1-7 決意はアサツキと共に

『S県浅葱町あさぎちょう。S県の北部にあり、寒冷な気候のため耐寒性に優れた浅葱アサツキの栽培が盛んな町である。

 浅葱の名前の由来は江戸時代から浅葱アサツキの栽培が盛んであったことと、戦国時代に浅葱氏が統治したからという説、飢饉の際に大量に植えたアサツキによって村が救われたためとする説と諸説あるが、はっきりしない。

 廃藩置県により浅葱藩からS県浅葱郡浅葱村が誕生。

 昭和12年、町制導入につき「浅葱町」になる。

 呼び名も「アサギ」「アサツキ」とバラバラであったが昭和24年浅葱町あさぎちょうと統一。

 ただし、昔ながらの地名や字に「アサツキ」と発音するところもある。

 浅葱藩主、浅葱信勝の子孫でもある浅葱英一郎の尽力により、経済が飛躍的に発展。また、晩年は芸術振興にも力を注いだ。

 近年、平成の大合併の影響で隣のくれない市、群青ぐんじょう市との合併も検討されたこともあったが、住民投票の結果、98%の反対票により合併は白紙になった。近年はアサツキの品種改良を行い、アサツキの栽培期間を延ばすことに成功した。通年栽培を目指し、野菜工場の本格稼働が待たれる。

(略)

 人口12万人

 面積12.33k㎡

 町の草「浅葱」

 名産物「浅葱」

 町の花「葱坊主」

 姉妹都市「萌葱市(G県)・チャイブ市(アメリカ)」

 マスコット「アサ君とツキちゃん・平成27年制定。平成27年度ゆるキャラグランプリ3位、平成28年度12位。』


 …もはや突っ込みを入れる気は失せた。ご丁寧に本の装丁もネギの香りが漂ってきそうな浅葱色である。そりゃあ、これだけアサツキにこだわってるから合併には反対するよね。名前は消したくないでしょ、うん。

「この世界でもゆるキャラは流行っているよ。」

 ぐったりしたワタシを見ながら笑いをこらているケイさんが突っ込む。

 そういう突っ込みどころがあったか。って違うっ!

「アサツキに対する並々ならぬ努力は判りました。道理で夏が近いのに町中にアサツキが植えてある訳だ。」

 ワタシは疲れきった声で答えた。なんだろう、座って読んでいただけなのにえもいわれぬ疲労感がする。

「ちなみにシーズンオフは葉ネギの若芽で代用しているが、ハウスアサツキや野菜工場製のアサツキも高いが出回っている。」

「つまり…いつ、どこへ行っても…。」

「アサツキだらけってことさ。」

 ううっ、確かに異世界だ、文句無しの異世界だ。ワタシは机に突っ伏した。


「で、どうする?来るか来ないか。」

 場所は変わり、ここは浅葱町のお好み焼き屋。どこ行ってもアサツキばっかの予感がしたので、ワタシが『アサツキが入っていても食べ物が美味しい店にしてくれ。』と頼んでこの店にしてもらい夕飯を食べている。浅葱町の名物「浅葱焼き」をつっつきながらワタシは考えた。ネギ焼きのネギがアサツキに変わっただけで違和感なく美味しい。でも、トッピングが青ノリではなく、アサツキだが。アサツキサワーやアサツキハイも置いてあるが、さすがに普通のビールを飲んでいる。

 あ、ちなみに割り勘です。ちゃんと通貨は同じだから払えるし。でも、クレカは使えないだろうから、これからは現金を多目に持ち歩かないとな。

 ケイさんに尋ねられた答えは既に決まっている。ワタシは口の中に入れたアサツキ焼きをビールで流し込んで答えた。

「今度、この町に寄る時に連絡ください。ケイさんの活動拠点を間借りします。あ、日帰りにするから泊まることはしませんのでご安心を。」

「本当に来るのかい。リピーターは君が初めてだな。」

 彼は少し驚いて答えたが、ワタシは淡々と答える。

「やっぱり小説とかの腕試しをしたいし、微妙な違いはアサツキに慣れれば…まあなんとかなるでしょう。ネタにもなりそうだし。」

「それはどうかな。フッフッフ。」

 彼は不敵な笑みを浮かべるということはまだこの街には何かあるのだろうか?

 ワタシは不安を抱えながらも、今後の活動をどうするかと不思議にワクワクするのであった。

「はい、お待たせしました。アサツキハイ二つでーす。」

「じゃ、新たなる門出を祝って。アサツキハイでかんぱーい!」

…やはりアサツキなんですね。

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