第22話 神に最も近付いた男
颯爽と立つ帝王の顔を見て、ウォルフは驚いた。
「誰だ・・・お前?」
ウォルフが帝王に向かって問い掛けた言葉。
それはあまりに変わってしまった帝王の姿。
齢40歳を超えているはずの帝王。だが、目の前に立って居るのは明らかに20代前半の若者だった。
「んっ・・・ほぉ・・・」
帝王はウォルフに問われ、自らの顔を触る。
「若返ったのか?」
確信は無いものの、肌の張り具合などは確かに若い頃の感じだと帝王は感じた。
「はぁ・・・はぁ・・・それが神の力ですか?」
ステラは拘束を解かれ、何とか立ち上がる。
「ははは・・・こんなのは一端だろう。本当の神の力とは・・・な」
帝王は笑いながらステラを見た。
「まだ・・・生きているという事は・・・力を全て吸出し切ってないのか?」
帝王はステラへと歩み寄る。それを妨げるようにラナが立つ。
「この化け物がっ!」
ラナは手にした小型の回転式拳銃を撃つが、帝王はそれを身に受けながら、気にする様子も無く、歩み寄る。
「邪魔だ。小娘」
帝王はラナを張り倒す。軽く払っただけにも思えたが、一瞬にしてラナが数メートル、吹き飛び、床を転げる。
「おいおい・・・女相手に・・・」
ウォルフは拳銃を捨て、剣を抜いた。
「ほぉ・・・神に刃を向けるか?」
帝王はおもしろそうにウォルフを眺める。
勝てる気がしない。
ウォルフは刃を帝王に向けながら、正直にそう思った。
銃弾も利かぬ相手に刃が届くのか。
否
そもそも、近付く事さえ、出来ない気がして来た。
そんな不安を相手に気取られぬようにウォルフは冷静に構える。
「力が漲る・・・これが神の力か・・・素晴らしい・・・」
帝王は笑みを浮かべながら歩き出す。ウォルフの事など眼中に無いように。
「あと少しだ。あと少しで、俺は神になれる。邪魔をするな」
帝王は軽く右腕を振るう。それによって、ウォルフの身体が軽々と吹き飛ぶ。
「ぬぅ」
ウォルフは転がり、壁に激突する。
「い、今のは?」
ウォルフは痛みに耐えながら、立ち上がろうとする。
だが、その時には帝王の手がステラに伸びようとしていた。
刹那、激しい閃光が大きく開かれた窓から帝王に注がれた。そして、それは爆ぜた。爆風が室内を荒れ狂う。
ウォルフはまたしても壁に激突する。
「な、なんだ?」
更なる痛みに耐えながらウォルフは爆風によって、粉塵が舞う室内を見た。
帝王は身体をよろめかせながら、窓を睨んだ。
「これは・・・」
帝王が睨む先には空中に浮かぶ教皇の姿があった。
「ふん・・・神の力を手に入れたようだが・・・まだ、不完全みたいだな。悪いが・・・儂がその力を奪わせて貰う」
教皇は怒りに満ちた表情で帝王に襲い掛かる。
「愚か者がぁあああ!」
帝王もまた、怒りに満ちた表情で教皇を迎え撃つ。
互いに閃光を生み出し、それをぶつけ合う。
あまりに想像を絶する力と力の衝突に激しい衝撃波と振動がウォルフ達を襲い、帝王の部下達は慌てて、逃げ出して行った。
城は壊れ始め、瓦礫が落ちて来る。
「きゃ」
ラナは悲鳴を上げながら、ウォルフの元へと駆け寄る。
「ど、どうなるの?」
ラナは不安そうに二人の激しい戦いを見る。
「解らんが・・・姫様を・・・」
ウォルフは何とかステラを助け出そうと思うが、激しい二人の戦いの傍に居るせいで、姿すら見えなくなっていた。
突如、炎の柱が立ち、竜巻が起き、吹雪が吹いた。
「天変地異が起きているみたいだ。こいつが、神の力って奴か?」
ウォルフは立ち上がる。
「悪いけど・・・邪魔だ」
ウォルフは回転式拳銃を握った。それを腰溜めに撃つ。
一瞬にして離れた6発の銃弾が帝王と教皇に襲い掛かる。
「ぬぅ!」
銃弾は彼らの皮膚を裂く。
「おっ・・・効くじゃねぇか。やっぱり神様でも何でもねぇ。お前らはただの人間だよ。人間風情が偉そうにしてるんじゃねぇよ」
ウォルフは回転式拳銃を放り捨て、ロングソードを構える。
「お前・・・人間如きが・・・」
教皇が怒りに満ちた表情でウォルフを見下ろす。
「黙れ・・・お前も人間如きなんだよ。教皇・・・俺は無神論者ねぇ。神様なんてクソ喰らえだと思っている。昔からな」
ウォルフは一気に駆け出した。
「舐めるな!人間」
帝王が振り下ろす右手から放たれた閃光。だが、ウォルフはそれを紙一重で躱す。刹那、左手を腰に回し、ダガーナイフを抜き放ち、帝王に投げつける。それは不意打ちを喰らった帝王の右腕に深々と突き刺さる。
「ぎゅあああああ!」
帝王は痛みに顔を歪め、地面に落ちる。それを無視して、ウォルフは教皇にまっすぐに突っ込む。
「こ、この」
帝王が落ちた事に動揺した教皇はウォルフを睨みながら、何かの呪文を唱えようとした。
「おせぇえよぉ!」
ウォルフの剣先が教皇の左腕を落とした。
教皇は悲鳴を上げながら、帝王と同じように床に落ちた。
「ラナ!姫をっ!」
ウォルフの声にラナが駆け出し、倒れているステラを担ぎ、扉へと向かう。
帝王は刺さったダガーナイフを抜き、放り捨てるとラナに向かおうとする。だが、それをウォルフは許さない。
「死ねぇえええ!」
ウォルフのロングソードが帝王に襲い掛かる。だが、帝王はその刃を左手で掴む。
「くぅ」
その手は刃に斬れる事無く、尋常じゃない力で掴んだ。ウォルフは刃を押し込もうとするが、ピクリとも動かない。
「愚か者・・・儂の邪魔をしおって」
帝王は軽々とウォルフを投げ飛ばす。ウォルフはロングソードを手放すも身体は空中を舞い、壁へと衝突する。
「殺してやる」
帝王の手が輝き出す。だが、ウォルフは腰から火薬嚢を取り出し、帝王に投げつける。帝王は咄嗟にそれに閃光を当ててしまう。空中で爆発が起きて、帝王は怯む。次の瞬間、帝王はウォルフを見失った。
「くそっ」
帝王が追い掛けようとした時、その背中に激しい痛みが生じる。
「逃がさぬわあぁあああ!」
背後から帝王に一撃を与えたのは片腕を失った教皇だった。片腕を失いながらも決死の形相で彼は帝王に光の太刀を浴びせたのだった。
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