第19話 神の力を得る者
ウォルフ達は王国の中にある村へと辿り着いた。
「酷い有様だ。略奪・・・皆殺しか」
家には全て火が掛けられ、殺された村人は弔われる事も無く、その場で腐り果てていた。
「この辺は人間の味を知った獣が多く居るだろうから・・・気を付けろ」
ウォルフはラナにそう忠告をする。
「解っているけど・・・酷い臭い」
「人間が腐る匂いだ。戦場じゃ、よく漂っているよ」
「これだから・・・戦争は嫌いよ」
「そうだな。だが・・・帝王からすれば、この程度の事は些末な事だったみたいだな。どれだけ民が苦しんでも、神の力が得られるならば・・・確かに・・・そうだろう」
「神の力・・・教皇みたいに人間を超越した力って事?」
「そういうことだな。確かにあんな化け物みたいな力を手に入れたら、国を滅ぼしても構わないかもな」
ウォルフは村の中を探索しながら進む。
「さすがに食料は残って無さそうね。井戸で水だけを汲みましょうか?」
「井戸か・・・汚染されてなければいいがな」
ウォルフは井戸を覗き込む。死体が落ちていれば、その水は汚染されて飲めないと判断するしかない。
「綺麗な感じだな。多分、飲めるよ」
桶で井戸から水を汲み上げる。
「水の補給が出来たのは良いけど・・・食事はどうする?こんな調子じゃ、周囲の村々もどうなっているやら」
ラナは不安そうにウォルフに尋ねる。
「だろうな。まぁ、ちょっとした大きさの町ぐらいになれば、皆殺しは無いと思うが・・・帝国軍も補給路が伸びているのと同時に本国の人手不足で飢饉が発生している。物資が圧倒的に不足しているんだよ」
「そんな状態で戦争を続けていたの?」
「戦争ってのは金喰い虫だからな。人も金も食料も全てを消費するだけだ」
「無駄な事・・・」
「そんなもんさ。不幸なる奴ばかりが戦争って奴さ。僅かな富を独占しようとすれば、自然とそうなる」
ウォルフは自嘲気味に笑う。
「まぁ・・・良いわ。ただ、飢えていくのは私達も同じ・・・王都までどれだけ急いでも徒歩じゃ1週間程度は掛かるけど、その間の食料はどうするの?帝国のバッタ共が根こそぎ、食べてしまっているようだけど」
「そうだな・・・野兎でも狩るか」
ウォルフは最新式のライフル銃を手にして言う。
「弾にも限りがあるのよ?無駄弾を使わないで」
「練習だよ。練習無しに当たるもんじゃない」
ウォルフは笑いながら言う。それに呆れるラナ。
その頃、帝国軍の真ん中を突っ切る教国軍。犠牲を顧みない戦い方は疲弊した帝国軍を圧倒し、数で勝っているはずの帝国軍は後退の一途であった。
「あと少しだ!教皇様を先に進めろ!神の御加護があらせられる」
教皇の配下の将軍が兵士達に檄を飛ばす。幾ら信仰が厚いとは言え、慣れない戦いを繰り返す事を強制された彼等の疲弊は半端じゃなかった。次々と脱落者が生まれ、苦しい戦いだった。
血で血を洗うという言葉通りに戦場は血の海と変わり、死体が敵味方に関係無しに山積みにされていく。
教皇はそんな光景を眺める事無く、ただ、馬車の中で想いに耽っていた。
「あの男・・・どこまで神の力について、知っているのだろうか」
教皇の興味は戦争になど無い。ステラを連れ去った帝王がどこまでを知っているかだった。
「下手をすれば、奴が神の力を手に入れてしまうか・・・それはさせん」
彼がそう呟いた時、馬車の扉がノックされる。教皇はそれに気付き、「どうかしましたか?」と応えた。
扉越しに男の声がする。
「猊下。聖騎士も兵も限界でございます。これ以上、帝国領へと進むのは困難かと」
声の主は戦いの指揮を執る聖騎士長であった。その問い掛けに教皇は嘆息する。
「なるほど・・・わかりました。私が出ましょう」
教皇の言葉に壁越しでも解るほどに狼狽える男。
「げ、猊下自らでございますか!き、危険でございます」
「構いません。ここで立ち止まるわけにはいかぬのですよ」
教皇は立ち上がり、馬車の扉を開く。
怒号と悲鳴、銃声と爆音が響き渡る戦場。
血の臭いが風に乗って漂う。
「臭いですね。人間の臭いですか」
教皇はつまらなそうに呟く。そして、彼は天を仰いだ。
「神の力を存分に味わうと良い」
彼がそう呟いた後に何かの呪文を詠唱する。
誰もが教皇の姿を見つめた。
空は真っ黒な雲に覆われ、太陽が消えた。
暗闇に支配された世界。
誰もがその異様な雰囲気に怯える。
そして、それは起きた。
雷雲が現れ、次々と雷が落ち始めた。それは敵味方、関係無く、人々を打ち、殺していく。
防ぐ術の無い圧倒的な力。
帝国軍はただ、逃げ出すしか無かった。
指揮官は逃走を始める兵を止める為に部下に攻撃を命じる。
始まったのは味方同士の殺し合い。
数で圧倒していたはずの帝国軍は瓦解していく。
その様子を眺めた教皇は笑った。
「さぁ、進め。奴らはすでに戦意を消失している。蹂躙せよ」
教皇の叫びに呼応して、聖騎士も兵も気勢を上げる。
突然の雷撃と死を恐れぬ教国軍の攻撃に潰走を始める帝国軍。
まさに地獄だった。先ほどまで、味方同士が殺し合っていたのに、今度は我先にと逃げている。彼らを追い詰める教国軍も疲労は遥かに過ぎ、朦朧としながら、ただ、目の前に居る敵を討つだけだった。
ウォルフは村から離れ、近くの丘からこの状況を眺めていた。
「帝国軍が完全に敗走している。力尽きた感じだな」
それを聞いたラナが笑う。
「あれだけ暴れ回っていた帝国軍が負けてるって?愉快なもんだ」
「元々、無理をし過ぎたんだ。数が居ても、戦い続けるのは無理だったんだよ。さて、俺らも行くぞ」
「危険じゃないの?」
「バカか?この混乱を利用しないと、帝王の元へと近付けないぞ。今がチャンスだ。一気に帝王の元へと潜り込み・・・姫様を奪還する」
「あんた・・・やる気だね?」
ラナはくすりと笑い、ウォルフを見る。
「ふん・・・当然だろ。騎士が姫様を守るのはな」
ウォルフはニヤリと笑い、山道を歩き出した。
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