第35話 閑話からの……

 「改造屋」から引き渡しを受けた時に、言わなくても分かるだろうということで細かい事は流されたが、私の愛機となったフォージャーには、色々と改造点がある。

 そのうちの一つがこれ。今までなかったのが不思議なのだが、「空中給油装置」の装備だ。私は空中給油機との会合点に向け、「空飛ぶ司令塔」ことE-767早期警戒管制機の支援を受けていた。早期警戒管制機とは、旅客機などの大型機を改造して背中に巨大なレーダを背負い、周囲に睨みを利かせながら指揮・管制までやる高性能機だ。

『ブランケットよりスリーピングキャット。ミルクスタンドまでは……』

 ブランケットはE-767のコールサイン、スリーピングキャットは私のコールサイン。ミルクスタンドは空中給油機の事。

 一応、これでも王女なので、なにかに狙われると上手くない。そこで、私のコールサインは定期的に変わる。前はロイヤル2だった。

 今回は、空中給油の試験と練習を目的として飛んでいる。飛んでいる航空機同士が給油するというのは、なかなか技量が要求されるのだ。

「さて、見えてきた……」

 前方をブォーンと(いや、聞こえないけど)、KC-130H空中給油機が飛んでいる。C-130輸送機を改造したこの輸送機の両翼からは、長いホースが伸びている。これが、プローブアンドドローグ方式という給油方法だ。給油される方もする方も簡単な改造で済むという利点があるが、その分腕が要求される方式でもある。

 私は着たいの給油プローブを展開し受油体勢を取った。私の頭の中では、なぜか映画「ファイナル・カウントダウン」のメインテーマが流れている。少しマニアック? ごめん……。

 それはいいとして、接近してきたバドミントンの羽根みたいな形をした、シュートと呼ばれるものの中にドローグの先端を差し込み……シュートに付いているランプが赤から緑に変わった。半分より少し下だった燃料計の針が、ゆっくり満タンに向かって上がっていく。まずは成功かな。

「ふぅ、なかなか神経使うわね……」

 こんな機会そうそうなかった。ハリアーの頃に何回かやっただけだ。

『ブランケットよりスルーピングキャット。国籍不明機接近中。数二十。先行した空軍のパトロールによると、機首はTU-16、国籍標はなし。応援に行って欲しい』

 はいはい。

「スリーピングキャット了解。座標は?」

 ちょうど給油が終わった。さぁ、旧式戦闘機の出撃だ。相手は博物館級の旧型の爆撃機。どこのバカだ。全く……。

 給油機から離れ、目標地点に向かうが……遅い。これは、いかんともいがたい。

『姫、お待たせしました』

 無線から聞こえてきたのは、他ならぬ侍女様の声だ。自慢のスーパーホーネットを、ピタリと私の背後に付けて、いつもの二機編隊の完成だ。

「侍女様、先行して!!」

『了解』

 隊列を組み直し、スーパーホーネットに引っ張られるような形で、私のフォージャーが行く。この方がスムーズだ。

『レーダーに捉えました。アムラームの射程ですが……』

 侍女様から無線が入る。残念ながら、急作りで設置したこちらのレーダーではまだだ。

「スリーピングキャットよりブランケット。相手の動きは?」

『スリーピングキャット。動きなし。一団となって王城を目指している。防空上の観点から撃墜が望ましい。直ちに殲滅せよ』

「スリーピングキャット、了解。侍女様、聞こえたわね。直ちに……」

『攻撃中止!! 相手がエンドレスで無線を垂れ流しはじめた。録音を流す!!』


『無能な王家の者どもよ。我々はこれより無慈悲な断罪を実行する。我が爆弾倉に治められているものは通常に非ず……』

 ……なに?

 背筋に緊張が走る。「通常に非ず」。まさかとは思うが……。

『……あらゆるNBC防御対策を講じても無駄だ。これは、そのような甘いものではない。最強の生物兵器「馬の糞」なのだ。こうしている間も臭いほどだ。一機でも落とされれば、これを、あらゆる街に無差別にばらまく……』

 ……。

「スリーピングキャットよりブランケッケット。全機に直ちに通達。総力を持って殲滅せよ!!」

『ブランケット了解。全機攻撃せよ!!』

 ……ナメやがって!!

 侍女様機からもありったけのアムラームが飛んで行く。何も言わないが……多分、キレたな。

 かくて、十機ほど集まったスーパーホーネットの一斉射撃により、う○こ爆撃機の群れはこの世から抹消されたのだった。あほか……。


 う……まあ、いいや。変な爆撃機の群れと戦いにもならない戦いをやって、帰ってきたらアイーシャが高熱で倒れていた。

「さて、どうしたものか……」

 唸る力すらなく、グッタリと使用人室のベッドに横たわったアイーシャを診た魔法医が、小さく声を出した。

「どうですか?」

 魔法医に聞くと、小さく首を横に振った。

「簡単と言えば簡単に薬は作れます。姫の血があれば……」

 ……なんだ。

「それなら……」

「黒魔法になります。それに、膨大な血液を必要とします。姫の不死性をもっても、耐えきれるかどうか……」

 ……。

 黒魔法。強力ではあるが、そのあまりの危険性故に禁術に指定された魔法の総称である。その術式には大抵「血」が絡んでいて、時として吸血鬼ですら殺すほどの膨大な量を必要とする事もある。通常の人間なら、数百人分か……。

「姫、いけませんよ。従者のために……あっ」

「そう、最近救われたあなたに、意見を言う資格はありません。なんちゃってね」

 珍しく侍女様が何も言えない。その首に付いている鈴が涼やかになる。ウフフ。

「さて、他に手がないなら考えます。もう少し検討してみましょう」

 私は魔法医に言った。

「もちろんです。私も黒魔法など使いたくないですからね。しかし、時間はあまりありません。アイーシャ殿の故郷に連絡を取ってみてはいかがでしょう。なにか、ヒントがあるかもしれません」


 かくて、アイーシャ救助作戦は開始されたのだった。

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