4-3 浅葱猫と人探し
「ハハハ、それは災難でしたねえ。」
ココは浅葱町。一応、異世界。今日は浅葱町の名士の浅葱家にお邪魔してます。
以前、こちらの末裔である総一郎さんから、ワタシの世界にて行方不明になったらしい大伯父の敬一郎さんの捜索を依頼され、今回は詳しくお話を聞きに来てます。
だから、彼はワタシやケイさんが異世界の人だと知っている人でもある。
「ホントにもう、最初から話を聞いてとぼけるなんて確信犯ですよ、ハイ。なんでも
「それはすごいですねえ。でも、普通はそこではおちょくりませんよ。」
総一郎さんはバッサリと切り捨てる。うう、気まずい。
「と、ところで今回は捜索する敬一郎さんのお話を伺いにきたのですが。資料はいただけるのですか?」
「こちらの若い頃の肖像画と画集です。それから、参考までに祖父にも会っていただきましょう。現在の顔の手がかりになるでしょうから。」
あ~確かに兄弟なら顔つきが似てるよな。でも確か資料だと異母兄弟だから参考程度かな。
「おじいさまは確か療養中でしたっけ?退院されたのですか?」
「この前、退院してもう自宅療養にしてます。そろそろ降りてくる頃なんですが。」
その時、ドアがノックされた。
「コンコンコン」
「あ、おじい様かな?どうぞ。」
総一郎さんが呼び掛けるが、入ってくる気配はない。
「コンコンコン」
まだノックがする。返事はしたのに聞こえなかったのかな?と思ったが、その後の展開は予想外だった。
「コンコンコンコンコンコンコンッ!」
こ、このリズムはもしや三三七拍子??
「コンコンコンッ!」
な、何だ?何が始まるのだ?
「お祖父様、今日はそのくらいにしてもらえませんか?」
「なんじゃ、せっかくこれからだというのに。」
ドアを開けて出てきたのはカラッと明るい声、にこやかな雰囲気の老人だった。影の町内会長とは大違いだ。
「よしてくださいよ。今日はお客さんが来ているのですから。」
「そうか?客が来るからこそ練習していたのに。」
お祖父様と呼ばれた老人、この人が浅葱翁の息子であり、総一郎さんの祖父の信次郎さんなのだろう。
「ノックで大島御神火太鼓をやったために、拳を痛めて全治2ヶ月のケガをして入院してたでしょ。お医者様からもノック禁止が出ているのに過剰にノックするのはよしてください。」
…なんかよくわからんが、総一郎さんとは対照的にかっとんでるご老人だ。
「せっかく大伯父様の捜索に協力してくれる方ですから、失礼のないようにしないでくださいよ。」
「そっか?せっかく今日は新作の『御諏訪太鼓ソロバージョン』を仕入れて…。」
「お祖父様っ!!」
「む、そうじゃった。で、この方か?総一郎の新しい愛人は?」
な?!何を言ってるのだ、このご老人は?!
「まだ結婚してないのに愛人囲ってどうするんですかっ!」
「そうじゃった。愛人じゃなく新しい妾と。」
「……お祖父様、人の話を聞いてますか?」
なんか掛け合い漫才みたいで楽しいな。しかし、総一郎さんにとっては疲れるタイプだろうな。
「真面目に話してくださいよ。長年のお祖父様の悲願達成に近づく大切な方なんですよ。ようやく向こう側の世界と行き来している方とこうして会えたのですから。」
「そうじゃったな。田中さんと言ったな。ワシは総一郎の祖父の信次郎と言う者だ。話は総一郎から聞いておる。よろしく頼みますぞ。」
そう言いながらワタシに向かって深々とお辞儀をした。
「いえいえ、そんなかしこまらないでお掛けになってください。お役に立てるかどうかわかりませんから。」
ワタシが慌てて、信次郎さんを座らせようとする。この街の名士という方にそんな態度されても恐縮だ。
「では、掛けさせてもらうかな。ワシからも知っていることを話そう。兄はわしにはとても優しかったが、父とは跡を継ぐかどうか巡ってケンカが絶えなかったそうじゃ。ある時、ケンカしてあの旧迎賓館で行方不明になったと聞いておる。」
「はい、絵が届いていたことからワタシの世界に来たのではないか、と思います。」
「父はそれから深く反省して、経済活動を大急ぎで整理し、芸大を設立し浅葱を芸術振興の町として、兄が帰ってきたときに受け入れる体勢を整え、そして自らも再び筆をとるという名目で迎賓館をアトリエにして篭っていたのじゃ。実際、絵心もあったから誰も疑わなかった。」
「でも、敬一郎さんは表向き死んだことにしていたのでは?」
「見つかったら見つかったで、その時は実は記憶喪失で行方不明だったとか、なんとでも取り繕える。問題だったのは兄が絵を置いていたのに帰らなかった点だ。」
「と、言いますと?」
「兄は絵を置いていくだけで姿を現さなかった。よほど父に会いたくなかったのかもしれん。」
「そんなこと…。」
「それに絵は昭和20年の夏頃の日付を最後に届かなくなってしまった。もしかしたら、その頃に亡くなっているのかもしれないな。」
…ワタシはさすがに黙ってしまった。昭和20年。浅葱町でも元の世界でも太平洋戦争末期にして終戦の年でもある。しかも、その終戦までに各地で熾烈な攻撃にさらされている。もしも、空襲が激しい地域に住んでいたら敬一郎さんは…。
「ま、もしかしたら浅葱の血を引いてるから財を成して、南の島に移住して美女に囲まれて暮らしてるかもしれんな。ほっほっほ。」
重たい空気を払うように信二郎おじいさんはガラッと口調を明るく締めくくった。どこまでもとぼけた老人だ。
「ニャ~」
バスケットの中で昼寝から起きてきたタマが抜け出して、ワタシのひざの上にちょこんと乗ってきた。
「あ、こら。バスケットからいつの間に抜け出してたんだ、タマ。ダメだろ、かごの中にいなさい。」
「おお、これはかわいい。いくつくらいかな?」
「こないだ拾ったばかりですから、詳しくわかりませんが、まだ幼いと思います。」
「ネコ連れだったのですか?最初から放してもよかったのに。」
総一郎さんが、気遣うように言ってきた。
「いやあ、カゴの中で爆睡してる大物ぶりだったからつい、そのまま寝かせたままにしてました。」
信二郎おじいさんがタマをしげしげと眺めて頷いた。
「ふむ雑種だが、浅葱猫の血が濃いな。」「ニャ?」
浅葱猫?初めて聞く名前だ。
「浅葱猫?なんすか?それ?」
「日本の在来種、それも浅葱町しかいない種なんだよ。」
「わかったような、わからないような。」
ワタシが首を傾げていると信二郎おじいさんが朗笑した。
「まあ、いろいろ特徴あるネコじゃよ。こちらの世界でも変った部類に入るから、もしかしたらそちらの世界でも、ちょっと変わったネコと思われるかもしれんがの、ほっほっほ。」
「…変わってるのは人だけで十分です。」
勘弁してくれ、この世界は人間だけではなく、ネコも変わっているのか。
「ま、兄の捜索を改めてお願いしますぞ。」
「は、はいっ!」
これからの捜索、浅葱猫という系統のタマ。なんかいろいろな情報を得た一日であった。敬一郎さんはどこにいてどうしている(どうしていた)のか?いったいタマのどこが変わっているのだろうか?
ワタシの考えをよそにタマは相変わらず、かわいらしく鳴くのであった。
「ニャ~」
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