2-3 変態ケーキ職人現れる

「ふうん、ミチヨさんはいろんなイラストを手がけているんだ。」

 アサツキシューを食べながら、みっちゃんと雑談に花咲かせているワタシ。アサツキシューは皮にアサツキのみじん切りが入っており、カスタードクリームもアサツキペーストを混ぜ混んだ緑色以外はそんなに普通のシュークリームと変わらない味…のハズだ。変わらない、変わんないと、言い聞かせながら食べてるので微妙に変な顔になってるのが鏡を見なくてもわかる。

「そう、この町のマスコットも私が手がけたのよ。」

「ぶはっ!!あのアサ君とツキちゃんかい!」

「あら吹き出してどうしたの?」

「き、気管にクリームが入って。ゲホゲホ。」

 い、いかん。なんて狭い世界なんだ。

「あのおかげで仕事が少しずつ増えたのはいいけど、忙しくなってね。キョウさんのライブもなかなか行けなくなって。熱い気持ちを少しでも伝えたいんだけど。」

 はあ、熱烈なファンが居たものだ。ところで名前が“キョウさん”?こちらではケイさんじゃないのか?後で確認しようっと。

「ケイ…兄さんは結構こちらで活動してるんですねえ。最近は連絡取ってなかったから、どんな活動してるかわからなくてさ。」

 とっさに異母兄弟と言った手前、とりあえず無難にとぼけてみせた。後で基本設定は口裏合わせないと。とりあえず、何か話題を反らそう。

「そ、そうだ。このアパートってご近所付き合いが活発なんですね。うちの実家とは偉い違いだわ。」

「まあ、ここはちょい田舎だしね。それにこのアパートはあなたのお兄さんや私みたいに駆け出しのクリエイターが多いのよ。102号室のアベちゃんは役者目指してるし、203号室のニシカワさんはヒップホップやってるわ。あと、205号室のカシワギさんは芸人目指してるわね。皆、ギリギリの生活だから業務用スーパーで食べ物を共同購入してシェアしたりするから付き合いは多いのよ。」

「なんだか名前がどっかで聞いたコトある人ばかりのような…。まるでここは“平成版トキワ荘物語”だなあ。」

「ああ、トキワ荘物語って確か格闘家のタマゴ達が山奥のトキワ荘に篭って血のにじむような合宿をした話よね。あそこまでは壮絶じゃないけど。」

 タイトルは同じでも内容は120%違う。後でこの世界の主な小説も読破せねば。

「それでこのシュークリームは301号室のタカヒト君が作ったの。タカヒト君は街のお菓子屋さんに勤めているからタマゴではないわね。これは彼が手掛けた新作なんですって。」

「へえ、お店で新作出せるんならなかなか出世頭だね。」

 …味の方は置いといて。

「でも、時々新作の試食させられるのがちょっと…。」

 みっちゃんがため息つくので、ワタシは疑問を挟んだ。

「なんで?お菓子タダで食べられるし、お店に出る前の新作が味わえるのならいいじゃないの?」

「まあ、そのうちわかるわ。…そのうち、ね。」

 なんだ?この意味深な言い方は?

「ああ、アイツの試作品はちょっと、な。」ケイさんまで、何よ。二人そろってどんよりな顔をしちゃって。

 その時タイミング良く、ベルが鳴った。

 ♪ぴんぽ~ん

 誰だろう?ケイさんがインターフォンで応答している。

「おう、タカヒトか。ちょうど今、噂してたんだぜ。カギ開いてるからそのまま入れよ。」

「ちわ~っす。やあ、みっちゃん、相変わらずキョウに付きまとってんの?あれ?新顔が居るね?」

 そこには爽やかイケメンが居た。年の頃は二十代後半ってところか。この人が今うわさしていたタカヒトさんか。

「初めまして。長岡の妹の達子と言います。」

「へ~妹が居たんだ。俺は301号室にいるタカヒト。パティシエってほどではないが、ケーキ屋に勤めてるんだ。商店街の中に和菓子と洋菓子を扱ってる花月堂って店。キョウとも仲良くさせてもらっていて、こうやって遊びに来るんでよろしくな。」

 …今、思えばこれが波乱というか、地獄の入り口であった。

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