第21話 復活の日
ウォルフとラナは王城の前に辿り着いた。
「戦況報告に参った。通してくれ」
ウォルフは澱みなく門番に伝える。その自然な振舞に門番も彼が帝国騎士だと思い、通してしまう。
「意外とすんなりと来れたな」
ウォルフは軽く笑った。
「思ったより・・・守りも少ないわね。戦力の殆どを教国軍に向けているからかしら?」
ラナは冷静に王城内の戦力を観察する。
「まぁ、当然だろう。俺らの存在なんて、帝国側は殆んど察知してないだろうしな。帝王はとにかく、儀式をやって、姫様の力を手に入れて、あの化け物じみた教皇と対決したいだろうしな」
「あの化け物と戦える力が姫様から得られるのかねぇ」
ラナはまだ、信じては居なかった。
「俺もそう思うけど・・・それでこれだけの戦乱になっているんだ。世界を手に入れる力があるとしても不思議には思わないよ」
ウォルフ達は冷静に王城内を探りながら歩く。
「どこで儀式をやっているか・・・解らないな」
ウォルフは困惑する。
「儀式って言うぐらいだからそこそこ広い場所だろ。例えば謁見の間とか?」
「あぁ・・・あそこか」
ウォルフは国王と妃の首を刎ねた事を思い出す。
「では向かってみよう」
その頃、帝国軍の妨害を受けた教皇は怒りに顔を歪ませながら、圧倒的なその力を振るい、帝国軍を薙ぎ払っていた。
「くそぉ・・・ちょこまかと・・・あと少しで神の力を手に入れる事が出来るというのに・・・あの男がそれを手に入れると言うのか・・・新たな神が生まれるのは許さんぞぉ」
教皇の怒りとは裏腹に彼の放つ、雷撃も徐々に力を失いつつあり、教国軍の進軍も鈍くなりつつあった。
そんな事を露と知るはずもない帝王は儀式を玉座にて、眺めていた。
「帝王。儀式の準備が整いました」
儀式を司る神官が彼にそう告げる。
「そうか・・・では、始めるぞ」
帝王は玉座から立ち上がると、魔法陣へと進む。
手足を縛られ、猿轡もされたステラはただ、帝王を睨むしかなかった。
「ははは。あと少しの命だ。私が神になる様を見届けろ」
帝王はステラを見下しながら笑う。
魔法陣の周囲を囲む神官達は帝王の準備が整うのを見てから、呪文詠唱を始めた。
同時に魔法陣が青白く輝き出す。
「おぉおお・・・魔法か・・・これが魔法なのか」
帝王は驚いた。彼の驚きは当然だった。
すでに魔法は廃れた技術だ。
今の人々の多くは魔法を知らない。
僅かに残された魔法は神官などが儀式に用いる奇跡と呼ばれる力であった。
その時、ステラの顔が苦痛に歪む。
「おおぉ。力が・・・入って来る・・・」
帝王は自らの身体に何かが入り込む感触を感じた。
・・・お前が・・・新しい・・・躯か?
帝王の頭の中に突然、響き渡る声。
「誰だ?」
帝王はその声に尋ねる。
・・・誰だと?・・・私を知らないのか・・・愚者め。
「誰に向かってそのような口を・・・」
帝王は怒りを露わにする。
・・・愚者の癖に・・・態度が大きいな。我は・・・この世を創った神なるぞ・・・
「神だと・・・まことに・・・神か?」
・・・あぁ・・・そうだ。長い時間・・・人の魂の中に鎮められておったが・・・きさまが我を起こしたのか?
「あぁ、そうだ。お前の力をいただく為にな」
帝王は笑いながら答える。
・・・我の力を?・・・やはり愚者だな。人が神になれるとでも?
「なれるさ・・・現にお前はこうして、俺の身体に取り込まれようとしている」
・・・確かに・・・融合するという点においてはそうだろうな。だが・・・消えるのはお前の方だ。愚者よ
その瞬間、帝王の身体が青白く輝き始める。その場に居た誰もが驚き、たじろぐ。
「ぬくううううう!お前達、呪文詠唱を止めるな!こいつを押さえつけるのだ」
帝王は叫んだ。その声に驚いた神官たちは慌てて、呪文詠唱を再開した。
ステラは断末魔の叫びを上げんともがき苦しむ。
ドン!
扉が蹴り破られた。
「ちっ・・・遅かったか・・・まだ、姫は無事か?」
ウォルフは抜き放った剣を構えながら、一気に帝王へと駆ける。
「何奴?」
帝王は薄っすらと開いた目でウォルフを見た。
「死ねぇえええ!」
ウォルフはロングソードを振りかぶった。刹那、帝王が右腕を彼に向けて伸ばした。瞬間、青白い光がウォルフに照射される。一瞬で彼の身体が吹き飛んだ。
ぬぉおおおお!
ウォルフは地面に転がる。彼が着けていた甲冑などはその一撃で破壊され、無惨な姿になっていた。
「げぐっ」
強烈な一撃を受けて、ウォルフは血反吐を吐く。
「ウォルフ!」
ラナは神官に拳銃の銃口を向けながら、ステラの元へと駆け寄っていた。
「姫を連れて逃げろ!俺が時間を稼ぐ!」
ウォルフはボロボロになりながらも立ち上がる。剣も先ほどの一撃を受けて、ボロボロになっていた。
「なんていう力だ。このわけのわかない力が神の力か?」
「ほぉ・・・今の一撃を受けて・・・生きていたか・・・頑丈な男だ」
帝王は感心したように呟く。
「悪いな・・・悪運だけは強くてね」
ウォルフは剣を神官の1人に投げつけた。それは彼の胸板を貫き、倒した。それを見た神官たちは驚き、慌てて逃げ出す。それを見たラナはステラを担ぎ、駆け出す。
「待て、その女には、まだ、我の魂の残渣が残っている。全てを吸い出すまで、この場から離れる事は許さん」
帝王はラナに向けて手を伸ばそうとする。
ドン!
銃弾が帝王の横っ腹に叩き込まれる。
「ぬぅうううう!これは?」
帝王は体勢を崩し、その場に崩れ落ちる。
「悪いがお前の相手は俺だよ」
ウォルフは回転式拳銃を構え、帝王に近付く。
「鉄砲か・・・人の癖に神の如く、力を飛ばせるとはな」
「何が神の如くだ。くだらないね」
ウォルフは再び発砲した。銃弾は再び、帝王の身体に当たる。彼はフラりとバランスを崩し、片膝をつく。
「殺してやる」
ウォルフは残弾を全て、撃ち込んだ。至近距離故に外す事は無い。
帝王は片膝をついた姿勢で身体に鉛玉を撃ち込まれ、床に転がった。
「ぬうううう!痛い。痛いぞ。これが人の身体か。何とも言えぬ」
帝王は笑っていた。撃たれたはずなのに。
「化け物か」
ウォルフは回転式拳銃の弾倉を外し、装填済みの弾倉を装着した。
「化け物だと?神に向かって不敬だぞ?人よ」
帝王は何事も無かったように立ち上がる。
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