1-3 それってホントに異世界?
ケイさんはワタシの問いかけにも淡々と答える。
「まあ、自宅でやるよりは安全なんだよ。場所を覚えられない、異世界だからスマホも繋がらないから地図も開けない。だからストーカー対策になるし」
そ、そんなものか?! ツッコミ所満載な気がするぞ。
「ええ……? 異次元の存在がバレた方がもっと大変だと思うけど」
「いや、意外とバレないものだ。異次元なんて皆、信じてないから。馬鹿げていると一笑に付される。この町だってせいぜい慣れない町に来て迷ったと思うのがオチだ」
確かに五分前の自分も異世界を笑ってた側だ。しかし、リアルに言うなあ。
「もしや、一笑に付される経験をしたのですか?」
ワタシが気になって尋ねると、ケイさんはやや遠い目をして語り始めた。
「ああ、ほとんどの人間がそうだった。仮に異世界と気づいても、……街が街だしねえ。この世界を案内しても興味を持たずに皆、元の世界へ戻っていく」
なんか含みがある言い方なのがひっかかるが、理解してもらえない苦しみがあったのはわかった。いや、それよりもその異世界とやらがいろいろ気になる。
「なるほどね。それなりに苦労したのですね。ところで、ケイさん。質問なんですが、異次元というからには何か違うんですよね。魔法が使えるとか、ドラゴンやエルフや妖精とかファンタジーな生き物がいるとか。それでもって、異世界から来た人はチートになって俺TUEEEになるのですよね!」
ワタシはワクワクしていた。だってラノベや映画みたいな世界が自分の目の前にあるのだ。魔法使えるなら何をやろうかしら、やはり空を飛ぶとか杖から炎を出すとかかしら。
しかし、ケイさんは申し訳なさそうに、きっぱりと答えた。
「悪いが、そんな華やかのはない」
「えっ?」
「政治・芸能・経済が多少違うだけであとは元の世界と変わらない。元号も平成だし、一万円札は福沢諭吉だし、日本語も食べ物もほぼ同じ。浅葱町の行政区画はS県の北部にあたる町だ。まあ、少しというか微妙にそれぞれ違うけどな」
はい?! 異世界なのに単なる日本の町? 魔法無し!?
「それってホントに異次元なんですか?? 隣町の間違いなのでは……」
ワタシが聞くとケイさんは重ねるようにして反論してきた。
「だって
ワタシはずっこけた。その名前は知っている。森本良太はお笑いタレントもしている気象予報士だ。それが都知事とは確かに異世界だ。しかも、なんかイヤな違い方だ。
「それにその天気予報の的中率はかなり高い」
…確かに違うけど、はっきり言ってショボイ。他はほぼ同じってなんだかなあ。
「なんか、こう、もっと異世界らしいものはないのですか?」
「微妙な違いばかりだからな、いちいち説明するより町を見ればわかるけどな」
「ええー。異世界って、もっと、こう、華やかに魔法とかあるものだと思ったのに」
がっかりしながら、ワタシは尚も食い下がる。しかし、ケイさんはあくまでも現実的に対応した。
「いいか? パラレルワールドって言葉あるだろ?」
「はい、いろんな世界が無数に同時に存在して重なってるとかなんとかだったかな」
「そう、漫画や小説では魔法が使えてドラゴンがいるとか、あるいは科学が発達している異世界とかな。だが、無数にあるって所がポイントだ。自分の住んでる世界と一点しか違わない世界だってありえる。だからこんな世界もアリなんだ」
た、確かにそうだ。そうなんだけど……、理論的には確かにそうなんだけど……。え~と、なんというか、そのう……。あれ?
脱力しながらも私は素朴な疑問をぶつけた。
「じゃあ、なんでケイさんはこのメリットのなさそうな異世界を行き来しているんですか?」
彼はちょっと考えてから答えた。
「そうだな、この世界でも自分の歌が通用するのかな……と」
え? 歌?
ワタシは意外な答えに驚いていた。
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