4-15 ワタシ、手掛かりをつかむ

 ココは浅葱町。一応、異世界。

「よう、二週間ぶりか?間隔空くなんて珍しいな。」

 部屋に入るとケイさんとタカヒト君が駄弁っていた。彼らに会うのも久しぶりな気がする。そのくらいあれこれと忙しかった。

「そう、二週間ぶりだよ。」

「アッキーも大きくなったんじゃないか?」

「ニャ~♪」

「…兄さん、だからタマだってば。」

 ワタシは無駄と思いつつ、抵抗をする。が、のんきなタカヒト君の声はケイさんの援護射撃をしてくる。

「よお、たっちゃん。今度、浅葱猫用のアサツキお菓子を試作中だから試食をアッキーにしてもらうかな。あ、それから今日のケーキは健康的にゴーヤのパイだよ。もちろん体にいい苦味成分たっぷりのやつ。」

「ニャ~ン♪」

 このタカヒト君変態ケーキ職人は本当に空気を読まない。しかも彼までアッキー呼ばわりだ。

「なんで皆してアッキーなんだろう、ううう。」

 ワタシが嘆くとケイさんはきょとんとしている。

「そっか?アッキーと呼ぶと返事するぞ。自分の名前をアッキーと認識しているのじゃないか?なあ、アッキー。」

「ニャ~」

 そんなはずはない、ワタシが呼ぶ『タマ』に反応するはずだ。

「…タマ。」

「ニャ~」

 ほら、やっぱりタマで反応する。

「いや、アッキーだろ?アッキー。」

「ニャ~」

「ううん、タマでしょ。タマや。」

「ニャ~」

 …もしや?ちょっと実験してみるか。

「宮沢賢治~。」

「ニャ~」

「太宰治~。」

「ニャ~」

「寿限無寿限無ごこうのすりきれ~。」

「ニャ~」

 やはりだ、タマは呼び掛けられたら何でも返事する。なんつー節操の無いネコだ。

「ええい、ならば『みっちゃ~ん。』」

「ニャ~」

「は~い。」

 あれ?返事がかぶった?

「キョウさ~ん、ネコ嫌いを少しだけ克服して部屋に居られるようになったわ~♡」

 やはり、ノックもチャイムもせずにみっちゃんがずかずかと入ってきた。この押しの強さはワタシも見習わなくてはならないかしら。だから、ワタシは彼氏無し歴を更新…いかん、自虐的にしている場合じゃない。

「げげっ。お、おいアッキー、こっちこい。」

 ケイさんはタマ魔除けを確保しようと手を伸ばすがその前にワタシがタマを抱えた。

「悪いね。着いて早々なんだけど、浅葱さん家に出かけてくるわ。例の件、ちょいと進展があってね。」

「あ、浅葱さん家?!たっちゃん、浅葱さんの家に行き来する仲なの?!」

 浅葱さんと聞いて何故かタカヒト君が動揺を始めた。なんだよ、人のスケジュールになんか不服でもあるのか?

「じゃ、タマ、行くわよ。こないだの迷子騒ぎのお詫びとお礼をお前も言いなさい。」

「ニャ~」

「え、アッキーは置いていけよ!」

 ケイさんは必死に嘆願するが、こっちだって都合があるし、何よりもタマの飼い主は自分だ。まあ、必死な理由はわかるのだけどさ。

「キョウさ~ん♡」

 アッキー呼ばわりしているちょっとした仕返しという意味でも、なおさら連れて行かなくてはなあ、クックック。

「お、おいっ!気のせいか邪悪な笑みが見えるぞっ!」

「たっちゃん、せめてケーキ試食して~。」

「聞いて、キョウさんをイメージしたイラストをタンブラーにしてみたの♡」

 もう、ここは手をつけられないからほっとこ。

「じゃあ、行ってきま~す。」

「待てえ~!アッキー~!!カムバッ~クッ!」

 …ふう、抜け出せたわね。しかし、あのアパートはどんどんやかましくなってくなあ。さて、今日も歩いて浅葱さん家に行くか。金持ちだよね、使うことは無いけど行き来するための必要経費としてタクシーチケットを渡されてるし、領収書出せばどっちの世界の出費でもお金は支払うというし。人探しには金に糸目を付けないということだ。

 そうして到着した浅葱家にてワタシは総一郎さんと協議していた。あ、下の名前なのはおじいさんの信次郎さんと区別するためね。別に親しくなっての名前呼びではないからね。って、誰に話しているのだ。

「それは本当なのですか?」

「個人情報保護の壁に当たっているのですが、ワタシのカンではたぶん。それでですね、確認するためにぜひとも…。」

「コンコンコン」

「あ、信次郎おじいさんですね。ちょうど良かったで…。」

 言い終わるか終わらないか否や、信次郎さんが現れた。いつも通りのかっとんだ雰囲気のご老人だ。

「ムム、鋭いな。さすが総一郎の愛人じゃ。」

 …なんかこっちでも誤解されてるし。

「お祖父様っ!!だから結婚してないのに愛人を持つわけないでしょう!」

 総一郎さんは真面目に反論をするが、おじいさんには効かないようだ。

「む?お前、今『結婚してないのに』と言ったな?ってコトは、結婚したら愛人を持つつもりじゃったのか?」

 おお、信次郎さんの見事なカウンター攻撃。

「え??い、いや、それは…。」

「はあ~嘆かわしいことじゃ。格式高い浅葱の家から女にだらしない者が出るとはのう。」

 こりゃ、総一郎さんの負けだな。この手のやり取りはやはり年の功というのか信次郎さんの方が上手だ。

「だ、だからお祖父様。それは言葉のあやでして。」

浅葱翁父上が草葉の陰で泣いてるぞ。全く情けないものじゃ。」

 相変わらずな祖父と孫だなあ、面白いからいいけど。

「え…でも曾お祖父様は、最初の奥さんが亡くなった時に妾であった方を嫁にしたんでは?それでお祖父様はその後妻の子供でしたよね?」

「ゴホゴホ…ああ持病のヘルニアが…。」

「ヘルニアでどうして咳が出るんですか。」

 おお!孫が逆転!それにしても浅葱翁の以外な一面を知ったので。メモっとこ。まあ、明治のころには時折ある話だよね。女性にとってはあまり面白くはないけど。確かワタシの世界の明治初期は妾も戸籍に入れたというから、この世界の戸籍制度も同じかな?今度調べよう…。

「ニャ~」

 バスケットの中で寝てたタマが起きたようだ。その鳴き声で皆、我に返った。

「あ、いけない。話が途中でしたわ。タマ、起きたかい?ほら出てきて浅葱さんにお礼言いなさい。」

「そ、そうでした。で、では、品物はその期日までに用意しますね。」

「お、おお、アッキーじゃったかな。大きくなったのう。アサツキを後でやるからな。」

「ニャン♪」

 …なんでこの家でもアッキーなんだよ。

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