5-7 突然の宣告

 ココは浅葱町。一応、異世界。

 その浅葱町の名士である浅葱家の夕食会に招待されてワタシはワクワクしていた。

 ワタシの世界に行ったきり行方不明になっていた浅葱翁の長男・敬一郎さんを見つけ出したお礼に招待されたのだ。残念ながら敬一郎さんは高齢のためこの街には帰れなかったが、手紙などの取次ぎ役をワタシがかっている。

 屋敷に着くと総一郎さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、田中さん。待ってましたよ。」

「このたびはお招きいただきありがとうございます。」

「祖父も待ってますよ。まあ、まずは中へ入ってお寛ぎください」

 ワタシは浅葱家の中へ入っていった。しかし、代々続く名家おは違うもんだな。やっぱお屋敷だし、あちこち高そうな絵画が飾ってある。あの美しいアサツキ畑のシーンとか。アサツキの花の絵とか。あちらは貴婦人がアサツキの花束を持って微笑んでいる。アサツキのネギ坊主は薄紫色でキレイだからな。

 …絵画のアサツキ率が高いのは気のせいだろうか?

 そうしてダイニングルームへ入るとおじいさん達が待っていた。

「おお、来たか総一郎の愛人28号。」

「おじいさまっ!!」

「この世界にもそういうダジャレがあるとは思いませんでしたわ…あ、言ってよかったのかな?」

 今回は浅葱家の夕食会にお邪魔ということもあり、総一郎さんのご両親も同席している。ワタシのことは知っているのかな?

「初めまして。田中さんですね。総一郎の父です。あなたのことは総一郎や義父から伺ってますよ」

 あ、どうも。初めまして。事情を知ってるのねって浅葱一族だから当然か。

「総一郎の母でございます。あなたが田中さんですね。」

「はい、初めまして。」

「こんな馬の骨に総一郎は渡せませんわ!」

 は??

「一族の秘密を知ったからやむを得ないとしても、もっと格のある家の者でないと浅葱家に釣り合いませんわ!」

 えーと、何の話??

「あなたを嫁とは認めませんからね!」

 愛人の次は嫁扱いですか。なんなんだ、この一家は。

「お母様…そろそろ『なりきり昼ドラごっこ』はやめたらどうですか?達子さん、困ってますよ。」

「あら~一度こういうセリフ言いたくってねえ。早く本物の嫁いびりできないかしら。ホッホッホ。」

 ワタシはずっこけた。やはり浅葱町の人間だ、かっとんでる。…もしや?

「もしかして、お母様はお祖父さんの娘でしょうか?」

「ええ、そうですよ。よくわかりましたね。さすが総一郎が見込んだだけありますわね。本当に嫁にならない?」

 …そりゃあ、よく似た親子ですから。ってワタシ、異世界でモテてもこっちに戸籍無いしなあ。

「お母さま、その件はちょっと…まあ、そんなことより食事を楽しんでください。祖父の、というより一族の悲願を果たしてくれた方ですからコックには腕によりをかけました。」

 そうだった。ご馳走、ご馳走とワタシはテーブルに着いた。そうして食事会が始まった。次々と豪華な料理が運ばれてくる。

「田中さん、どうされました?食事は合わなかったかのう?」

 食事会もかなり進行した時、信次郎さんが心配そうに尋ねてきた。

「いえ、とても美味しくいただいてますよ。」

「そうかそうか、せっかく浅葱に来たのだから、アサツキフルコースにしたが良かった良かった」

 えーと、料理を振り返るとアサツキサラダ、アサツキとマグロのカルパッチョ、アサツキのスープ、舌平目のアサツキ蒸しにアサツキのソルベに子牛のグリル、アサツキソースがけ、…ゲテモノではないが。本当にアサツキフルコースだ。…ってコトはデザートは?と思ったら給仕さんが来て配膳をしながらメニューを告げた。

「アサツキのクリームチーズケーキでございます。」

 ああ、やっぱり。い、いかん、気を取り直して話題を振るか。

「ああ、そうだ。敬一郎さんから手紙を預かってきました。今回は更にワタシがカメラを回して映像にしてありますからデータを後ほどお渡ししますね。」

「おお、いつもいつもすまないのう。」

「いえいえ、このくらいしかできませんから。これからも取次ぎますからどんどん言ってください。」

「そうしたいのはやまやまだが…」

 ん?何かあったのか?

「こういう話は食事が終わってからと思い、黙っていたことを許してください。」

 総一郎さんまでなんだ??

「実は…旧浅葱邸の取り壊しが決定しました。」

 な、なんですって!!

 ワタシは食べかけのケーキをフォークごと皿に落とし、ガチャンというマナーとはかけ離れた大きな音を立てていた。

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