第2話 『おばけ』p3

美代さんが入って来たが「おばけー」の一声はなかった。こころなしか、顔が蒼い。「おばけ」にしますかと訊くと、「おでんにする」と、か細い声。

「マスター、ほんとうのお化けがでたの。わたしの部屋に」

なんでも、夜中に起きてトイレに立った。ドアーを開ければ、そこで便座に座っている女性がいるではないか、思わず、ごめんなさいとドアーを閉めた。わたしの部屋にだれ?見間違いではないか、寝ぼけているのではないか、もう一度恐る恐る開けてみた。そこには何もいなかった。それから数日後、もういちど、同じことが起きた。見間違いでも、寝ぼけでもない。いると確信した。それから、夜中に起きたときでもトイレにはいけず、尿瓶にしているということだ。


そんな話のときに、徳さんが入って来て、美代さんの横に座った。そしておばけを注文した。美代さんが「今日はおでんにしなさいよ」と言った。徳さんは何事?と云う顔をした。


向かい側の席の清美さんが、「あなたの住んでいるとこ、山手ハイツといわない」と訊いた。美代さんは頷いた。「4階の東端ではないの?」。美代さんは頷いた。「やっぱり、あそこね、3年前に女の人が自殺した部屋なの。大家さん言わなかった」

清美さんの勤めているコンビニが、道を隔ててそのハイツの東向かいにあるという。美代さんが驚いて「ローソンの人」と訊いた。今度は清美さんが頷いた。徳さんは話を理解したようだ。美代さんが「怖いから徳さん泊まって」と言った。世の中で一番信用できる男性は徳さんだとも言った。清美さんが「泊まって上げなさいよ。か弱き乙女が頼んでいるのよ」と援軍を送った。


結局、美代さんはその部屋を引き払った。そして徳さんのアパートに移った。俺は高田さんの話を思い出して、いい具合だと笑った。近くのスーパーで買い物をしている二人を見たと清美さんは語った。

「ほんとうにお化けなんているんだろうかね」と云うと、清美さんは「さぁー、いると思う人には見えるんではないの」と云ってから「自殺ってのは嘘」と云った。

「亡くなったのは本当よ。救急車がきたもん。なんていったっけ、ながったらしい名前。病名は忘れたけど、亡くなったのは病院でよ」

「どうして、自殺?」

「マスター、変な意味で取らないでね。わたし、徳さんのファンだったの。徳さん幸せになればいいなぁーって、思っていたの」

清美さんはコンビニに勤めながら、母親を介護している。35歳だ。こんど、勤めているコンビニの店長に昇格したと話してくれた。


二人に子供が出来たら「天才の子供」なんだろうかと、俺はバカなことを考えていた。


レシピ

さらしたものは売っている。それを冷やしておいて、酢味噌和えで食べるのが一番。ちょっとカラシを添えて、カラシ酢味噌で食べるのもいい。梅肉でもなかなか。しゃきしゃきか、ぐにゅぐにゅか、独特な食感である。関西では夏によく食べるが、関東ではあまり見ない。


*諏訪山公園

桜の名所だ。散った花びらが川から海に流れて、中突堤あたりをピンク色にそめる。

2度諏訪山の花見ができるってわけだ。三宮からワンメーターで(かかっても1000円だ)いける。神戸にはいま、王子動物園というのがあるが、その前の動物園はここだった。戦争中ということで、動物たちは悲しい運命をたどった。夜ともなると・・出ないよ。駅から一番近い夜景スポットでもある。

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