第17話 絶望的な戦い
宙に浮かぶ教皇。
「奇術かよ」
ウォルフはその姿にそう毒づく。
「奇術・・・神の力を蔑むな」
教皇は宙からウォルフ達を見下しながら告げた。
「神の力かよ。それはそれは・・・宙に浮かぶだけで神を語るなよ」
ウォルフはホルスターから、拳銃を抜く。
「そんな物が効くと思っているのか?」
「へぇ・・・余裕だな」
ウォルフは冷静に狙いを定める。
銃声が別に鳴り響いた。撃ったのはラナだ。
「ふっ」
その銃弾を教皇は躱す事なかった。銃弾は彼の周囲で突如、軌道が逸れる。
「弾が逸れただと?」
ウォルフはそれを見て、驚く。
「言っただろう?私には銃も弓も剣だって触れる事すら出来ぬのだ」
教皇は大きく笑った。
「化け物かよ」
ウォルフは冷静に彼を見る。
「ウォルフ!あいつ、化け物だよ?」
ラナが不安そうに尋ねる。それに対する答えをウォルフはまだ、持ち合わせていない。
教皇は笑いながら右腕を振う。その瞬間、空気中に稲妻が生まれ、ウォルフを襲う。咄嗟にそれを躱せたのはウォルフの人並外れた反射神経でしかない。
「ふん・・・雷を躱すか。貴様は悪魔かなにかか?」
その動きに教皇は驚いた。
「化け物に悪魔呼ばわりされたくはない」
ウォルフは苦笑いを浮かべながら体勢を整える。
「まぁ・・・良い。いつまでも続かないだろう。まずはそっちの娘からだ」
教皇はラナを見下ろした。
「ヤバいかも」
ラナはあの稲妻を躱せる自信などあるはずも無かった。
「怖気づいたか?姫を渡して去るなら、命は助けてやるぞ?」
教皇はニヤリと笑う。
「へぇ・・・姫を渡したらねぇ」
その言葉にウォルフが応じる。
「ほぉ・・・男の方が話が解るか?」
教皇は再びウォルフを見る。
「姫様を悪魔とか呼ぶ割に・・・殺しはしないのか・・・帝王もそうだが・・・お前ら・・・姫様を殺せない理由があるのか?」
ウォルフの質問に教皇は嫌そうな顔をする。
「へぇ・・・相当に嫌そうだな?」
ウォルフは教皇の顔色に嫌味そうに問い掛ける。
「死ね」
教皇は右腕を振るう。空中に生まれる稲妻をウォルフは再び躱す。
「ちょこまかと・・・悪魔め!」
教皇は苛立つ。
「そんな事を言いつつ・・・続けて撃ってこないところをみると・・・あんたの雷は連射が出来ないみたいだな?」
ウォルフは発砲する。
「ちっ・・・悪魔め」
弾丸は弾かれるが、教皇は露骨に怒りの表情をする。
「貴様は殺す。必ず殺す」
怒鳴る教皇に対して、笑みを浮かべるウォルフ。
「殺すか。とても神を崇める奴の言葉じゃねぇな。これならどうだ?」
ウォルフは伸ばした回転式拳銃の撃鉄に左手を添える。そして、引き金を引いた。この時点で撃鉄は起きていないので発砲はされない。だが、添えた左手を撫でるように撃鉄に触れる。撃鉄は起きたと同時に落ち、再び起こされるを小刻みに繰り返す。その結果、5発の弾丸が1秒間も経たずに放たれた。
突如、教皇に対して、集中的に注ぎ込まれた弾丸。それらの多くは弾かれた。
「うっ」
その内の一発が教皇の身体を掠め、同時に彼は宙からバランスを崩すように落ちた。
「どうやら・・・不思議な力には限界ってのがあるみたいだな?」
ウォルフは拳銃を左手に持ち替え、右手に再び刀を持った。そして教皇に飛び掛かる。
「ふぬうううう!」
教皇は力を振り絞って、迫るウォルフから逃げるように飛び去る。だが、ウォルフはそれを見逃さない。一閃した刃が教皇の胸板を切り裂く。彼はそのまま、床に転がっていく。
「ふん。手応えあった。死んだな」
ウォルフは刀を構えて教皇を見る。
「くそっ・・・悪魔共め」
立ち上がる教皇。その胸には確かに大きな刀傷があるが、血は流れ出していない。
「不死身か?」
ウォルフは刀を構える。ラナも拳銃を再び構えた。その時、爆音と共に壁が崩れた。
「何事?」
それにはウォルフ達だけじゃなく、教皇も驚いた。
「て、帝国が・・・帝国が空から攻めて・・・」
扉から飛び込んできた教会の人間は怯えながら教皇に報告をする。
「帝国だとっ?」
それは想像を超えた事だった。
「バカな・・・こんな早くだと・・・」
教皇はフラフラと後退る。
「こいつぁ・・・マズいな。教皇さん・・・早めに死んでくれっ」
ウォルフが刀を構え直し、一気に飛び掛かる。同時にラナが発砲した。
教皇は弾丸を逸らしながら、ウォルフの刀を見えない壁で止める。
「くそっ、まだ、力が残っているのかぁああああ!」
ウォルフは教皇の謎の力を削るように刀を押し込む。教皇も負けずとウォルフを押し返す。
「きゃああ」
「姫様!」
突如として、起きる悲鳴。ウォルフは教皇から離れ、その声の方を向くとそこにはサファイアを抱える一人の甲冑姿の男が立って居た。
「ま、まさか・・・帝王・・・こんな場所に?」
ウォルフはあまりの驚きに動きを完全に止めた。
「てめぇえええ!」
ラナは発砲を続ける。サファイアを抱えた男を守るように騎士が次々と破壊された壁から入って来るからだ。
「帝王様、危険です。船にお戻りください」
側近がサファイアを抱えた男にそう告げる。
「目的は達した。そいつらは皆、殺せ。教皇もな」
そう告げると彼は嫌がるサファイアを片腕で抱えたまま、崩れた壁へと向かう。
「ウォルフ!姫がぁ!」
ラナの叫びにウォルフはハッと我に返る。
「させるかぁああああ!」
ウォルフは刀を振り上げ、飛び掛かる。この時、教皇の事はすでに頭になかった。
襲い掛かってきた甲冑姿の騎士の首筋に刀を突き立てる。
「愚か共めぇええええ!娘を返せえぇえええええ!」
教皇が怒りの形相で吠える。その瞬間、この大聖堂に熱さを感じる。ウォルフはこの瞬間、危険を察した。
「ラナ!」
彼は咄嗟に刀を捨て、ラナに飛び掛かる。騎士達は帝王が撤退する為の壁になりながらもその突然、起きた熱にウォルフ同様に危険を察した。次の瞬間、教皇の間全体が爆発を起こした。
全ての壁は吹き飛び、その部屋があったはずの大聖堂の天蓋は崩れ落ちた。
「おのれぇええええ、逃がさぬ。逃がさぬ。帝王。姫の力を得て、この世界に神として君臨するつもりだろうがぁ。させぬぞぉおおお」
教皇はあまりに怒りに我を乱し、その表情は崩れていた。
爆発に巻き込まれ、帝国の騎士達は皆、死んでいた。それ程に強烈な爆発であった。だが、その空には一隻の巨大な飛行船が浮かんでいた。船艇から爆弾を落としながらそれは速度を上げ、その場から離脱を図っていた。その姿を教皇は睨んでいた。
「すぐに馬を出せ!あれを追う。全軍であれを追う。帝国軍などどうでも良い。姫を取り戻すのだ」
彼の意識からすでにウォルフ達の事は無い。多分、爆発に巻き込まれて死んだと思っている。それぐらいにどうでも良い事だった。
聖都は混乱していた。突如、空に現れた飛行艇が爆弾を落としながら、その中心である大聖堂を攻撃したのだ。人々は帝国軍が襲撃をしてきたと勘違いして、右往左往する。それは兵も同じだった。どこに向かったらいいかも解らず、彼らも右往左往するしかなかった。
その中で教皇は怒りに満ちた表情で側近を連れて、大聖堂を出た。近衛兵達が集められ、馬と馬車が飛行艇を追いかけるように突き進む。
「教皇様が帝国を討つ為にお出になられたぁああ!総員、教皇様に続けぇえええ!」
そんな声が飛び交い、兵はもちろん、信徒達も手に鍬や鋤を持って、教皇の後を追った。
そんな混乱する聖都の中に傷付いた男女が潜むように立って居た。
「まずいな」
それはウォルフだった。すでに武器らしき武器は持っていない。
「話からして・・・姫様が凄い力を有している事は間違いないみたいだけど・・・かなりまずい感じになったわね」
ラナも拳銃を片手にウォルフにそう告げる。
「俺らも追うべきだろうが・・・帝国軍と教皇軍か・・・どうするか」
ウォルフはどうしようも出来ない事態に考えが追い付かない。
「まずは武器を手に入れるべきでしょ?刀も失ったんだから。私も弾丸や火薬もほとんど残っていないし」
意外にもラナは冷静だった。
「こんな時に落ち着いているな?」
ウォルフはそんなラナの姿に驚く。
「あんだけ化け物みたいな力を見せられたら、姫様が世界をどうかする力があるぐらい納得するし、こうなったらどうにでもなれと思うわよ」
「どうにでもなれか・・・そうだな。俺もここまで来たら、どうでも良くなった。だが・・・投げ出すにはちと早いな。最後まで・・・やらして貰う」
ウォルフはそう告げると混乱する人々の中へと入って行った。その背中を追いかえるようにラナも人々の中に消えていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます