2―2 いきなり修羅場?!
本屋を後にしてワタシは歩き続けた。商店街の中程に入ってきたのか、だんだんお店が増えてきた。あの本屋は商店街の入り口だったわけだ。美味しそうなパン屋やケーキ屋もあるが、あとでじっくり探索するとしてケイさんのアパートに向かう。
ところで、異世界の概念などは普通は通用しない。だから、ワタシも彼もこの世界の事は家族や友人には言ってないし、何かで告げなくてはならなくなったら「友人の所に遊びに行く」とか行って出てくる。それはこの世界の住人に対しても同じだ。
憧れの人ではあるが、ケイさんは妻子持ちだし、同じ秘密を知って似たことをしているから二人の関係は?と聞かれたら「腕試し仲間」と言ったところだろうか。そりゃ、憧れの人ではあるが、ワタシは既婚者に手を出す主義ではないからなあ。泥沼にわざわざ飛び込むほどMではない。
しかし、二人の関係をどう説明していいのかわからない輩もいるものだ。
今、アパートの入口にて泣いている女性が正にそうであった。
「いつの間に彼女ができてたのよ、私というものがありながら~。」
この女性は名前はみっちゃん。たった今ドアの前で鉢合わせたばかりなので、これ以上の情報は詳しく知らない。
ケイさんは困り顔でとにかく、ワタシとみっちゃんを中に入れようとしているがみっちゃんは興奮していてうまくいかない。
で、鉢合わせたワタシを彼女と思いこんだらしく、ひたすら泣いている。
「え~とですね、ワタシは田中達子と言って、長岡の…。」
「そんな…『彼女です』ってハッキリ言えばいいじゃない!!ひどいわ。」
…ダメだこりゃ、全く通じない。しょうがない、出任せ言ってしのぐか。
元の世界では妻子が居ると知ったら、このみっちゃんは卒倒するよなと思いつつ、オロオロするケイさんを尻目にワタシは、言いにくそうな顔を作り、シビアな口調で切り出した。
「…あの、実はワタシは妹なんですわ。」
みっちゃんは一旦泣き止み、訝しげにワタシの顔を眺めている。
「でも、似てない…。」
ワタシは反論を待たずに畳み掛けた。
「ああ、異母兄弟なの。ワタシの母親と彼の父親が違ってて。」
「それって異母兄弟ではなく他人と言わないか?」
ケイさんがツッコむので彼に睨みを効かせながらワタシは続けた。ワタシの睨みは人に言わせると
みっちゃんに対してはしおらしさを継続する。
「それで、ワタシ、会社辞めて小説家になるといったら、父親とケンカになってね。
『何寝ぼけたコトを!!』とか言われて否定されまくって、カーっとなって。とりあえず家出して兄のアパートに来たってワケ。」
「でも、…。苗字が…」
みっちゃんはまだ怪しんでいる。こうなったらとことん出任せで切り抜けるべし。
「異母兄弟だけど、両親は籍を入れてないの。まあ、母が、その、不倫関係の時に産んだ子がワタシで…その、なんか夫婦別姓にしたいからとか言ってたけど。言いにくいから黙ってたんだけど」
「そ、そうなんだよ。オヤジ達が小説書くのを理解してくれないとかってな?」
「はあ、父さんもワタシをさっさと嫁に出したいんだろうけどな。」
ケイさんはやっと察したらしく、合わせてくれている。ちょっと遅いよ。
「なあんだ、そうだったの?あたしってば勘違いしちゃった。ごめんなさいね、言いにくいことを言わせちゃって。あたしはミチヨ。このアパートの二階に住んでてイラストレーターやってるの。よろしくね。じゃ、一緒に中に入りましょうか。」
なんとか信じてくれたようだ。みっちゃんことミチヨさんはすっかり泣き止み、明るく挨拶をした。
「よ、良かった。いらん修羅場を回避できて。しかし、よくとっさにあんな話を思いついたな。」
ケイさんがこそこそ耳打ちしてきた。
「まあ、即興でね。」
「…やっぱ小説家になれるよ、あんたは。」
「その前に、この世界でも単身赴任とかなんとか言って妻子がいるって明かしたらどうですか?まさかこの世界でみっちゃん以外にもいろいろ遊んでるじゃないでしょうね。」
ワタシは再び
「い、いや彼女はご近所さんの一人で一方的に押し掛けてくるけど、とてもそんな関係では…。」
「何、二人でコソコソ話しているの?」
みっちゃんが疑惑の眼差しを向けてきた。
「い、いや、オヤジについてオレが説得しようかって話をね。」
「いいよ、兄さん。お父さんが折れるまで帰らないから!!」
はあ、役者にもなれるなワタシって。まあ、成り行き上おかしな展開になったが、兄妹にすれば入り浸っても怪しまれなくなったし。怪我の功名かな。
今回は異世界らしさはなか…。
「達子さんだっけ?そんな大変な身の上とは知らずにごめんなさいね。ほら、お菓子買ってきたの。一緒に食べましょ。花月堂のアサツキシュークリーム。」
…ココは浅葱町。やっぱ異世界だ。あ、アサツキシューってどんな味なんだろう。やっぱ美味しいって顔しないとならないよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます