2-5 身だしなみは大事
「うえ~確かに独創的だが破壊的なケーキだわ。」
二人が帰った後、ワタシは口直しのポテトチップスをかじりながらぼやいた。ちゃんとアサツキポテチではない、コンソメポテチを選んだのは当然だ。ケイさんの家にもアサツキモノが結構あるから、慣れてくるとこうなるのだろうか。
「タカヒトも普通のケーキ作らせればすごいんだけどなあ。結構いい男だから彼のファンも多いし。」
ケイさんはワタシのおかげで難を逃れたのでニヤニヤしながら答える。
「ふむ、つまりタカヒトさんは腕と顔は良くてセンスは悪し。天は二物を与えずというが、神様は絶妙なバランスを取らせますなあ。二物与えてもハンデも忘れない。」
ワタシがそう言うと、ケイさんはゆっくり首を振りながらまるで呆れたように答えた。
「なんか違うぞ、それ。」
何が違うのだろう?実際その通りじゃないか。
「あんなケーキばっかり売ってるの?よく、まあ店が潰れないね。」
ワタシは濃いめに入れ直したお茶をすすりながらケイさんに問いかけた。
「いや、普段は店長の指示通り作ってるから、売り物はまともだぞ。」
「そりゃあ、彼に任せたら“チンジャオロース入りロールケーキ”とか“マーボータルト”とか並びかねないよね。」
「ああ、それはオレがこのアパートに引っ越して来た時に食わされた。」
「…適当に思いつきを言っただけなのに既に閃いてるとは。恐るべし、タカヒトさん。」
あ、そうだ。あれも確認しないと。
「そういえば、ケイさんはこの世界では本名なんですね。」
「ああ、まあな。」
「で、ケイではなくキョウと呼ばれてたけど?」
途端にケイさんの顔が曇った。
「本名の読み方は
えーと、ん?
「
「そうなんだ、両親が歴史オタクでな。子供の頃は散々からかわれたんだ。だから活動するときも
なんとまあ、そんなことが。
「けどさ、この世界の教科書や歴史書を調べたら古代には長岡京という都はなかった。だから、ここは俺が本名でもおちょくられない素晴らしい世界なんだ!」
それも、こちらで活動する理由の1つか。しかし、こんなに熱く語るこの人も変わっているよな。
「まあ、それはともかくタカヒトには気に入られたようだし、しばらくはあの個性的なケーキがタダで沢山食べられるぞ。」
ニヤニヤとしながら、ケイさんは悠々とお茶を飲み干した。矛先が逸れた喜びが滲んでいるのがいやらしい。
うええ、考えたくない。アサツキシューの件で、この世界の味覚がアレだと思いこんでたばっかりに完食してしまった自分に後悔。
「ちなみに他にも個性的な住人がいるけど、会うか?」
さらっとケイさんは追い討ちをかけてきた。
何ぃ!!まだタカヒトさんクラスの変人が居るんすか?!
「やっぱクリエイティブな職業って変なの多いんだよな。」
「ケイさんは人のコト言えないと思います。」
♪ピンポ~ン
なんかウワサをすると、チャイムが鳴るセンサーでも付けてるかのような絶妙なタイミングで、またも玄関に来客が来たようだ。
「おう、カギかかってないからどうぞ~。」
「よっ、妹来てるんだって?どんなんか見せろよ。」
…さっきの出任せがアパート中に広まっているようだ。こうなったら浅葱町では徹底的に兄妹で押し通すしかなさそうだ。後ですり合わせしよう。
「お、長岡の妹って君?」
廊下を渡ってきたその人は…侍がいた。こ、コスプレ?何?
「あ、驚かせた?今日、ドラマの撮影で端役だけど衣装着たんだ。おれはサトシ。役者やってるんだ、よろしく。」
「あ、よろしくです。って挨拶する前に突っ込んでいいですか?そのカッコで電車乗って街を歩いたんですか?」
「あ~悪い。部屋、汚しちゃうね。」
「いえ、その一発で斬られ役とわかる血糊付きのカッコで電車を…。」
「バスも乗ってきたけど。」
「そういう問題じゃないと思います。」
その時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「おい、なんか気のせいか、サイレンの音しないか?」
ケイさんが窓辺に確認しに行った。
確かに彼の言うとおり少しずつ近づいてるような感じがする。
『ピ~ポ~ピ~ポ~』
気のせいでなく近づいている。音が遠のくのがドップラー効果だけど、逆ってなんだっけな。って考える前にこのアパートの前で音が止んだ。まさか、と思う間もなくこの部屋のドアがノックされた。
「警察です!!血まみれの人がココに倒れこんだという通報があったのですが、ホントですか!?」
…ココは浅葱町。一応、異世界。こうしてワタシの週末の異世界ライフ一日目はアサツキ及び個性的な住民達によって波乱の幕開けを迎えたのでした。
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