4-6 疑惑の浅葱猫

 ココはS市。ワタシの住んでいる元の世界。

 今日は2月の第2土曜日。三連休の初日でもある今日は町内会の定例会に参加するべく町内の集会所にいるのでした。欠席してもいいのだけど、なんとなくサボることはできない。変に真面目で損な性分だとは我ながら思う。真面目なのに、なぜ浅葱異世界へ行き来できるのか不思議なのだが、変人ならば真面目不真面目問わないのかもしれない。もちろん浅葱町に行った帰りに直に参加しているから、タマもバスケットに入って足元に大人しくしている。宴席になる前にいったん戻って放すけどね。

 で、会場は引っ越してきたばかりで当然と言えば当然だが、見知らぬ人ばかりだ。でも、大家さんが来ると言うからいいか。…あとはこないだ最悪の出会いを果たした影の町内会長だ。まあ、席は離れているし、目を合わせなければ大丈夫だろう。

「こんばんは、田中さん。お隣いいかしら?」

 大家さんが到着してワタシの隣に座った。

「大家さん、こんばんは。」

「この辺りの地理とかご近所さんに慣れてきたかしら?」

 …影の会長との付き合いは失敗したが、概ね慣れてきた、とは思う。平日昼間はいないが、こういう会などにはなるべく出ないと非常時に困るだろう。

「ええ、まあ、なんとか。」

 ワタシはお茶を濁して答えた。大家さんはそんなワタシに包みを持たせた。

「これ、あとでタマちゃんにあげてね。うちで作ったささみジャーキーよ。」

「いつもすみません。」

「ニャー♪」

「いいのよ、私も猫好きだから。タマちゃん、かなり大きくなってきたわね。」

「ええ、早いものですね。食欲旺盛だし最近、好物もわかってきたので。」

「あら、何かしら?」

 …アサツキだと言っていいのだろうか?悩んでいると、進行役の町内会長が会の始まりを告げた。

 この現会長は影の会長の息子だ。つまりは傀儡政権な訳だ。まあ、関わるとめんどくさいのでその辺りはスルーしよう。

 で、影の会長こと石垣栄太郎氏は足腰悪いこともあって、最後列の隅の席に座って会の様子を伺っている。こういうのいるよね、いつまでも口出しばっかして足を引っ張る輩。

 まあ、議題と言ってもこの時期は町内清掃とかゴミ出しの注意事項くらいなものだ。あとは会合の後の打ち上げというかお酒ですわね。っつーか、最初からそれ目当てだ。

「…と、いう訳で会合を終わらせたいと思います。ささやかでございますがお食事を用意しておりますので…。」

 よし、やったあ。お腹空いたし、喉も乾いたし、まずは目の前のプレミアムビールを注い…。いや、タマを一旦家に連れ帰ってあげないとな。大家さんに頼めば料理を取っておいてくれるだろう。

「ちょっと待った。」

 その時、後ろから声が上がった。影の会長の栄太郎氏だ。

「畑を荒らす動物対策や注意はどうなった?」

「そ、そうでした。すみません。」

 会長が頼りなく続ける。ちっ、こっちは早く飲みたいのに余計な事を。

「最近、家庭菜園が動物に荒らされる被害が相次いでいます。菜園にネットを被せる対策を取っていただくと共に、ペットを飼っている家庭はしつけなどの対策を徹底して…。」

 このS市のペットはまだまだ外で飼うのが主流だからなあ。しつけと言っても田畑を荒らさないしつけって何すりゃいいのかしら?ふああ、あくびが出てきた。早く終わらないかしら。

「なお、被害状況は町内会で把握しているものは、じゃがいもや小松菜が動物に踏み荒らされていたほか、アサツキもかじられていた被害も報告されており…。」

 は、早く、お、終わらないかしら。

「アサツキなんて荒らす動物なんて珍しいわね。雑食のカラスかしら?田中さん。」

「そ、そうですね。」

 や、やばい、とてもやばいぞ。アサツキ好きな容疑者は一匹しかいないのは明らかだ。なんとか対策を取らないと。

「ニャ?」

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