4-4 珍しく執筆中

 「ふう、忙しくなるなあ。」

 ココは浅葱町。一応、異世界。今日も元気にケイさんのアパートにて執筆してます。つくづくこたつは偉大だ、暖まりながら執筆が出来る。今度、どてらも持ち込もう。

「のんきにペン走らせてるようにしか見えんぞ。」

 そんなワタシを茶化すようにケイさんは楽譜とにらめっこしている。

「うっさい、ちゃんと原稿用紙に小説書いてるのよ。今までの経緯をね。」

「え?発表するのか?それはまずいんじゃないのか?」

「違う、違う。浅葱翁と敬一郎さんのお話を異世界云々を伏せて、元の世界の小説サイトやブログに投稿するのよ。感想や反応に敬一郎さんの手がかりになるような情報があるかもしれないじゃない。」

「ああ、なるほど。それじゃ浅葱だけではなく、元の世界でも執筆活動するんだ。」

「うん、どこまで通用するかわかんないけどね。さて、次の用紙に…。タマ、そこどいてくれる?」

「ニャ~♪」

「いや、ニャ~じゃなくて予備の原稿用紙の上に乗っかってるからジャマだって。」

 人の言葉がわかるのか、タマは悲しそうなトーンで鳴いた。

「ニャ~」

「い、いやジャマって言ってもいらない子ってワケではないのよ、タマ。」

 おろおろするワタシにケイさんは呆れたようにツッコミを入れる。

「パソコンやタブレットで書けばいいものを。オフラインでも保存できるだろ?」

「紙に書いた方がうまくまとまるのよ。タマや、おやつあげるからどいてよ。」

「ニャ~?」

 おやつのささみジャーキーをちらつかせるが、タマは興味ないよという顔している。満腹なのかダメだ、動いてくれない。

「おやつ作戦失敗か。」

「キャットフードじゃなきゃダメなんじゃないのか?」

「うーん、あげると食べるけどネコまっしぐらって感じじゃないのよね。庭に植えたネコ草もあまり食べてないみたいだし。」

 ワタシが腕組みして悩んでいるとケイさんが思い付いたように言った。

「なんか良いエサをやったんじゃないのか?贅沢覚えるとなかなかキャットフード食べないぞ。」

「そっかなあ、夕飯の際に一緒に刺身をやったり、大家さんの差し入れの釣ったばかりとかいうお魚を時々やったくらいよ。」

「…それだよ。」

「ええ~!!そうだったの?!タマ、なんて贅沢なやつなんだ、お前は。」

「いや、お前が贅沢にさせたんだろ。しかし、タマってつくづく昭和なネーミングだな。」

「いやあ、家が築50年の平屋だし日本のネコだし。某国民的アニメ見てたら共通点あるから、ついついタマという名前がうかんでねえ。」

「でもこっちのタマは茶トラだろ、あちらのは白ネコだぞ。」

「うっさい、男が細かいコト気にするのじゃない。」

 ワタシはぴしゃりとその点は黙らせた。

「それにしても、浅葱のじいさんが言ってた“浅葱猫”って何だろな?」

「たぶん、ウチらの世界の日本猫みたいなのではないかい?あ、良かった。タマが移動してくれた。」

 タマはあくびをして、トテトテと移動してうとうとしだした。どうやらあちこち寝心地良いところを試しているらしい。

「…タマ、楽譜の上に乗るなよ。」

「ニャ~♪」

「ケイさんも楽器部屋で曲作ればいいのに。」

「楽器部屋にはコタツ持ち込めないだろ。おいタマ、マタタビやるからどいてくれよ。」

 そういうとケイさんは、いつのまにか用意したマタタビを部屋の端へヒュッと投げた。

「フミュ~?」

 ケイさんの予想に反してタマは微動だにしない。それどころか大アクビすらしている。

 ワタシは教えていなかったなと思いつつ、アドバイスをした。

「あ、ダメよ。マタタビ作戦は。この子は何故かマタタビに見向かないの。」

「なんだよ、せっかく買ったのに。変なネコだなあ。」

 その時、不意に第三の声がした。

「そりゃそうよ。浅葱猫系だもの。」

「うわあ!みっちゃん!チャイムくらい鳴らせよ!」

 唐突に声がしたのとネコ嫌いのはずのみっちゃんがそばにいたので、ケイさんはかなり驚いたようだ。書きかけの楽譜に走らせていたペンが大きくぶれている。

 普段なら突っ込み所満載な登場の仕方だが、浅葱猫の話みたいなので話の流れを切らないように尋ねてみた。

「浅葱猫だと、なんか違うの?」

「浅葱猫は名前の通りアサツキが好物なのよ。」

「…なんとなく予想してたが、こうまでコテコテとは。」

 そうだ、みっちゃんは確か…それは突っ込み入れるか。

「ところでみっちゃん、ネコ嫌いではないの?」

 みっちゃんは心なしか張り詰めた顔をしているし、冬なのにうっすら冷や汗かいているし、無理しているのは明らかだ。

「…もう限界!今日は滞在時間一分三十秒ね。待っててね、キョウさん。今度は3分居られるようにするわっ!」

 バタンッ!!

 みっちゃんはそう叫びながら出ていった。

「…耐性をつけようとしているのね。これって愛の力かねえ。」

 ある意味感心したようにワタシが言うと疲れたようにケイさんが答えた。

「俺にはストーカーにしか思えんがな。」

「奥さんいることカミングアウトすれば?」

 ワタシは提案するが、ケイさんは消極的だ。

「紹介しろとかややこしい事になるし、かみさん達を浅葱町異世界に巻き込むつもりはないな。」

 …ココは浅葱町、一応、異世界。こうして珍しく製作活動をする二人と一匹なのでした。

「ニャ~」

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