4-12 ワタシ、雑誌に埋もれる
「RRR…」
その時、家の電話が鳴った。二人ともこちらの世界のスマホやケータイは持ってないことにしている。
だから、固定電話のみが通信手段となっている。当たり前だが、元の世界から持ってきたスマホはこちらではただの時計だ。ケイさんが電話を取って応対した。
「はい、はい。え?いますよ。伝えておきますね。」
電話を置いたケイさんが振り向くとワタシに言った。
「たっちゃん、図書館から頼んでいた雑誌が来たって。貸出制限あるから閲覧に来いってさ。」
「ああ!あの急ぎの案件のやつ!急いで行かなきゃ!」
ホントは急ぎでもないんだが、とりあえず、このやかましい展開から抜け出せるならドコでも行きます、はい。
あ、タマが食べないように床のケーキは掃除しないと。ワタシはささっと床のケーキを古新聞にくるんでゴミ箱へ入れた。
「ウニャー!!」
なんか怒っているが、罰は罰だ。アサツキ抜きなんだからね。
そうしてそそくさと逃亡するようにして着いた図書館。シキブ姉さんが閲覧席に雑誌を積みながら呆れ顔で待ち受けていた。
「来たわね、フリーター妹。3年分のオカルト雑誌なんて県立図書館の人に怪訝な顔されたわよ。」
「ああ~シキブ姉さん、今はその毒舌も
ワタシが思わぬ称賛をしたのでシキブ姉さんは面食らったようだ。
「…頭、打った?」
「いえ、ちょいといろいろと。早速閲覧させてもらいますね。」
雑誌の山を前にしてワタシはページをめくり始めた。以前浅葱家の記事が載っていたというのは本当だろうか?そしてライターには接触できるのだろうか?
そうして何冊か調べ、ある号をめくったとき、おかしな細工がされていることに気が付いた。
目次が塗りつぶされている。そしてその部分と思われるページが開けなくなっている。
「シキブ姉さん、これ、イタズラですか?開けなくなってるんだけど?」
彼女は一目見て、思い当たったようだ。「え?本当?ああ、これね。この部分は閲覧禁止なのよ。」
「まさか、この中には禁断の魔法が書かれていて、うっかり外部流出したからですか!?異世界召喚とか魔王を呼び出すとか。」
「んなワケないでしょ。確か、何年か前に記事に関して裁判が起こって判決で公開禁止になったのよ。雑誌はあるだけ回収、図書館に入ってるのは該当部分をマスキング及びページを開けなくする処分になってね。そっか、昔ニュースになっていて何の雑誌かと思ったけど、これだったのね。」
まさかと思うが尋ねてみる。もしかしたら探している記事ではないだろうか。
「それってどんな裁判だったのですか?」
「確か、浅葱家の記事で一族が「事実無根」とかで名誉毀損で訴えてた事件だったかな。」
ワタシはガッカリした。あの一族はこういう所まで『神隠し事件』のもみ消しをしていたんだ。ならば直接、浅葱さん達に聞いた方が早かった。
「まさか、探してた記事ってこれだったの?」
シキブ姉さんが尋ねてくるので、慌ててごまかした。
「い、いやあ、まさか。」
「そう、じゃ頑張って閲覧してね。終わったら声をかけて。これは借りるのなら、閉架図書だから貸出制限あって二冊までになるからね。」
…せっかく取り寄せてもらったのに疲れてきた。せっかくだから他の記事にも目を通してしまおう。
『トイレのアサツキ』
またこのネタかいっ!使い回しやん。ええい、アサツキの匂いがしないオカルトはないのか。
『動物の不思議』
おお、なんか面白そうなのがありますな、どれどれ。
『鮭は生まれた川の匂いを嗅ぎわけ、ほぼ100%の確率で戻ってくる。それと同じように犬やネコにも匂いで区別することがあるのです。』
フムフム、ワタシは興味津々にページをめくる。
『ある老犬は迷子になったが戻ってきた。実はその犬は目が不自由だったのだが、飼い主の家の匂いを覚えていたためそれを頼りにして戻れたのだ。
また、あるネコは魚屋で作っている自家製の干物が好物であった。ある時、里子に出されたが大人になってしばらくしたときに実験を行った。用意した数種類の干物の中から幼い頃に食べた干物を躊躇なく見つけ…。』
なんか、ミステリーってより動物学みたいな記事だな。ネコの話はどっかのグルメ漫画のパクりとちゃいますか。
『また、アサツキ好きという変わった特性がある浅葱猫も、生まれ故郷でもある浅葱町産のアサツキには素早く反応し…。』
またここでも浅葱猫かい。でも、生まれ故郷のアサツキなんてよくわかるなあ。
ん?生まれ故郷のアサツキ?なんかひっかかる…。なんだかムズムズするなあ。
大量の雑誌の中に埋もれて悶々と悩んでいるとシキブ姉さんがやってきた。
「閉館時刻よ、フリーター妹。この本は二週間取り置きできるから、安心して帰りなさい。あと、こないだ借りた本、返却期限過ぎてるからとっとと返してね。」
ヤバい、あれは元の世界に置きっぱなしだ。
「あ~も…実家に忘れてしまったんで戻って明日にでも持ってきます。」
あ~どこにしまったんだっけなあ?やれやれ、今夜は寝袋も持参したし、鍵付きの部屋に泊まらせてもらおうと思ってたんだが、いったんケイさんに連絡入れて直帰すると伝えないと。タマは一晩預かってもらおう。
ワタシは公衆電話にコインを入れてアパートに電話した。
「あ、もしもし。ケイ兄さん?今夜はそちらへ泊らないで帰…。」
「ま、まさか浅葱さんの所へお泊りじゃないよね。」
って、この声はタカヒト君だ。まだあの部屋にいて泣いているのか。
「違げーよ!って、タカヒト君まだいたの?ケイ兄さんは?代わってもらえる?」
「キョウならばアッキーがすねて家出しちゃったらしくて、日が暮れても帰ってこないから探すとか言って外へ出たから、俺が留守番してるんだ。」
「なんですって?タマが?それならすぐそっちへ向かうわ。」
急いで電話を切って、アパートへ向かった。タマは生活の大半がワタシの世界なんだ、
…しかし、タカヒト君までタマを「アッキー」呼ばわりなんだな。
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