4-7 アサツキ、始めました

 ココはS市。ワタシの住んでいる元の世界。連休二日目の今日は早起きして朝から庭先でスコップ片手に家庭菜園の作業中です。

「前の人も何かやってたかな。石ころが無いのは助かったわ。まあ、念のため関東は酸性土だから石灰と腐葉土を混ぜて、と。それから先ほど朝イチで買ってきたアサツキの苗を…。」

「ニャ~♪」

 タマが嬉しそうに寄ってきたのでワタシは慌てて制した。

「タマ、これはこれから植える物なのだからダメ!大体、お前が町内の家庭菜園のアサツキを食い荒らすからこんなコトになったんじゃないか。」

「ニャ?」

 タマは首を傾げたような仕草をしている。

「とぼけても、ダメ!アサツキを荒らす動物なんて、この世界ではお前浅葱猫しかいない。」

「ニ、ニャー。ニャー。」

 タマは何か言いたげに見えるが、理由がなんであろうとアサツキ荒らしはダメだ。

「とにかく、アサツキを植えてあげるから家でしか食べるんじゃないぞ。よそのはだめだからな。」

「ニャン…」

 猫が飼い主の言葉を解するか疑問だが何もしないよりはいい。しかし、こちらに来てまでアサツキを日常的に見るとは複雑な気分だ。

「さて、植え終わったから浅葱町に行くわよ。バスケットに入りなさい。」

「ニャ~ン♪」


「アッキーがアサツキ荒らし?」

 ココは浅葱町。一応、異世界。ケイさんは珍しく楽器をいじりながら答えた。年に一度の浅葱でのセッションの準備中なのだ。そう、ワタシがこの世界を知るきっかけになったイベントである。

「そうなのよ。町内会でも議題にあがってしまったし。」

 ワタシは執筆しながら会話をしていた。最近は楽器の音がしても気にせずに執筆あできるようになった。慣れっていろいろ怖いもんだ、うん。

「やっぱ浅葱猫のアッキーだな、アサツキに見境がない。」

「アッキーではなくタマです。」

 ワタシは抗議したが、スルーされたようだ。ケイさんは執拗にアッキーへ改名させようと躍起だが、タマ以外は認めない!

「やっぱ浅葱のものは皆アサツキに目が無いんだなあ。なんか、浅葱犬あさぎいぬとか浅葱鳥あさぎどりとかいそうだな。」

「さっきパソコンで検索したけど、いるみたいよ。浅葱鳥は羽の色がその名の由来らしいけど。」

「…俺、なんか疲れてきた。」

 いつもずっこけているワタシよりケイさんが参るとは珍しく立場が逆転したな。しかし、こうまでコテコテにアサツキや浅葱色だらけというのも濃い世界だわ。

「さて、そろそろ図書館に行ってくるわ。」

「ああ、行ってらっしゃい。帰りにぱりっこせんべい買ってきてくれ。ちゃんとアサツキ味噌味だからな。」

「はいはい。タマにはアサツキの束でも土産に摘んでくるかな。」

 しかし、毎度思うがケイさんが頼むお菓子もアサツキ系だな。彼もまたこの世界に馴染んでいるのだろう。

「アッキーならさっきアパートの庭先のアサツキかじってたぞ。ここは人間も沢山摘むから取り放題だし。」

 うう、浅葱猫って、浅葱猫って一体…。

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