1-2 異世界との出会い
雨宿りに入った私はしばし、カバンに入れていた文庫本を読んでいたが、雨音が止む気配はない。そのまま雨が止むのを待っているのにも飽きたワタシは建物の中も散策してみることにした。雰囲気からして誰か住んでいるわけではないらしい。
一階はホールのようだ。こうやって気軽に入れることから単なる空き家なのだろうか? 現にこうやって入っても誰もこない。でも、きれいに掃除されているし、ただの空き家という訳でもなさそうだ。よく見ると貼り紙が貼られている。何かの施設かもしれないが、紙は黄ばんでおり何が書いてあるのかはっきりしない。
ホールの南側には窓が二面あって、その脇に二階へ通じる階段になっている。階段にはロープがかかっており「立ち入り禁止」の表示があるから上には昇れない。二階探索は諦めて、改めてホールを見渡す。二面の窓からは同じように雨の景色が見える……はずなのに、なんだか変である。
右側は相変わらず、土砂降りの雨の町並み。紫陽花が雨に濡れて生き生きとし、地面は濡れて人々は慌てて駆け抜けたり、傘を指している。
窓の左側は晴れている。いや、それだけなら偶然、天気の境目に居るのだと見ることもできる。
町並みが明らかに違う。左側は池があり、沢山の蓮が夏の日差しを受けている。子供達が池に入って蓮の葉っぱで遊び、歓声を上げて水を掛け合ったり、葉っぱを摘んで遊んでいる。回り込んで眺めるが、景色が繋がらない。
「おかしいな、いくらなんでも。窓一枚の距離で天気や町並みが変わるのは。まるで別の世界を同時に見ているような……。まさか、異次元の世界の境目なのか? ここは? いや、いくらなんでもそんな……」
思わぬことに声を出して混乱していると、私の背後から声が聞こえた。
「気づいたようですね」
振り返るとそこにはケイさんがいた。
「あなたは……ケイさん?」
ワタシが驚いていると、ケイさんは淡々と続けた。
「察しの通り、この建物は異次元の境目。さきほどまでセッションしていたの が異次元の街、浅葱町。あなたが来たのとは違う世界だ」
異次元? ってことはライトノベルにある異次元召喚ってやつ?
「え? じゃあ、ワタシ達は召喚されたってことですか?」
「まあ、一種の召喚と言えますね。浅葱町の人間や俺のような行き来できる人間が招待すると
なるほど、何か素質があるという訳ではないのか、がっかりしているとケイさんは続けた。
「ただ、この違いに稀に気づく人がいて、そうすると
唐突に言われてもピンと来ない。ここ、現代日本だし、二十一世紀だし、平成だってもう終わりに近い。
なのに異世界だなんて、ラノベみたいなおかしな事を口走っているとも思える。しかし、二枚の窓の異なる景色は彼の言葉を真実と証明している。
「……大胆ですね。そんな異次元でセッションするなんて。リスクありません?」
私はやや間抜けな言葉で切り替えしていた。
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