第2章~浅葱町の個性的過ぎる住民達~

2-1 浅葱町通い第1日目

 今日は土曜日。いつもの週末…ではない。ワタシはあることがきっかけで存在を認識した異世界「浅葱町」へ行くことにした。

 今週は曲作りで『セッション部屋』に籠ることにしたとケイさんから連絡があったからだ。

 ケイさんには確か妻子がいたはずだが、家族にも異世界の存在は伏せてるらしい。「説明がめんどくさい」が理由らしいが、なんとなくわかる気がする。確かに異世界というものが実在することへの理解してもらうことへのハードルの高さ、あの異世界のトリッキーさ。確かに説明がめんどくさい。

 ちなみにワタシの存在は仕事部屋に出入りすることになったと奥さんには言ったらしいが、顔写真見せたら『まあ、いいでしょう。』とOKが出たらしい。さりげなく失礼な気がするが、これでいろいろ気にすることは無くなった。

 ワタシは小説を書く道具をカバンに詰め始めて支度をした。ワタシはアナログな人間なので鉛筆と原稿用紙などをチョイスした。ちょっと重いがこれからのことを考えれば苦にならない。

 原稿用紙は次回からは浅葱町で調達すればいいだろう。辞書も浅葱側だと違うかもしれないから本屋に寄って覗いてみよう。

 そうしてワタシは建物がある場所までの電車に飛び乗った。

 さあ、非日常の始まりだ。あのトリッキーさは気になるが、浅葱町をいろいろ探索してみたいし、旧浅葱邸も調べたい。それだけでも小説のネタになりそうだ。

 ワタシの住むS市からは中継地点の建物までは電車などで一時間、浅葱邸からケイさんのアパートまでは約十五分。ちょっと不便だね。かといってローラースケートやキックボードで移動する訳にもいかない。アラサーにもなるといろいろめんどい。


 そうしているうちに建物に到着した。こちら側の建物は何の建物なのだろう?正直言ってわからない。こうやって入れるからには旧浅葱邸と同じような建物なんだろうけど。ま、いっか、そのうち調べよう。まずはこれから行く浅葱町が優先だ。

 建物に入ると途中で感覚が変わるのがわかる。多分その感覚が浅葱異世界に来た証であり、旧浅葱邸に入ったことなのだろう。

 この旧浅葱邸はいつ来ても閑散としている。寂れ切っているから赤字で閉鎖になりそうなくらい閑古鳥が鳴いている。

「ま、ワタシが心配することじゃないわね。人目を気にせずに移動できるし。」

 そうして旧浅葱邸の扉を開けて浅葱町へやってきた。天気も連動しているのかな。元の世界と同じようにこちらも晴れている。今度比較してみよう。

 ここからケイさんが拠点にしているアパートまで歩く。途中で本屋に寄って本を覗こう。そう考え、ワタシは歩き出した。

 歩いて間もないところに個人経営っぽい「浅葱書店」という看板がかかったお店を見つけた。中を見ると本屋のようで店主らしい人が一人で店番をしている。

 とりあえず入ってみよう。お目当ての辞書が無くても、こちらの雑誌や小説でも買えばいい。

「いらっしゃい。」

 店主は三十代半ばの男性であった。店内が気のせいかネギ臭い。…いや、この町のことだから、きっとこれはアサツキの匂いだ。

 よく見ると店主はアサツキを食べながら店番をしていた。脇をみるとアサツキを五センチくらいに切り、それをアサツキで縛ったものが皿に積まれており、それをつまんでいるようだ。

「何か?」

 ワタシの視線に気づいた店主が話しかける。本屋で飲食は良くないのでは…いや、突っ込みどころはそこではない。

「あの、なんでアサツキを生のまま食べてるのですか?」

「そりゃ、好きだから。」

 好きって、そんな、えーと。

「いえ、ガムみたいに食べるものなんですか?アサツキって。」

「ほら、どっかの議員は青じそが好きでガムみたいにたくさん用意しては食べてるだろ?あれと同じだよ。」

 あの青じそ議員もよくわからないが、同列に扱われても。いや、ここは浅葱町だ。アサツキが好きすぎるのは前回も目の当たりにしたはずではないか。突っ込み入れるのも野暮なのでワタシは話題を変えることにした。

「はあ、ところでこちらでお勧めの小説ありますか?コンパクトに文庫本がいいのですが。そうですね、ジャンルはラノベで。」

 なんとなく予想はつくが、聞いてみる。

「そうだね、朝月ゆうなの『異世界に転生したらアサツキだった件』は読みやすくていいよ。」

 …やはりアサツキか。よく考えると作者名もアサツキ入ってるし。

「その朝月ゆうなさんって浅葱出身ですか?」

「そうだよ、彼女のアサツキシリーズはなかなかいいね。」

 …まあ、異世界の勉強と思って買うか。

「じゃ、それ下さい。」

「さらに言うと朝月ゆうなは僕の従姉妹だ。」

 身内かいっ!ちくしょう、なんか乗せられた気がするが、買うか。

 のっけからアサツキと変な人に遭遇してしまったが、ケイさんのアパートへ向かわないと。

 ワタシはさらに商店街を歩いて行った。

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