4-8 タカヒト君、大いに勘違いする

 さて、図書館へ行って浅葱猫の飼い方の資料探しに、人探しの資料にいろいろ調べるコトあるなあ。今日はギリギリまで居て、夕飯も浅葱で食べるか。

 あ、そうだ。一つ聞きたかったコトがあった。図書館の前にあそこへ寄ってみよう。

 ワタシはいつもの商店街へ向かった。改めて観察するとこちらの世界の商店街はまだ頑張っているらしくシャッターが降りているお店は少ない。が、よく見ると芸術の街、浅葱らしく画家や詩人の期間限定の個展やら、チャレンジショップが閉店したお店のスペースを借りて開いている。ということは、こちらも衰退を防ごうと試みているものなんだな。

 そうした商店街の中に花月堂はある。そう、あの変態ケーキ職人にしてアパートの奇妙な住人筆頭のタカヒト君が勤めているお店だ。

 いつもタカヒト君がケーキを持ち込むので入ることはなかったが、和菓子も扱っているお店で両隣のお店よりやや大きく、イートインスペースもある。ちょうどタカヒト君が出来上がったケーキをケースに入れているところだったので、ワタシはドアを開けてお店に入った。

 カラ~ン♪とチャイムの音が軽やかに鳴る。焼きたてのスポンジケーキの匂いやチョコレートの香りもしてくる。

 こんな美味しそうなお菓子を作るお店なのに、あの破壊的なセンスのオリジナルケーキはどっからひらめくんだろうか。店長が売るなと厳命しているらしいが、試作品の無料提供を始めるとも聞いた。お店の評判落ちないかしら?

「いらっしゃいま…あれ?!たっちゃん?来てくれたの?何か買う?」

 タカヒト君はなんだか嬉しそうだ。仕事の邪魔をしないようにちゃっちゃと聞こう。

「あ~これから図書館に行くから、今は買えないんだわ。…ちょっと聞きたいコトあって…。」

 タカヒト君はなんだかテンション高く、トングをプラプラさせながら答える。

「え~仕事しているオレを見に来てくれたの?いやあ、そんな大したことはしてないけどなあ。」

 …人の話聞けよ。

「い、いやタカヒト君は何年生まれだったっけ?」

「え?88年生まれだよ。」

「ふむ…ってコトは。」

 逆算していくと、えーと。

「え?まさか誕生日聞くなんて何かプレゼントくれるの?いやあ嬉しいなあ。あのね、誕生日はね、12月だから過ぎてるけど今からでも受け付けOKだよ!あ、それともバレンタインのチョコ?!いやあ、手作りじゃなくていいよぉ、花月堂うちのお菓子でもいいよ!遠慮しないで!」

 …だから人の話聞けよ、タカ公。

「計算すると01年から03年か。わかった、ありがとうね。じゃっ!」

 カラ~ン♪

 ワタシは颯爽と店を出た、つもりだ。なんか勘違いしてたみたいだけど、まあいいや。早く図書館へ行こう。ある資料の見当をつけるヒントを得たワタシはその足で図書館に向かったのでした。


「たっちゃんがくれるんなら何でもいいよ。気遣いしなくってもいいって。いやあ、なんだか照れるなあ。」

「…タカヒト、もう彼女は帰ったぞ。さっさと持ち場に戻れ。」

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