4-11 タマ、禁錮半日の刑に処す
「まったく、もう。あれほど言ったのに、タマ!お前ってやつは!」
「ニャ~…。」
ココは浅葱町。一応、異世界。ワタシが雷を落とすとタマは声を落としたように鳴く。とりあえず怒られているのはわかっているようだ。
「よって、罰としてバスケット閉じ込め半日の刑!さらに浅葱滞在中のご飯は2ランク落として一番安いカリカリフードのアサツキ抜き!」
「ニャ~~!」
タマは盛大に鳴き出した。言葉は通じなくてもアサツキ抜きはわかったようで堪えているようだ。
「わざわざ、ココでする罰か?アッキーがかわいそうじゃないか。」
ケイさんの部屋にてタマのしつけを行っているため、彼が口を出してきた。
「だって粗相をしたのは昨日だもん。それに名札のイタズラでいらん窮地に陥ったから、ケイさんにも罰を一つ。」
そう言うとワタシはカバンから一つのお菓子を取り出した。
「何をする気だ?」
「ここにあるのは花月堂の和菓子部門の期間限定のプレミアムイチゴ大福。1日につき30個しかない限定品であり、浅葱新聞やらネットにも取り上げられた物でもある。今朝、早く来て並んで一個だけ買ったんだ。」
「おお!それ、気になってたんだ」
「これを一人占めして全部食べるっ!パクッ」
言い終わるや否や、ワタシは大福を一気に食べた。
「ああ~~~!!」
モグモグ、ふむ、うまい。感想、いや食レポは盛大に声を出すべし。
「ん~。さすがプレミアムというだけに、あんこも皮も桁違いに味が違うわ。使っているイチゴもブランドイチゴだし。フフフ、もう売り切れだったから今お店に行っても手に入らないわよ。」
「鬼だ、鬼がここにいる~!」
「ニャ~ニャ~!!」
「うーん、この一人と一匹には食べ物系の罰が効くわね。」
一人と一匹が泣いているのにワタシが悦に入っていると、後ろから声が聞こえてきた。まあ、振り向かなくても誰かわかる。
「なんか、はたから見ると二人を虐待してるみたいねえ。でも、ネコは見えないところにいて、飛び掛かられる危険もないのね。チャンスだわ。」
みっちゃんはホントにストーカーっぽいが、ネコ嫌いのため魔よけ効果があったのだ。
「みっちゃんさあ。だから、入る前にチャイム鳴らせよ。」
「まあまあキョウさん。お菓子なら、私が材料用意したから愛情込めて作ってあげるわよ♡ほら、アサツキもこんなに。和菓子は無理でもアサツキパンケーキならば…。」
「ウニャ~ウニャ~!!」
タマは目の前のアサツキに飛びつこうと言わんばかりにバスケットをガリガリ引っかき始めた。ああ、こりゃタマには目の毒だな。
「な、何よ。でもバスケットに入ってるから安全…。」
「ウニャ~~~!!」
バキッ!!
信じられないが、バスケットを壊してタマが飛び出してきた。目指すは手の届く位置のアサツキ。ってコトは…。
「キャ~~っ!来ないで~~!」
ああ、やはりそっちへ行ったか。タマはみっちゃんの方へ一目散に向かっていき、彼女は逃げ惑いながら玄関へ向かっていった。
「今回はココで退散するわっ!待っててね~キョウさ~んっ!」
バタンッ!!
「…結局なんだったんだ、今の。」
嵐のように現れ、嵐のように去っていったみっちゃん。ストーカー並みの愛も苦手なネコには敵わなかったようだ。
「アッキーを罰から救ったんじゃないか?結果的に。」
「ニャ~♪」
アサツキのために自由を得たタマは嬉しそうにみっちゃんの置いていったと言うか、投げ出していったアサツキに近づこうとしているので、ワタシはアサツキを取り上げた。
「こ~ら、アサツキ抜きの罰は終わってないわよ。没収!」
「ニャ~ニャ~!」
やれやれ。後でバスケットを修理しないと。
「しかし、人の家のアサツキを荒らすとはよっぽど飢えてたのか?」
タマのせいで散らかった部屋を片付けながら、ケイさんはワタシに尋ねてきた。
「うーん、普段もエサにトッピングしてるんだがなあ。それにしても、あの影の会長はひっかかる。ワタシ以外にわざわざアサツキを栽培してる家があるとは思わなかったし、タマの体質や浅葱の名前に変な態度を取ってたし、探してる敬一郎さんと関連あるのかな?」
ワタシは推理を始めようとするとケイさんが疑問を投げ掛けてきた。
「その会長の家もアサツキだらけなのか?」
「うーん、チラ見した感じでは。小松菜にルッコラとか。ニンジンやじゃがいもがあったな。」
「なら、薬味の一つとして植えてただけかも知れないし、アサツキというだけで過敏になってないか?ネギ中毒にならないネコに驚いただけかもしれないし。第一、名前が違うんだろ?」
「そうよねえ。石垣さんというし。でも偽名かな?」
「一人ならともかく、息子一家もいるんだろ?長いこと住んでいて、家族全員偽名を通せるものか?関係ないのじゃないか?」
「偽造パスポートで不法入国した外国人ならありえるね。実際ワタシが…。」
「待て、それ以上はいろいろな方面でやばいから発言するな。とにかく、石垣さんは話などからして日本人だろ?」
それもそうだ。あの顔つきは日本人の顔のパーツだ。ワタシは外国人と接する仕事を経験してきたから、東アジアの人種の顔の違いがわかる。
「そうかあ…。浅葱の名前で態度変えた気がしたんだけどな。それにしても浅葱の名前聞かれたときは冷や汗モンだったわ。とっさに彼氏と言ったら、大家さんに根掘り葉掘り聞かれるからその日は執筆どころじゃなかったわ。」
『ボトッ!』
何かが落ちた音がした。ん?ワタシもケイさんも何も落としてない。タマがなんか音がした方に嬉しそうに駆けていく先には…。
「何~!“浅葱”が彼氏?!」
そこにはいつのまにかタカヒト君がいた。足元にはいつもの試作品らしきケーキが落ちている。どうもアサツキ系だったらしく、タマが駆け寄って食べているがタカヒト君には目に入らないようだ。
「タカヒト、だからチャイム鳴らせよ。それにケーキが落ちてるぞ。」
「いや、だって押しても鳴らないから壊れてるかと思ってお邪魔させてもらって、…いやそれよりもたっちゃんは浅葱さんと付き合ってるのか?!オレに誕生日聞いてたじゃないか~!バレンタインは俺にチョコをくれるんだろ?!」
「いや、誕生日じゃなくて生まれた年を…。」
それを聞き付けたケイさんは途端にニヤニヤしだした。しまった、なんか燃料を与えてしまったらしい。
「何ぃ?タカヒトの誕生日を尋ねてた?それは意味深だな。」
「ケイ兄さん、かき回さんでくれ。」
タカヒト君はワタシの弁明など聞かずに暴走している。
「いつからだ、いつから付き合ってるんだ~!?」
「いや、その、だから浅葱さんからは頼まれごとをね。」
しかし、ケイさんはニヤニヤとして引っ掻き回し続ける。
「浅葱祭りのときは二人で歩いてたよねえ。二股か、罪な奴だなあ。」
「兄さん、だから誤解させるセリフ言わんといて。」
「イチゴ大福の恨みだ、誤解は自分で解け。ああ、イチゴ大福うまそうだったのに~」
何ぃ!!食べ物の恨みかい!
「浅葱祭り~!?ああ、あの時店をさぼってでも一緒に行くんだった~。」
タカヒト君は頭を抱えてわめいている。いかん、こうなるとこちらが何を言っても止まらない。
「ニャ~♪」
「こないだも浅葱家に行ってたよな~。」
ケイさんは相変わらず燃料を投下し続ける。
「なんだと~!!」
それに呼応するようにタカヒト君が炎上している。
「ニャ~♪」
タマはアサツキケーキを食べてご満悦だ。
「あ、タマ!アサツキ抜きだと言ったハズだぞ!それに床に落ちた人様のモノを勝手に食べるな~!」
「フゥ~!!」
慌てて抱えあげるとタマは反抗心むき出しで威嚇してくる。
…ココは浅葱町。一応、異世界。ワタシに平安が訪れる日が来るのだろうか?
うう、頭痛が痛くなってきた。
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