5-5 ワタシの逆襲

 ココは浅葱町。一応、異世界。

 ワタシは今週も花月堂に来ていた。最近はたまり場と化したアパートからの避難先と化している。図書館かここで執筆する率もあがってきたな。

「いらっしゃいませ~。あら、達子さんいらっしゃい。いつものセットですか?」

「いえ、ちょっと人を待ちますわ。そこで注文します。長居するかも。」

と、ペコさんに答えた時であった。

「タカヒトさん待ちでございますの?お熱いことですわね。」

「ホント、見せ付けてくれるわよねえ」

「家でも新作ケーキ作ってくれて食べてるっていう。どんだけ食ってんだよ!」

 …この声は。長居の必要はなさそうだ。とりあえず先制パンチをかましておくか。ワタシは彼女らの隣のテーブルに移動した。

「あらあ、アサツキ三人娘の皆様。こないだはうちのタマにアサツキをありがとね。」

「何のお話でしょうか?」

「学校ではネコいじめの苦情が入ったとかで叱られたのと関係あるぅ?」

「それが動物愛護に変わってるワケぇ?ウケるw」

 つくづく思うがこいつらは三人一組でしかしゃべれんのか?しかも、いつもアサミ、ツグミ、キリの順番でしゃべってくる。ここまでくるとプログラミングされたアンドロイドかもしれない。いや、そんなことよりも手持ちカードを発動させよう。

「そこでね。お礼にここのケーキをおごりたいと思うのよ。いいかしら?」

「まあ、よろしいのですの?お人よしではございませんこと?」

「ゴチになれるの?ラッキー♪」

「今食べてるケーキをおごりじゃないの?」

 ワタシはニヤリとしながら答えた。

「ううん、それとは別にタカヒト君に協力してもらって彼の試作品をアソート形式で。」

 その瞬間、ペコさんの表情が凍りつくのがこちらからも見てとれた。

「ええ!!ま、まさか。あれですか?!あれは店長から一般には出すなと言われてる…。」

「ペコさん、ご安心を。ワタシの特注ってコトで店長から承諾とってます。」

 ペコさんはこれからの予感に震えている。

「なんて恐ろしいことを…。」

 ワタシはアサツキ三人娘に向き直って説明を続けた。

「ただし、ワタシもお財布に限度あるから飲み物はお代わり三杯までね。…まあ、最大限の情けよ、うん。」

「ドリンク三杯もあれば充分ですわ。ってそんなに飲みますの?」

「わあ、タカヒトさんの新作かあ。」

「でも情けって言ってたよな…??ペコさんの青ざめ方も変だし。」

「タカヒトく~ん、準備できてる?そろそろいいよ~。」

 タカヒト君がにこやかにケーキを持ってきた。さ、彼女らには真実を知ってもらうか。

「はいはい~。いやあ、アサミちゃん達にも出せるなんて嬉しいね。ではまずはこれね。」

そう言ってテーブルの上に運ばれたケーキを見て彼女らは戸惑っている。

「…?」

「あの、これは?」

「なんか…独特のにお…香りが。」

「うん、フィッシュケーキ。使った魚はシャケ。ほら、いつかなんかのゲームで主人公が作っていたのを再現したんだ」

 まあ、まともな方よね、とワタシは食べていく。洋食の白身魚のムースみたいなものに砂糖の甘味が思いっきりミスマッチだが。

「ど、独特な味わいでございますわね。」

「(うぐぐっ)なんか微妙な味…」

「うそお、あの人、平気な顔して食ってるよ。」

アサツキ三人娘の顔がひきつっていく中、ワタシは淡々と食べていた。そうしているうちにタカヒト君が次のケーキを持ってきた。

「お次はお好みタルト。」

「お好みタルトとはどんな物ですの…?」

 アサミはひきつった顔で質問していくが、タカヒト君はもちろん気づかない。

「キャベツとカツオ節と紅ショウガがポイントで上にはお好みソースがかかってるよ。」

「なんだ、プチお好み焼きじゃ…うぐっ」

 ツグミが一口食べてむせたようだ。

「し、下がカスタードクリームぅ~?ってソースと合わな…。」

 お好みタルトを完食したワタシは彼女らのテーブルを見渡し、あたふたしている彼女らにワタシは精神的ダメージを与えることにした。

「あら~3人ともドリンクがもう二杯目が空になったわね。ちゃんと配分を考えなくちゃ。ククク…。」

 いかん、邪悪な笑いがこぼれてしまった。

「なんで平気な顔して食べてるんですの?!」

「…慣れかしらねえ。ちなみにケーキはまだまだ続くわよ、フフフ。」

クックック、こちとら伊達に毎回食わされてるから耐性ができてるんだよ、キャリアが違う。

「げええ。慣れっていつもこんなのなんだ。」

「てっきり嫌がらせにこさえたかと思いきや、いつもこれなんて。」

「あらあ、3人ともどうしたの?憧れのタカヒト君の新作ケーキ三昧で嬉しくないの?フフフ…。」

 アサツキ三人娘は青ざめて否定にかかってきた。

「こんなの嬉しくな…。」

 しかし、絶妙なタイミングで新しいケーキをタカヒト君が持ってきた。

「やあ、アサミちゃん達、新作はどうかな?店長にはなかなか認められないんだけど、女子高生の感性ならどうかな、と思って。」

 三人は慌てて言葉を引っ込めて作り笑いを浮かべ始めた。憧れの人の前じゃあんな本音は言えないわな。

「う、嬉しいですぅ。タカヒトさんの新作が食べられるなんて。」

「そっかあ。じゃあ次はパセリを使ったショートケーキ。スピニッジトルテというほうれん草ケーキのほうれん草の代わりにパセリを使ったよ。」

「「「ぱ、パセリ臭い…。」」」

「はい、3人ともドリンク3杯目が空ね。あとはお冷でなんとかしなさいね。

 あ、それからケーキはまだ続くからね。ホ~ホホホ。」

「ですから、何故平気で食べていられるんですの!?」

 まあ、サイフは寂しくなるが、肉を切らせて骨を絶つ戦法「ありがた迷惑攻め」はほぼ成功したようだ。

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