5-6 ワタシ、アサツキ三人娘に勝利する。
「カラン♪」
ベルが鳴ったので振り返るとケイさんが珍しく花月堂にやってきた。怖い物見たさにやってきたんだろうな、うん。
「あ~ケイ兄さん、こっちこっち。」
「相変わらずのケーキだなあ。で、どうなってる?」
ケイさんはアサツキ三人娘とワタシのテーブルを眺めながら呆れたように言った。
「え~と、さっきはコラーゲン入りケーキに、貧血の女性向け鉄分強化プリンだったわよ」
「…どうせ、鶏の手羽先ケーキにレバー入りプリンだろ。」
「さすが、ケイ兄さん。タカヒト君のパターンわかってるねえ。」
ワタシは声を落とし、でも隣には聞こえるくらいの声にしてケイさんに告げた。
「(三人娘の顔色がどんどん青ざめていってねえ。でもタカヒト君の手前、言うに言えず引きつっているわよ。)」
「(お前もエグイなあ。)」
「(あ~ら、したコトへの報復をちょこ~としただけよ。)」
「(花月堂の店長だって特注という形でも、タカヒトの試作品を店に出すのは嫌がったんじゃないのか?)」
「(ああ、それは『タカヒト君に女子高生の辛辣なダイレクトアタック批評で現実をぶつけてやりましょう。』と説得した。)」
「お前ってやつは…」
「あれ?キョウも来たの?試食していく?」
タカヒト君がにこやかに次のケーキを持ってやってきた。
「い、いや今日は和菓子と抹茶セットをもらうから、いい。」
タカヒト君はにこやかにケイさんの注文を受けると奥に引っ込んだ。
「…なんだかヘビーな会話をサラっとされていらっしゃるところ、タカヒトさんの試作品はいつもこのクオリティなのですね。ところで、これはわさび漬け入りのプリン?でよろしいのかしら?」
「マジ、キツイんですけど」
「ギブしていい?」
三人娘の顔色がどんどん青くなっていく。ペコさんがたまりかねてワタシにそっと胃薬を差し出していった。
「あの…よければどうぞ。」
「ありがとございます。彼女らの分もワタシが渡しますから。」
ワタシは4人分の胃薬を受け取って、隙を見てそっとテーブルの下に隠しておく。飲ませる訳ないでしょ、クックック。
「お前、どこまでエグイんだよ。」
「あら~タマが受けたコトに比べれば生易しいわ。」
とうとうギブアップしたらしく、三人娘がワタシのそばに立ってきた。
「田中さん、今まで侮辱してごめんなさい。」
「あなたは神認定です。」
「これを平然と食べられるなんて、もはや人間を超えてるとしか思えん。」
「は?」
なんか謝罪はともかく、認識がいろいろ変じゃないか?
「彼女でなければああいうケーキを受け入れませんわ。」
「ツワモノ過ぎます。」
「だから、人間でなければ神ですわ。」
3人の態度の急変に戸惑いながらも慌てて否定する。
「なんか、よくわかんないが神は大げさだよ、3人とも。」
「では、お姉様と呼ばせてください。」
「アネゴ、尊敬いたします。」
「やはりタカヒトさんの彼女は違うわ、パネエ。」
まだ彼女と勘違いされている、違うっつーの。
「だから彼女ではないってば。」
とりあえず、ケーキバトルはワタシが制した。なんか変な流れにはなったがまあいい。
そうして、アパートに帰り、ワタシはタマに安全宣言をしているのでした。
「だから、もう大丈夫よタマ。思いっきり外でアサツキでもなんでもかじっておいで。」
「ニャン♪」
「あ、ネズミは持ち込み禁止よ!」
改めて胃薬を飲みながら振り返ってみた。あのネズミは衝撃的だったが、あれがあったから思いついたのだ。
「しかしなあ、花月堂は評判を落としたのじゃないか?」
「まあ、今回は特注だし。普段は出さないから大丈夫じゃない?タカヒト君は相変わらずゲテモノケーキ作るだろうけどね。」
「ピンポ~ン♪」
これは…噂をすればなんとやらのパターンだろうと思ったらやはりタカヒト君だ。私たちのあとすぐに仕事をあがったのかな?
「やあ、たっちゃん。アサミちゃん達と仲良くなったんだねえ、ケーキおごるなんてさ。今日はこんな機会を作ってくれてありがとうね。」
真実を知らないのは本当に幸せなことだ。ワタシはつくづく思った。
「いえいえ。新作についてはアパートのメンツだけでなく女子高生の意見も必要かな~と。」
「いやあ女子高生向けというか、ちょっと大人の女性向けだったかな。でも好評そうだったね。」
やはり懲りてないな、こやつは。
「(ケイさん、言ったとおり懲りてないでしょ)」
「(ああ、ありゃダイレクトアタック受けても最終奥義をくらってもHPのダメージは0だ。)」
ワタシ達がヒソヒソしていると、タカヒト君はいつものにこやかな笑顔でケーキの箱を取り出した。
「でね、彼女達お腹一杯だというから出せなかったネギミソケーキを持ってきたんだ。お土産に持たせようとしたら断られるし。もちろんアッキーへのネコ用アサツキケーキも作ってきたよ。」
「ニャ~~~ン♡」
その手には今日は乗らない、なぜならば先約があるからだ。
「あ、悪い。ワタシ、これから浅葱さん家の夕食会に招待されてるんだった。行ってくるね。タマはケーキいただきなさいね。」
「こら~!!オレにケーキ押し付けるんかいっ!」
後ろでごちゃごちゃ言ってるが、ご馳走のためならぶっちぎるのみ!ワタシはそのまま部屋を脱出した。
「…なあ、キョウ。達子さんはホントに浅葱さんとは何にもないのか??なんか隠してないか?」
「まあ、その、二人は付き合っちゃいないさ。あ、ある依頼を片付けたから浅葱さんはたっちゃんに一目置いてるんだ。」
「ニャンニャン」
「アッキー、お前もなんか隠してないか?」
「ニィ~~」
取り残されたケイ兄さんがタカヒト君とケーキをなんとかするだろう、うん。今日のバトルに耐えたのも今夜の夕食会があったからだ。きっとご馳走が沢山出るに違いない。楽しみ、楽しみ。しかし、そこで衝撃的なことを聞くとは夢にも思いもしなかった。
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