第23話 神を殺す者
ウォルフ達は謁見の間から飛び出した。
そこには爆音を聞いた帝国兵が駆け付けていた。
「邪魔だ!」
ウォルフは目の前に居た帝国兵を殴り飛ばし、手にしていた槍を奪い取ると、次々と敵兵を刺し殺し、殴り倒した。
「敵だ!敵だ!」
帝国兵がそう叫んだ時、激しい爆発が起きて、城が崩れた。
爆風で吹き飛ばされたウォルフ達。
ラナが気付くと、彼女とステラ姫を覆い被さるようにウォルフが圧し掛かっていた。
「ウ、ウォルフ!」
ラナが叫ぶと、ウォルフは目を開ける。
「大丈夫だ。くそっ」
ウォルフは飛び散った瓦礫を背中で受けたために大きく傷ついていた。
「あんた・・・その姿・・・」
ラナは血だらけのウォルフの背中を見て、驚く。
「おい・・・姫様を連れて、逃げろ」
ウォルフは振り返る事なく、ラナにそう告げた。
「だ、だけど」
「俺はもう・・・逃げられるだけの力はない。だが・・・ここであいつを食い止める」
ウォルフが見る先には半分以上を失った城の上に浮かぶ一人の存在。
帝王
彼は教皇の首を左手に持ち、ウォルフを見下ろしていた。
「ははは。この老いぼれめ。ついに殺してやった。神に背いた罰だ」
帝王は笑いながら教皇の首を宙に放り捨てた。
首は瓦礫に満ちた城の床で跳ねて、ウォルフの足元に転がった。
「さぁ・・・姫の魂を喰らおうか。それで俺は完璧になる」
帝王の視線はウォルフになど無い。その背後のステラだけだった。
「おいおい・・・俺は無視か?」
ウォルフは近くに落ちていたロングソードを手にした。
「ははは。雑兵が・・・邪魔だ」
帝王がそう叫ぶと、風が起こり、ウォルフの身体を吹き飛ばそうとする。
「化け物かよ」
ウォルフは風に堪えながら、帝王を睨む。
「ふん・・・望み通り、殺してやる」
帝王はウォルフ目掛けて、一気に降りて来る。その手には光の筋が現れ、剣となる。
帝王とウォルフがぶつかり合う。光の剣はウォルフの剣を一瞬で切断した。
だが、ウォルフは光の剣を避け、帝王の懐に飛び込み、その腹に体当たりを食らわせる。帝王は激しく後方へと吹き飛ばされた。
「ぬぅ!」
何とか耐えた帝王だが、苦痛に顔を歪ませる。
「おいおい。神様になったんじゃねぇのか?」
ウォルフは減らず口を叩く。その姿に帝王は怒りを見せた。
「この・・・愚か者・・・殺してやる」
「殺してやる?それは俺の台詞だ」
ウォルフは鎧を放り捨て、その内側に隠しておいた旧式のフリントロック式拳銃を手にした。
「それが俺に通じると?」
帝王は笑いながら、ウォルフに向けて光の剣を振り上げた。
「はっ・・・これを止めれるか?」
ウォルフは帝王に向けて発砲した。
激しい銃声と白煙が放たれた。
帝王の身体に無数の鉛片が撃ち込まれる。
「ぬおおおお」
「この近さなら、効くだろう?」
帝王は体中に撃ち込まれた無数の鉛片による激痛に身を捩る。
ウォルフは銃身の裂けた拳銃を放り捨てる。そして、腰からナイフを取り出した。
「よう・・・神だか、何だか知らねぇが・・・てめぇの為にどれだけの人が苦しんだと思ってやがるんだ」
「はぁはぁはぁ・・・この・・・この野郎ぉおおお!」
帝王は再び光の剣でウォルフを斬ろうとした。だが、それよりも早く、ウォルフは彼の懐に飛び込み、ナイフを彼の胸板に打ち付けた。
「悪いが・・・お前よりも遥かに多く戦ってきたんだよ。そんな鈍い剣で斬られるわけが無いだろ?」
ウォルフは帝王の身体を蹴り飛ばす。ナイフが抜け、帝王の胸板から鮮血が噴き出す。
「はっ、神様の割に人間と同じ血の色じゃねぇか」
背中から倒れた帝王は何かを求めるように空に手を伸ばした。
そして、パタリとその腕が地面に落ちた。
「倒したのか?」
ラナがウォルフの背中にそう尋ねた時、帝王の身体が輝き出した。
「何だ?これは?」
ウォルフは目映い光を手で遮るしかなかった。
一瞬の輝きが空へと放たれ、それはまるで雪のように降り注いだ。
「こ、これは・・・一体?」
ウォルフは光の中でラナ達を振り返る。
「んぅ」
意識の無かったステラが目を覚ます。
「ここは・・・」
「姫様、帝王も教皇も倒しましたよ」
ラナは泣きながらステラを抱き締める。
「本当ですか・・・全てが終わったのですか?」
ステラの問い掛けにウォルフは頭を搔きながら呟く。
「終わったかと言われると・・・厄介で面倒な事が一気に出来たのかもしれないがな」
ウォルフはそう言いながら、槍を手にした。
「帝王様はどこだ?お前らは一体・・・」
駆けつけて来た帝国兵に対して、ウォルフは叫んだ。
「帝王は俺が殺した!この時点でここに居られるステラ姫がこの国の主だ。命が惜しい者は帝国に戻れ!それ以外は姫の騎士である俺が相手をしてやる!」
ジャンク・サーガ 三八式物書機 @Mpochi
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