試しに。」

「ならば、期限までに結果を出すしかないだろう。」

「え?」

 ケイさんの思わぬ提案にワタシはキョトンとしてしまった。正論なんだが、変人だらけの町に慣れてしまったせいか、ひどく奇妙に聞こえる。

「オレは音楽、たっちゃんは小説。何かに応募するとか、ライブを開催までこぎつけるとか、何かしらの結果だよ。本来の目的に戻るんだよ。」

「確かに本来の目的は最近おざなりになってたけど。」

「何か証を残そうぜ。この街にさ」

「うん…。」

 そうだな、確かに証を残すしかない。

「家財などは少しずつ処分して、皆には親の介護のため引越しということにして去るしかないな。アッキーは…どうする?」

「え?ワタシがS市に連れて行くのではないの?」

「ニャ?」

「俺達の世界にもアサツキはあるけど、ここみたいに沢山あるわけではないし、なんと言ってもココが故郷だし。どっちがアッキーにとって幸せなのか。もしかしたら事情を話せば浅葱さんが引き取ってくれるかもしれない。」

「え…。急に何言い出すのよ。」

「ニャニャニャ??」

 タマは戸惑っているかのように鳴いている。

「アッキー自身に答えを探してもらうしかないよな。」

 …ココは浅葱町。一応、異世界。一気にいろんな課題がのしかかってきた。そういえばこないだ借りた文芸雑誌に新人賞投稿があったな。まずはそれをめくってみよう。

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