2-4 彼のあだ名は(味覚の)破壊神
「ウワサをすれば来たか。」
「来たわね」
ケイさんとみっちゃんは耳打ちしている。何をそんなに恐れているんだろう?
「えーと、タカヒトさんでしたっけ。お話は伺ってます。このシュークリームもあなたが作ったとか。」
そう切り出すと彼は嬉しそうに頷いた。
「そうなんだ。久しぶりに新作のアイディアが店長に認められて。今までいろいろ作ったんだけど、これは浅葱の町らしいってね。」
彼はイキイキと目を輝かせて話している。本当にケーキ作りが好きなんだなあ。なのに、なんで二人は嫌そうな顔しているのかしら。
「それより、新しい試作品を作ったからまた試食してもらおうと思って。」
そうタカヒトさんが切り出してケーキの箱をテーブルに置いた途端、さらに二人がうろたえ始めた。
「あ、悪い、俺はちょっと歯が痛くなったからパス。」
け、ケイさん?何で及び腰なんですか?
「あたしもちょっと今、ダイエット中なんだ。これ以上は食べられないわ。」
え?みっちゃんまで?
「そっか~しょうがないな。じゃあ達子さんにモニターになってもらいましょう!」
なんか二人の様子から怪しい予感しかしない。しかし、うまい切り抜け方も思い付かないからとりあえず食べてみることにした。
「では、最初にチーズケーキをどうぞ。」
どれどれ、では、いただきま~す。パクっ。
……………。
「あの、気のせいか、トマトとバジルの味と香りがするんですけど。」
「そ、イタリアン風。ほら、カプレーゼをイメージしたの。」
…素直にカプレーゼを食べた方が早くない?
「つ、次行きます。このチョコソースのかかったやつ。パクッ…これ、チョコじゃない。」
「これは和風に生姜醤油ソースをかけた豆腐ムース。アサツキがポイントだよ。」
…この人のセンスって一体。ってやっぱりアサツキがさりげなく混ざっているし。い、いかん気を取り直して他のケーキを食べよう。
「こ、これは何だろ?柚子の皮が乗ってるケーキだ。パクッ…柚子は柚子でも柚子胡椒の辛味が広がるんですが。」
「それは柚子胡椒のケーキ。」
遅まきながら二人が逃げた理由がわかった。このタカヒト君は独創的過ぎてもはや破壊的なセンスの持ち主なんだ。
「こうして新作を週に3、4個くらい思い付いて試作品を作るんだ。でも、店長には新作はなかなか認められなくて。」
そりゃそうだろうな、こんなケーキばっかりじゃ。
「た、確かに、ど、独創的ですねえ。いろいろ斬新です。」
めまいがしてくるのをこらえてワタシは言った。言葉とは裏腹に無意識にお茶に手が伸びる回数が増えていくけど。
「そうだろ?わかってくれた?」
いや、理解してのコメントじゃないですから。しかし、彼はワタシのそんな本音には気づかずに嬉々として言った。
「いやあ、完食してくれた上に理解してもらえたから嬉しいな。また今度沢山作るから試食してもらえる?」
…子供の頃、親から「食べ物は残しちゃいけません」としつけられたのが災いした瞬間でもあった。
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