4-10 タマ、やらかしてしまう

 ココはS市。ワタシが住んでる元の世界。こちらでもネットで小説を公開始めました。

サイトもいろいろあるが、「カコヨモ」とか言うサイトにした。大手出版社が運営しているからきっと沢山の人が見るに違いない。

 で、小説のPV数は第11話まであげてトータルで11…。まあ、ワタシの好きなあの選手の背番号とおんなじ♡って、ちげーよ!!

 これじゃ浅葱家の謎の手がかり得る以前の問題だわ。見てくれる人増やすためにも、なんかアクセス数アップする対策しなきゃ。

 …って言っても、Twitterに沢山リツイートしてもらって、この歴史的大惨敗だしなあ。なんでリツイート数より閲覧数が低いんだか。いっそ異世界転生モノに改造して、チート化して俺様TUEEEE!にして、それからハーレム系にして女奴隷出して、やたらとイチャイチャさせてお色気シーン増やして、それで最後は魔王倒しておしまい、と。

 って、浅葱家の中にありえん要素ばっかや。それ以前に、そんな安直な異世界モノやハーレム系は苦手だからやりたかない。大体、主人公が大した努力せずに棚ぼたでチート化やハーレム系でモテモテなんてご都合主義もいいところだ。

 いかん、いかん。ネガティブに批判してもPVが上がる訳ではない。気分転換に、こちらの中継地点である建物がどんな扱いになってるか調べるかなあ。そう思って検索しようとした時だった。

「た、田中さんっ!大変よ!」

 大家さんが血相を変えて縁側へ直接やってきた。腕にはタマを抱えている。なんだと言うのだろう?

「アッキーちゃんが毒を食べてしまって!」

 ええっ!何故か大家さんがアッキー呼ばわりしているが、今はそれどころじゃない。

「まさか毒入りエサを食べてしまったんですか!?泡吹いたとかですか!?」

「会長さん家のアサツキを食べてたのよ!ネコにはネギは毒だから、早く医者へ連れて行かないと!」

「ニャー?」

「あ、な~んだ。うちのタマは特異体質だから大丈夫…。」

 ってよりによってあの会長ん家かい!!もしかしたら、あのアサツキ荒らされた家って会長ん家だったのか。まずいなあ。

 安堵したワタシとは対照的に大家さんはまだ慌てている。

「ああ~もう、そんなノンキにしてないで。影の会長が怒っているのを無理矢理引き離して連れてきたんだから。」

「いや、だからタマは特異体質だから大丈夫ですって。」

…ってあの栄太郎氏に現場を押さえられちゃったんか。やばいなあ。

「あ~!もうモタモタしないの!アッキーちゃんは私が医者へ連れて行きます!」

 そういうとタマを抱えたまま突っ走ってしまった。

 待って~大家さ~ん!話、聞いてぇ。ワタシは慌ててバスケットをひっつかみ、庭に備えているサンダルをつっかけて追いかけた。


「ホント、騒いじゃってごめんなさいね」

「だから特異体質だから平気って何度も言ったのに。」

「ニャ~?」

 動物病院からの帰り道中、ケロっとしているタマをワタシが持参したバスケットに入れて抱えながら私は大家さんと話していた。

「じゃあ、こないだのアサツキ荒らしもアッキーちゃんかしら?」

「確証はないけど…ちゃんと注意しましたし。被害抑えるためにうちにアサツキを植えましたし。」

「でも、あの影のゴッドファーザーの菜園を荒らすなんて、後が怖いわよぉ。」

 うへえ、それは怖い。しかし、ワタシ以外にアサツキ植えてる家庭があの会長とはなあ。ところでなんでアッキー呼ばわりなんだ?

「大家さん、どうしてアッキーと…。」

「田中さん。」

 声をかけられて振り向くと、そこには電動車椅子でやってきた影の会長こと石垣栄太郎さんがいた。

 うわ、噂をすれば影の会長!

「お宅のネコがうちの菜園を荒らしてたそうだが…。」

 ひいい、バレている、バレているよ!って現場を押さえられたから当然だ。身体の中がヒヤリと冷えていくのがわかった。

「は、はい!すみません、すみませんっ!後でタマには折檻せっかんをしますんで。」

「ニャニャッ!?」

「それを言うなら説教でしょ」

「あ、しまった虐待してどうする、落ち着け自分。」

「ニャ~!!」

 ってなんで賢い猫とはいえ、折檻の意味を理解しているんだ!?そんな言葉どこで覚えた?!

「タマ?あのネコはアッキーじゃなかったのか?」

 え?なんでその名前を?と、思う間もなく影の会長が理由を述べる。

「首輪の迷子札に『アッキー・タマ・アサギ・タナカ』と書かれてたが」

「私もそれ見て改名したかと。」

 …ケイさんの仕業か、いつの間にそんなイタズラを。しかもファーストネームにしていやがる。

「名前はともかく、『アサギ』はなんだ?」

 いや、今はそれよりも異世界のことは伏せないと。十八番おはこの出まかせを言うか。

「えっ…と…。か、彼氏の苗字です。」

「浅葱が彼氏の名前?…。ところであのネコは中毒起こしてないのか?ネコにネギはだめだぞ。」

「あ~タマは特異体質なんで、ネギやアサツキは無害なんですわ。」

「ネギが無害…??まさか、…?いやしかし…ありえん…。」

 小声で何かブツブツつぶやいているが、よく聞こえない。

「まあ、ええわ。ネコはしっかりしつけとけよ」

 そういうと影の会長は車椅子のスイッチを押して去っていった。

 た、助かったあぁぁ~!安堵から体の力が抜けていく。

「ホント、珍しいわねえ。こないだウメサキさんのトコの犬が会長の家の塀におしっこかけたときは三ヶ月はグチグチ言われたのよ。」

「ワタシが新参者だから大目に見てくれたんですよ、きっと。」

 そう答えながらもある疑念が首をもたげていた。

 会長の家にアサツキが植えてあるのは偶然か?それにあの態度の急変。不自然だな。

「まあ、でも彼氏の苗字を猫の名札にするなんてラブラブね。達子さんたら隅におけないわねえ。で、その浅葱さんってどんな人なのよ?」

 …疑念を考える前にまずはこのやっかいな事態をどう解決するかの方が先だ。

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