3-3 ワタシ、ほええ~と叫びまくる

 図書館のPCに移動して、検索すると浅葱氏の事が書かれているHPや、こちらのフリー百科事典サイトにヒットした。

『浅葱英一郎は明治18年生まれ。浅葱藩主の子孫である浅葱唯成の三男として生まれる。

 若い頃は徳田家の傍系である三橋家に仕え、三橋義忠と共にヨーロッパへ留学し、絵画及び経済学を学び画家を目指すが兄の急死により帰国。家を継ぐように命じられるが、拒否し、義忠と共に上京して大蔵省に入り、日本の経済活動の重鎮になっていく。

 大蔵省退職後は次々と会社を興し、商工会議所など数々の団体設立にも尽力し、代表に就任した。これらは今日も経営している企業も多い。

 その肩書きは大日本第壱銀行頭取、三橋経済大学初代学長、松上電機取締役とそうそうたるものが多い。』

 ひょええ~。すごい人だったんだ。って名前がやはり微妙に違うが、ワタシの世界に置き換えると…ひょえええ。

『また、絵画を学んでいた影響で自ら絵画や小説をたしなみ、芸術家の育成と発展には私財を惜しみなく使い、浅葱大学(現・浅葱芸術大学・あさぎ美術短大)の創立にも関わり初代学長にも就任している。』

 ほええ~いくつ体があるんだ、この人は。パワフルな人だねえ。

『61歳の頃、故郷である浅葱町に戻り、それに伴い大学も移転。地元の発展に尽力する…。』

 ほええ~。もはや『ほええ~』しか出てこない。

『芸術方面の育成の一環として財団を設立。『国内で芸術を学ぶには浅葱町』と言われるくらい、芸術の第一線で活躍する者は浅葱町出身者又は浅葱大学等出身者が多い。『浅葱は芸術の町』と言われる所以である。』

 ほええ、だからあのアパートにもクリエイター関係の人が多いのね、納得。

「どう、すごい人物とわかったでしょ。」

 パソコンを閲覧しているとシキブ姉さんが近づいてきた。その顔はなんだかどや顔だ。

「小さなネギだらけの町と思ってましたが、意外な一面ありますねえ。」

「ネギだらけは余計。それにネギではなくアサツキよ。」

 よそ者にすれば小ネギもアサツキもワケギも一緒なんだが、この町の人間はとことんアサツキにこだわりがあるらしい。

「だから兄さんのアパートにはクリエイターのタマゴさんが多いんだなあ。」

「まあ、それでここは芸術の町としての一面もあるのよ。アサツキが特産の小さな町が芸術や観光面で大きく発展できたのも浅葱氏の功績が大きいの。」

 ほうほう、あとでパソコンの画面をプリントせねば。あ、そうだ。あれも聞こう。

「ちなみに浅葱翁には子孫っているんですか?」

「孫がいるわね。確か町会議員やってて、その息子…曾孫は町役場の職員しているけどそのうち跡を継いで立候補するのじゃないかな。」

 本当に名士の家系なのだな。会って話を聞きたいが、神隠しの話なんて聞いたら失礼だろうし、まず接点がないよな。

「子孫もスゴイんだなあ。浅葱祭り、面白そうだし行って見ようかな。何か小説の参考になりそうなものあるかも。」

 とにかく、有益そうな情報はメモしておこう。良かった、タカヒト君から逃げるために来たとはいえ、それなりに収穫はあったようだ。

「あれは楽しい祭りよ。お勧めするわ。じゃ、調べ物頑張ってね。ただし…。」

「はい?」

 シキブ姉さんはキリッと引き締まった表情に変わり、ワタシに向かってこう言った。

「図書館は静かに!いちいち『ひょええ~』とか『ほええ~』とか声に出さないでね。周りがあなたに奇怪な視線送ってたわよ。」

「…はい。すみません。」

 無意識って恐ろしい。うーん、小説で賞を取る前に笑いを取ってたか。いっそ芸人になろうかしら。

 そんなワタシの様子を笑いながら様子を伺っている人が居たのには、この時は気づかなかった。

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