第30話 三姉妹色々

 対空攻撃も出来るが、元々攻撃機的素養が強いハリアー。その地上偵察能力には定評がある。

 私は「FLIR」という赤外線映像装置の画像と、固有魔力走査モードに切り替えたレーダーで地上を探っていた。

「うじゃうじゃいるわね……」

 赤外線画像で見る限り、筋力はありそうだが頭は悪そうなオーガやトロールの他、どこにでもいるゴブリンもゴチャゴチャいる。あれは、なんだ?

「おっと、穏やかじゃないわね。アイーシャ、侍女様。森林地帯の奥で戦車隊発見。車種は……74式ね。数は三十両。侮れないわよ」

 滅多に入って来ないので、その姿を拝むことが少ない異世界某国の戦車ではあるが、世代としては一昔前のものになる。しかし、その能力は侮れない。M1A2が一両では厳しいだろう。どこで、こんなに調達したのやら。

『姫、あと五分で到着します。地ならしをお願いします』

 アパッチ侍女様から返答があった。

「了解、派手にいくわよ!!」

 固有魔力誘導方式最大の利点は、同時多目標攻撃と「打ちっ放し」能力にある。要するに、ロックオンしてぶっ放せば後は勝手にやってくれるのだ。まずは、戦車だろう。垂直上昇する関係で「積み荷」の重量も制限され、三十発もミサイルを積んでいないが、不足分は侍女様のアパッチが始末してくれるはずだ。

「駆けつけ戦車!!」

 わけのわからん事を叫びつつ、私は74式目がけてマーベリックの雨を降らせた。全部で20発。そのことごとくが命中して、目標を破壊した。

 今さらになった気が付いたのか、あちこちから対空砲の曳光弾が撃ち上がり始めた。

「74式二十両撃破。これで、こっちの武装は機関砲だけよ。対空砲を引きつけておくから、早くね!!」

『到着しました。掃討を開始します』

『あと二分です!!』

 侍女様とアイーシャの声がそれぞれ無線に飛び込んで来る。そして、アパッチが空飛ぶ重戦車と呼ばれるその力を見せつけ始めた。今回は、対装甲車両用のヘルファイアミサイルを少なくし、代わりにハイドラ・ロケット弾をしこたま積んでいるのだが、森をなぎ払うかのような勢いで、侍女様が景気よくロケット弾をぶちまけていく。なんていうか、えげつない!!

『遅れました、戦闘開始します。モルドフ、ミレイニン、コリアノフ。懲らしめてやりなさい!!』

 な、なんか、そこはかとなく違和感あるんですけど、M1A2にその乗員の名前って。まあ、いいけどさ。うん。

 音こそ聞こえないが、侍女様のロケット弾の間隙に、閃光のようなものが散っているところをみると、砲撃を開始したらしい。さて……。

「バカスカ調子こいてんな!!」

 私は機関砲で対空砲陣地を一つ潰した。目的はサポート、目立って侍女様やアイーシャからなるべく目を反らせることだ。

 魔物だけなら大した事はない。74式が問題だった、残りは十両もいる。動き出している事はこちらも分かっているが、実によく訓練されている。樹木に上手く隠れて分散し、私が狙うことは困難だった。最初はたまたま成功したに過ぎない。ここは、アパッチの射程九キロを誇るヘルファイア頼みか……。

「侍女様、魔物はアイーシャに任せて戦車を。まだ十両いるわ!!」

『了解』

『お任せ下さい!!』

 空の戦車と陸の戦車が暴れ、猟犬はサポートに回るのみ。

 程なくすっ飛んで来た侍女様は、ミサイルは使わずに三十ミリ機関砲で丁寧に74式を撃ち抜いていく。すげぇな……。

『何でもミサイルに頼ってはいけません。腕が鈍ります』

 ……うぐっ!?

『敵前衛殲滅、森の中央部に向かいます』

 アイーシャの声が聞こえ、私は少しだけホッとした。待ってたぜ、相棒。

「アイーシャ、まだ戦車がいるわ。えっと……」

『あと二両です。姫、座標を』

「了解。座標は……」

 下手なヘリや戦車より、はるかに広範囲な索敵範囲を持つのがこの機体。しかし、侍女様のアパッチはロングボウ・レーダーを搭載してる。聞かなくとも、分かっていると思うのだが……。

「以上よ。分かった?」

『了解しました。その二両は私が引き受けます。お二人は森林全域の索敵を!!』

 アイーシャから元気な声が返ってきた。

「だそうよ。侍女様、行きましょうか」

『了解。お供致します』


「あれか……」

 森の相当奥まった場所。崖に囲まれるかのような場所に、小さな小屋のような建物があった。

『はい、あれですね』

 この魔物の巣が自然発生ではないと確信していた私は、どこかにその「痕跡」を探していたのだが、ようやく見つけた。燃料計が警告音を発している。ガス欠だ。

「燃料切れ。降りるしかないわ。あなたは上空から援護して。アイーシャとの連絡もよろしく!!」

『了解しました』

 私は小屋の前にある空き地目がけて、最後の燃料を振り絞って着陸した。腰のフォルスターにはワルサー、反対側には短刀という基本武装でキャノピーを空け、地上に下りた。

「さてと、出迎えしてくれるかな」

 上空から見たら小屋だったが、降りてみたら強化コンクリート製の、まるで金庫みたいな建物だった。

 ガチャリと音が聞こえ、分厚い金属の耐圧扉が開き、中から筋骨隆々としたオッサン達がワラワラと出てくる。数は……二十名ほどか。

「なんだ、誰かと思ったら噂のお転婆姫か……」

 男の誰かが言った。

「なんだってなによ。冬でも暑苦しいオヤジが!!」

 全く、失礼なやつだ。

「まあ、いいわ。魔物を集めた目的は聞かない。とっとと、ここから消えなさい。命だけは助けてあげる」

 ババババとアパッチが上空で旋回している。まともな判断力があれば、勝ち目がない事くらいは分かるはずだが……。

「笑止、何も準備していないと思ったか?」

 微かな機械音が聞こえ、小屋の屋根から何かが飛び出た。ぬっ!?

「スティンガー!!」

 思わず叫んでしまった。元々は歩兵が一人で運用出来る対空ミサイルだが、軽量小型で特別な配線も不要なので、戦闘ヘリの自衛用やこういった建物の防空用にも使われる事がある。狙いはもちろん……。

 ロケットモーターの噴射音と共に、四発のスティンガーが侍女様機に向かって突進していった。普通なら絶体絶命ではあるが……。

「な、なんと!?」

 侍女様の腕は半端ではない。知っている。派手に囮のフレアを射出しながら、おおよそ信じられないような空中機動を行い、4発全ての回避に成功した。もはや、機械ですらない。うん、分かっていた。

「お仕置きの時間ですね」

 多分、そんな事を言っただろう。私が地上にいるにも関わらず、侍女様は怒りの反攻に出た。ありったけのミサイルやらロケット弾やら機関砲やら……滅多撃ちである。

「ちょ、ちょっと!?」

 強烈な爆風で私の愛機が吹っ飛んだ。オッサンの群れも吹っ飛び、私も容赦なくぶっ飛ばされた。バカヤロー!!

 何かにしたたかに体を打ち付け、一瞬意識が飛びかけたが何とか頑張った。よし、偉いぞ私。吸血鬼じゃなかったら死んでるぞ!!

 どうにか息を整え見ると、少し先にある例の建物に機関砲で集中砲火を浴びせている。よほど頭に来たらしい。やれやれ。

 しかし、いかな強力な三十ミリ機関砲とはいえ、強化コンクリは貫通出来ない。私の愛機は横転しているし、そもそも弾薬切れだ。オッサンたちは全員気絶しているようなので、まあどうでもいいのだが……

「さて、あとはアイーシャか。無事かねぇ……」

 そういえば、74式二両と戦っていたはずだが、その後の戦況が入っていない。私の機があれでは無線も使えない。これ、侍女様に撃墜された事になるのかな?

 なんてアホな事を考えていると、背後から轟音が聞こえてきた。

『お待たせしました~。結構手練れて手こずってしまって!!』

 外部スピーカーを通じて聞こえてきたのはアイーシャの声。振り返ると。装甲板のあちこちに敵弾の擦過痕を残し、だいぶ「男前」になったM1A2エイブラムス戦車の姿があった。砲塔上の車長用ハッチには、アイーシャが上半身を出して、ドラキュリア式の敬礼をしている。やれやれ、いいタイミングだ。相棒よ。

「おーい!!」

 と叫んだところで、この轟音の中で聞こえるわけがない。

 私は車体が停車するのと同時に、最後尾の片隅にある受話器を取った。これで、車内の乗員と直接会話が出来るのだ。

『はい、どうしました?』

 アイーシャの声が聞こえた。

「まあ、掻い摘まんで説明するけど……」

 取りあえず、経緯を手短に説明した。

『分かりました。要するに、あの建物をぶっ飛ばせばいいのですね。強化コンクリは難しいですが、あの鋼鉄製の扉なら……あの、姫の機体が邪魔なので、心を鬼にして吹き飛ばします。その後に建物の破壊作業に移りますので、少し離れていて下さい』

 是非もなしか……。

 私は戦車から少し距離を開けた。その間に、巨大な砲塔が恐るべき速さで動き、照準をを合わせた……と思う。多分。

 そして、発砲!! もう一度吹っ飛びそうな衝撃波を伴って放たれた砲弾は、横倒しになっていた私の機体を粉々に吹き飛ばした。僅かな残存燃料に引火でもしたのか、爆発を引き起こして、もう一大スペクタクルである。なんか、アクション映画みたい……。

「あーあ……」

 などと言っている間にも、アイーシャの指揮する戦車は砲塔と砲が小刻みに動き、続けざまに発砲しまくった。M1A2はトレンドの自動装填ではなく、あえての手動装填だ。誰が装填手をやっているか知らないが、なかなかのものだ。

 建物の金属ドアが吹き飛び、中に何があったのか知らないし、知りたくもないが、爆発を起こしてコンクリの窓などから火炎が吹き出した。

 かくて、破壊作業は完了したのだった。あのオッサンどもを連行すれば、ミッションコンプリートだ。

「問題は……どうやって帰ろうかな」

 私の関心は、もっぱらそこだった。


 結局、二十名近いオッサンたちを連行するために、陸軍の大型トラックが徴用された。

 数少ないドラキュリアの魔法使いとアイーシャの現場検証の結果、あの建物の中には何か強力な魔力を発生させる装置があったようだが、百二十ミリ砲の威力の前に木っ端微塵に吹き飛ばされ、その正体までは分からなかった。魔物が集まった事に関して因果関係は不明だが、影響があった可能性は極めて高いという結論で、事件は一応の解決をみた。

 というわけで……。

「今回使用したのは、HEAT-MP-T。ぶっちゃけると、多目的対戦車榴弾というやつでして……」

 狭い戦車内には入れず、砲塔の外にへばりついている私には、アイーシャの腐れマニアックな話しなどどうでも良かった。寒いんだよ!!

 定員+1乗せたアイーシャの戦車は、街道をご機嫌に進んで行く。城もケチである。迎えのヘリくらい寄越したってバチは当たらんだろうに、王女である私にこの仕打ちだ。なかなか、イカレていて楽しいぜ。全く。上空をこれ見よがしに侍女様が飛び回っているのが、また腹立つ!!

「アイーシャ、場所代わらない?」

「嫌です」

 ……くそ!!

「なんで吸血鬼に生まれたんだろ。風邪も引かないんだよね……」


 事件は解決なれど、吸血姫の憂鬱は続くのだった……。なんちゃって。寒い!!

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