5-2 ワタシ、女子高生攻略法を探す

 花月堂でタバコ臭いティータイムを終え、図書館に着いたワタシはひたすら雑誌や書籍を山積みにして調べ物をしていた。小説の執筆の前にあやつらをなんとかせねば。

「相変わらずねえ。フリーター兄弟の妹の方、略してフリーター妹。それから雑誌だけどバックナンバーでもあまり独占しないでね。」

「シキブ姉さん、ワタシには田中達子というれっきとした名前があるんですが。」

「で、今日は何を題材にしようとしてきたの?」

「女子高生攻略法を少々。」

「…とうとう、サイトの閲覧数が増えないからって、そこまで追い詰められたのね。」

 シキブ姉さんは何か勘違いしているようなので、慌てて打ち消しにかかる。

「いや、ちょっとそこの浅葱女子高の子達との攻防戦に巻き込まれてしまったんで。」

 シキブ姉さんがため息をつきながら、一冊の雑誌を手渡してきた。

「そんなことばっかしてないで、本業の小説に精を出したら?ほら、例えばこの小説雑誌『葱花そうか』の懸賞なんか締め切りが3か月後で大賞には賞金100万と書籍化に、デビューとかあるわよ。」

 …雑誌名までネギに関する和名なのかよ。とはいえ、貴重な情報だ。

「じゃあ、その雑誌と女子高生モノを何点か借りますわ。その前に閲覧していきますね。」

「なんかその言い方だとエロいわね。」

 そうだった、ワタシには小説家を目指すという目標があるのだった。いけない、いけない。異世界この町に慣れたせいか、人探しをしていたせいかだらけてしまったなあ。じゃ募集概要を読み…あら、このティーン雑誌に花月堂が載ってる。「今、イチオシのスイーツ!」か。あそこも全国区なのかしらね。

 早くも脱線したが、まあちょこっとだけなら読んでもいいか。

『洋菓子部門の職人の藤間孝人さん(29歳)はなかなかのイケメンで街の人気者…』

 …正体を知らないって幸せなことだ。って、今更ながらタカヒト君のフルネームを知った。まあ、やはり認識は馴染んだ『タカヒト君』だな。

『またこの店員さんのユリアさんも看板娘で、華やかな笑顔の接客には癒されるという男性ファンも多い。ちなみにオレンジ・ペコーが好きなのでペコさんと呼ばれており、名札もしっかりと『ペコ』と書かれているほど…』

 あ~さっきのウェイトレスさんだ。確かに可愛かったな。甘味処なのに男性客が多かったのはそのためなのか。何々、お勧めスイーツは…。

「あら、あの人もいらっしゃっていますわね。」

「行動被るなんてムカつく~。」

「スクールティーンなんて読んでいるけど若作りぃ?痛いっすね。」

「クスクス…」

 …この声は。

 顔を上げるとアサツキ三人娘がいた。今日は厄日なのかもしれない。

「小説の資料よ。ワタシだって女子高生に戻ろうなんて思っちゃいないわよ。」

触れちゃいけない気がするが反論する。ここでも彼女らは妨害を入れる気なのか。

「そんなことおっしゃっても、お家に帰ったらアンチエイジング物が沢山あるのではありませんこと?」

「せめてカッコだけでも若くしないと!って変に若向けの服着てたりして。」

「だめだよお。ホントに若い人は若向けとか、若いって言葉使わねーよ。」

「まあ、それも、そうですわね。」

「クスクス…」

 うーん、これはオバサン扱いする精神攻撃かしらね。

「…15年後には自分達に跳ね返ってくる言葉なのにね。人って儚いなあ。」

 遠い目をしてしまった。が、言ってることは事実なので若いうちにやっておけることはやらないとならない。

「(なんかノーダメージですわね。)」

「(普通は年を言われると逆上しない?)」

「(作戦変えない?)」

 何やら三人はひそひそ話をして遠ざかっていったため、気にせずに本に集中でき、雑誌を数冊ほど借りて帰ることにした。

 さて、家に帰って夕飯でも作るかね。今日はおでんにするかな~。それともケイさんは最近太ってきたし、ヘルシーにするかな~。最近は夕飯を作り、タマにご飯を食べさせてから帰ることが多い。こうしてギリギリまで調べものしているのと、タマを空腹にさせたまま帰るのは忍びないからだ。

 そう考えながらアパートに帰った時、廊下でサトシさんに会った。相変わらず一目でわかる格好をしているが通報されなかったのだろうか。

「サトシさんこんばんは。今日は首を絞められた役でしたか。」

「え?よくわかったね。久々に共犯者で仲間割れして殺される役でね。まあ、番組で言うと30分くらい出られたよ。」

「少し長く出られるようになったんですね。…ってそれより首のヒモとアザメイク落とした方がいいですよ。」

「って、それよりたっちゃん。そろそろアッキーへのしつけを解いてやったら?」

 へ?しつけ?何の話だ?

「ウニャ~ウニャ~」

 ん?あれはタマの声?どうしたんだ?

「皆、かわいそうとか言ってるんだぜ」

 か、かわいそう?何のことだ?

 ケイさんの部屋を見ると、そこにはドアノブに首輪に犬のリードを付けられたタマが居た。一定の距離は進めないし、上がれない。

 そして絶妙な位置の届かなさでアサツキがぶら下がっていた。手に届きそうで届かないタマが必死に取ろうとして鳴いていたのだ。

「うわ!な、なんて姑息な嫌がらせを!タマ、今外してやるからな!」

「ニャ~ニャ~!」

 よし、なんとか外れた!

「ほら、アサツキを外したぞ!これで食べられるからな。」

 なぜかサトシさんとタマがずっこけている。必死になってやったのに何か変なことをしたのだろうか。

「おい、外す順番逆だろう。しかし、しつけじゃなかったのか。」

 あ、しまった。そうだった、タマのリードを外してやる。

 よしよし、かわいそうに。こんな事、一体誰が。このアパートにはネコ嫌いはいないハズだし。

 …そういえば、さっきのアサツキ三人娘どもの『作戦変えない?』のセリフ。まさか、彼女らの仕業?証拠はないが、ネコ連れのときに絡まれたからワタシのネコは知ってるはずだし、タカヒト君経由で知ってるかもしれない。

 …そうか、そうかアサツキ3人娘。絶対に許すまじ!

 ワタシがさらに敵愾心を燃やした瞬間だった。

「なんかたっちゃん怖いんですけど。」

「ニャ~」

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