第22話 吸血姫の長い一日
翌日は朝から雪だった。宿で朝食を済ませた私とアイーシャは、車を呼ぶ事もなく街を歩いていた。アイーシャの実家までは大した距離ではない。他の面子は、護衛を含めて宿待機にしてある。
「大丈夫です。最悪の場合は攻撃魔法で、家ごと吹き飛ばします!!」
……なにが大丈夫なのだ。アイーシャよ。
「あのねぇ……。私になにか危害を加える気なら、昨日の段階で無事には帰って来られないわよ」
私はため息を一つ。
「いえ、騙されてはいけません。一度退いて攻めてくる。そういう親です!!」
……酷い言われようだな。父上よ。
「まあ、それはそうと、なかなかの雪ね。ドラキュリアでも降るけど、この時期はまだギリギリ秋かな」
街から出て一面の雪原を歩いていると、何かもの悲しくなる。アイーシャの家までは徒歩で一五分もかかるまい。
「私にとっては、見慣れた光景です。この国は、春と秋が極端に短いので……」
アイーシャがそう言って笑った。なるほど。
「四季があるだけいいわよ。そういや、最近お得意の歌がないわね。たまには共通語で、なんか歌ってよ。そんな気分だな」
私はアイーシャに無茶ぶりしてみた。気が重かったのだ、正直。
「共通語ですか。では……今の状況と景色を鑑みて、このような感じで……」
ジョニーが再び行進しながら家に帰って来る時には。
フラー! フラー!
私達は心からの歓迎で迎えるだろう。
フラー! フラー!
男達は喝采し、男の子達は叫び、 淑女は皆が迎えに出て来る。そして皆が陽気になるだろう。
ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には、村の古い教会は喜びの鐘を鳴らすだろう。
フラー! フラー!
私達の愛する男の子を迎えるために。
フラー! フラー!
村の若者と女の子達は声を掛ける、 道に撒く為の薔薇の花を持ち。
そして皆が陽気になるだろう。. ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には。
祝賀の準備をしよう
フラー! フラー!
そして、我等の英雄に三度の栄誉の歓呼を送ろう。
フラー! フラー!
月桂冠は用意出来た、 誠実な彼の頭に載せるために。
そして皆が陽気になるだろう、 ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には、その日は愛情と友情の日としよう。
フラー! フラー!
愛情と友情の最上の喜びを示す為に。
フラー! フラー!
そして誰もが何かしら出来るようにしよう、私達の戦士の心を喜びで満たす為に。
そして皆が陽気になるだろう、ジョニーが行進しながら家に帰って来る時には。
「ま、まさかの『ジョニーが凱旋するとき』!?」
ちなみに、フラーっていうのは「バンザイ!!」っていう意味のかけ声だ。
雪景色に共通語版「ジョニー」とは、なかなかやってくれる。予想の斜め上をいった。
「やはり、意訳版だとしっくりこないですね」
「そりゃそうよ。原語版が一番だって決まってるわ。ありがとう。気合い入った!!」
手袋をはめた手でパンパンと頬を叩き、私はジョニーを鼻歌で歌いながら行進していく。前もちらっと言ったが、これはドラキュリア陸軍の歌集にも掲載されてる行進曲だったりするので、馴染みがあったりもするのだ。
そんな事をしながら私たちは積もった雪を蹴散らしながら雪原を突き進み、程なくしてアイーシャの実家に到着した。
なにか、昨日にもより騎士が増えて抜剣して構えているが、玄関までの道はある。
……なるほど、退いてからの反撃ね。
委細構わず、私は鼻歌を歌いながら玄関ホールまで進入した。
「来たか。アイーシャ、二度は言わぬ。そのバケモノから離れなさい」
お馴染み、あの吸血鬼殺しの剣を構えた父上が、今度は階段の下で鋭い眼光をこちらに送りながら言った。
「嫌です」
アイーシャの凜とした声が即座に返った。
「お前にはまだ話していなかったな。私の父の代までは、ダンピールの一族として何をやっていたか分かるか?」
私は反射的にアイーシャを突き飛ばしていた。その分反応が遅れ、体を袈裟懸けに斬られた。大丈夫、見た目は派手だが、傷は全然浅い。
「……吸血鬼狩りだよ。人間社会に溶け込むためには、悪者=吸血鬼を倒すという分かりやすい構図が必要だったのだ。今でこそ国まで持って安穏と暮らしている吸血鬼だが、バケモノはバケモノだ。そんな所に、娘をやれるわけがなかろう。例え、王令でもな」
「お父様!!」
「やめなさい、アイーシャ!! 手出ししたら負けよ」
何やら魔法を放とうとしたアイーシャを、私は素早く制した。
「殺したいなら殺してください。それで満足ならば。ですが、娘さんは二度と戻りませんよ?」
手は出さないが、口は出していいだろう。まずは軽く一撃。
「言われなくても、殺す!!」
次の一撃を私はあえて避けなかった。斬られはしたが、全然浅い。
殺すつもりなら、もうやっているはずだ。その怖い顔の裏には、何が隠れているのか……。
「早い方がいいですよ。バケモノがバケモノになるとき……「鬼モード」に切り替わってしまったら、もう制御できないので」
そして、余裕の口笛。めっちゃ挑発してるね。うん。
「……私にも「鬼モード」があってね。あまり刺激されると、制御が出来なくなるのだよ。イイノカナ?」
父上の声が変わった。
……ヤバい!!
瞬間、私はアイーシャの腰にあった小刀を引き抜き、自分の手の平に突き刺していた。
「アイーシャ、逃げて!!」
危険を察知したか、アイーシャはなにも言わず外に待避した。同時に、「鬼モード」にシフトチェンジした。
「やれやれ、やっと正しい出番か。さて、オッサン。怪我しないうちにやめておきな。今のあんたの『血』では、吸血鬼は倒せない」
サングイノーゾを構え、私はニヤッと笑みを浮かべた。この状態なら分かる。相手は少し人間からはみ出た程度。剣の腕は立つようだが、逆を言えばそれだけの人間だ。
「フン、イクゾ!!」
鋭い一撃が飛んできたが……。
「ほいよ!!」
あっさり避けたついでに、相手の剣を真っ二つに叩き切る。剣がこれでは、到底相手に勝ち目はない。
「ナンダト!?」
明らかに相手に動揺が走る。もう、遅い。
「だから、怪我するって言ったでしょ? 今度は私、サングイノーゾ・フィーレ!!」
それは、必殺の一撃になるはずだった。しかし、オッサンの姿がかき消え、私の剣は空を切った。こうなると、思い切り隙だらけだ。
「ナ~ンテナ。ホンメイハコッチダ」
こめかみに当たる冷たい物……拳銃だ。くそ、そっちか!!
「ナガバナシハムヨウ。ジャアナ!!」
さすがに死を覚悟した。不死身の吸血鬼だが、相手はそれを知っている。ただの銃弾ではないだろう。拳銃のハンマーが落ちる音が、やけにゆっくり聞こえ……。
二つの銃声が私の鼓膜に突き刺さった。うぉぉ、み、耳が!!
見ると、玄関口に立つアイーシャの手には拳銃があり、銃口から煙が立ち上っていた。ここからではよく分からないけど、多分グロック……。
そして、オッサンは両手から血を流して、私の足下でのたうち回っていた。かなり離れたところに、ベレッタがすっ飛んでいる。メジャーな拳銃である。
推測だが、アイーシャが父上の手を撃ち抜いたのだ。危うく救われた形になる……シフトチェンジ。
「……」
私は何も言えなかった。お互いにズタボロである。色々台無しだ。
そう言えば、アイーシャの資料にもあった。射撃の腕も確かと。しかし、自分の親を撃ってしまったのだ。例え、私を助けるためとはいえ……。
「くそ、全てお前が悪い。あんな娘ではなかった。親に銃を向けるなど!!」
……返す言葉がない。
アイーシャが近寄ってきた。
「酷い傷です。今すぐ治療を……」
私の傷を治そうとしたアイーシャの肩にポンと手をのせ、私は小さく笑みを浮かべた。
「お父様の治療が先よ。どう考えても、こっちの方が重症だしね」
「えっ、でも……」
驚きの表情を浮かべるアイ-シャの肩をポンと叩き、私はその場を離れた。
適当な柱に寄りかかり、私は最近になって普通の紙巻きタバコから切り替えた、ア○コスにヒートスティックを突っこんで電源を入れた。フレーバーは秘密にしておこう。異世界からは色々なものが流れてくる。
さりげなく口笛を吹きながら思った。なんかもう、アイーシャのテーマ曲は「ジョニー」でいいやと。うん、わけがわからんね。我ながら……。だって、躊躇いもなく親を撃っちゃうんだもん。もう、お姉さんビックリよ。助かったけどさ。
「経緯はどうあれ、私を傷つけた事実は変わらん。無事に帰れるとは思っておらんな?」 無事に怪我が治り、調子を取り戻した父上の号令一発、玄関ホールは騎士で埋め尽くされた。
「さて、どうするよ、相棒?」
アイーシャと背中合わせに構えた私は、彼女に問いかけた。
「愚問です。片っ端からぶっ殺しましょう!!」
さすがだぜ、「ジョニー」。でも、そういうわけにもいかんでしょ。
「これは、ヘヴィね……」
推定100名以上。これを突破するのは、なかなか骨だろう。さて、どうしたものか……。
考えあぐねていると、いきなり外が騒がしくなった。
「死にたくなければ退きなさい」
このやたら冷静な声は……侍女様?
ガタガタと聞き覚えのあるようなないような、そんな不思議な音と共に、玄関の扉を破壊して突入してきたのは……。
「え、M113……」
彼の世界では八万両以上も生産された大ベストセラーであり、大ベテランながらもいまだに現役という、大変優秀な装甲車だ。箱に履帯を付けましたという、非常にシンプルなデザインである。上部ハッチに付いているM2重機関銃には、なんと射手として国王様が張り付いており、その標準はピタリと父上に合わされているのが分かる。
「おう、すまんな。散歩していたら、なにやら騒ぎになっていたようでのう。様子を見に来たのだが……。なかなか暴れたようじゃのう、うん?」
ニヤッと笑う国王様。
嘘こけ、装甲車で散歩するバカがどこにいる。全く、また話しが面倒に……。
「私は国王様を見ていない……。総員、かかれ!!」
オッサン……コホン、父上が喚くが騎士は誰も動かない。動けるはずもない。
「ひ、卑怯だぞ。お前とアイーシャで来いと言っただろう!!」
父上が叫んだ瞬間、国王様が父上の足下に12.7ミリ弾を撃ち込んだ。
「言ったであろう、わしは散歩中じゃ。その途中で、見過ごせないものを見つけてしまっただけに過ぎぬ。……反逆罪。今までは大目に見ていたが、今回はさすがに見過ごすわけにはいかんな」
ああ、もう収拾付かなくなってきたぞ!!
「とりあえず、みんな落ち着け!!」
堪らず私は叫んだ。
「内政干渉だけど、取りあえず反逆罪も12.7ミリもなし!! 一応、一戦交えたんだからもう恨みっこなし!! 面倒だから、騎士団引っ込め。ハウス!!」
「王女」カシミール・ドラキュリア、ここにあり。
他国ではあるけれど、マジで叫べばそれなりに影響力はあったようだ。
騎士達がゾロゾロと引っ込み、M113もズルズルと後退していった。アイーシャの父上もすっかり黙ってしまった。まあ、睨んではいたが……。
「あまり肩に力を入れないで頂きたいのですが……無理でしょうか?」
一つ咳払いしてから、私は父上に言った。
「……それが出来るなら、最初から襲ったりしないと思わないか?」
ごもっともです。はい。
私は隣に立つアイーシャの腰にあるホルスターから、拳銃を素早く引っこ抜いた。そのままの動きで素早くシリンダーを引いて薬室に弾丸を装填すると、自分の胸に押し当てて引き金を引いた。
「えっ!?」
アイーシャが短く声を上げるが、この程度は大丈夫だ。もちろん、そこそこ痛いけどね。
「私はご覧の通りバケモノです。自分でも分かっています。その上でのお願いなのです。聞き入れて頂けないでしょうか?」
私は拳銃をクルッと指の上で回し、アイーシャのホルスターに戻した。
「自分の娘がバケモノに嫁ぐなど、親の気持ちは分からんだろう。まして同性で異国だ。認める方が難しいと思わないか」
父上は頭を横に振りながら言った。
これは、平行線か……。相手に歩み寄る意思がないのだから、いくらやっても無駄だろう。
「では……これでいかがでしょうか?」
私はドラキュリア特産「ドラキュリア・ウミツバメの巣」、「アルセス・チョウザメのキャビア」、「エハオ山産・トリュフ」の3点を鞄から取り出した。
どれも採取量が少なく、市場に出回ることは全くないという希少なもので、王家で全て消費されているという。もちろん、輸出などしていない。偽物はいくらでもあるが……。
父上の耳がぴくんと動いた。
「よかろう。そろそろ夕食の時間も近い。話しを聞くくらいは構わんぞ。こっちにこい」
……あれま。
「お父さん……」
私はアイーシャの肩を叩いた。
まっ、世の中そんなもんさ。うん。
立派な応接室に通された私たちは、父上と話しをしていた。
「なるほどな……。しかし、危なっかしいから見守るのと、婚姻とはまた別の話しなのだがな」
会話の主役は父上とアイーシャだ。私は黙って聞いているだけ。頑張れ「ジョニー」。
「……この際なので、はっきり断言します。私は姫の事が好きなのです。回りくどい事を言っても始まりません!!」
アイーシャ以外の連中が紅茶を吹き、なぜか私だけ頭上に金だらいが落ちてきた。なんだ、このレトロなノリは……じゃなくて、そうだったのかアイーシャよ!!
「ますますけしからん。バケモノを好くとは……」
ガックリと肩を落とす父上。これは、なにか分かる気がする。
「そのバケモノというのは、止めて頂けませんか? 彼女はカシミール・ドラキュリア王女です」
「いや、バケモノは……」
部屋のドアがノックされ、シルバーブロンドの髪の毛を肩まで伸ばしたすっげぇ美人(失礼)が入ってきた。
「お母様!!」
「ラトゥーシャ、お前は下がっていなさい」
「あら、私だけのけ者にされるいわれはないわよ。母親なんですから」
おっ、ここに来て救世主登場か?
「あら、可愛いじゃない。このちらっと見える牙とかいい。私が欲しいわぁ」
ツカツカと私の側に近寄り、そっと頭など撫でたりしてくれる。
え、えーっと……救世主じゃなくて、重戦車だった。
「じゃあ、こうしましょう。私とこの子が結婚して、アイーシャにレンタルするって……ダメ?」
さすが、重戦車。あらゆる物を破壊していく……。
「い、いえ、すでにドラキュリアで結婚しているので……」
たじたじでアイーシャが返したが、重戦車の鬼畜ぶりは止まらない。
「他国の話しじゃない。この国じゃまだフリーだし、あなたにはこんな可愛い子はもったいないわ。決めた。そうしましょう。それなら、このうすらハゲも文句は言えないでしょう。ああ、法律上は妻が結婚する事は出来ないから、「ペット」っていう扱いになっちゃうけど、別に構わないわよね。式場探して予約して三日くらい見てね~」
……こ、こら、重戦車。待て!!
「あ、あの、私の意思は?」
「関係ない」
……即答しやがった。攻撃が効かない。さすが母上である。重戦車である。メチャクチャだ。
「ちょっと、あんたらもなんか言ってやって!!」
さすがに堪らず、私は援軍を求めたのだが……。
「もう止まらんよ。だから、会わせないようにしていたのだ……」
「嫌な予感が的中した……」
ダメだ。全く戦力にならない。
「あ、あの、私これでも王女なので、この国にはいられませんよ?」
「名前は?」
……聞いてない。
「カシミール。カシミール・ドラキュリア……」
「はい、カシミールちゃんね。分かってるわよ。私から定期的に会いに行くから、そこは問題ないわ。あっちでの仕事も邪魔しないし、うちの娘との間も……なるべく邪魔しないつもり。でも、それなりに相手はしてもらうけどね。それじゃ、よろしく~♪」
人の話しを聞かない鬼畜重戦車はどこぞへ消えていった。室内には変な沈黙だけが残った。
「……ねぇ、今すぐ帰ったらダメ?」
誰ともなく聞くと、父上とアイーシャは黙って首を横に振った。
「ドラキュリアまで追いかけてきますよ」
「その前に、飛行機が足止めされるだろう。そういう所は、本当に抜け目がない。
おっかねぇのに気に入られたな、また……。
まあ、このお陰で、鬱々としていた空気がぶっ飛んだのは良かった……のか?
一週間後、全てのゴタゴタが片付き、私たちを乗せたコンコルドはアルステ国際空港を離陸した。
結局、何とかど派手な式は取りやめさせる事には成功したが、アイーシャの母上との結婚に相当する「ペット契約」は阻止出来ず、私の左右の腕には普通のおしゃれとしか思えない小さな腕輪が付いている。重婚が認められているアレステなので、左腕が「正」を意味し、「副」は右腕になる。左腕は母上、右腕はアイーシャだ。
これは、同じデザインの物を相手も着けていて、結婚という契約の証みたいな物だ。もちろん、これで黙っている相棒ではない。
自国では「副」に甘んじる事になってしまったが、ドラキュリアでは紛れもなく「正」の地位を確保しているわけで、その証の交換を行う約束をしているのだが……知っているだろうか。ドラキュリア式だと、「首輪」だということに。もちろん、装飾品としてのもので、首全体を覆うものだが……あまりおしゃれではない。イマイチ普及していないのは、それが原因である。
「まっ、なんかよく分からないけど、うまくまとまって良かったわ」
完全に想定外のパターンであったが、アイーシャの父上は私の存在を認めざるを得ない状況となり、アルステ国王には腹を抱えて笑われ、アイーシャからは母親の言動について深く謝罪を入れられている。そして、侍女様とカシムは……大爆笑だった。カシムはともかく、あの侍女様が笑うなんてよほどの事である。
「全くです。しかし、姫も忙しいですね」
コーヒーを持ってきた侍女様が言う。
「そもそもの発端はあなただったでしょうが……。でもさ、ドラキュリアで結婚しておいて、別の国でまたって許されるの?」
今さらなのだが、聞いてみた。
「前例はいくらでもあります。分かりやすいところでは、船乗りなどは行く先々の国に奥さんと子供がいるとか……」
……ふーん。
「ちなみに、うちは書類上はカシムが夫で私が妻ですが、実際は私が飼い主でカシムがペットです」
その情報……不要!!
「まあ、あなたたちはよろしくやっていなさい。あれ、そう言えばアイーシャは?」
アルステを発ってから姿を見ていない。
「はい、後ろの仮眠エリアでお休みのはずです。お疲れの様子だったので」
まあ、疲れるか。
「どれ、ちょっと様子を見てくるか……」
狭い機体だが、後方は個室が設けられており、事務仕事や仮眠を取ることが出来るようになっている。
「この部屋です」
侍女様に示された部屋の扉を軽くノックしたが、中なら返事はない。
邪魔かなとは思ったのだが、様子を見るだけ見ようとそっと中に入ると、彼女はベッドに横になっていた。
私は扉を後ろ手で閉めると、小さな事務机の椅子に座った。
「寝たふりしてるのバレてるわよ。せめて、こっち向きなさい」
声を掛けると、アイーシャはごろりとこちらを向いた。
「ごめんなさい。うちの母が強引に……」
どうしたジョニー。声が震えているぜ。なんてね。
「さっきも謝ってくれたじゃない。大体、これは私の問題。あなたが謝る話しじゃないってば」
私はゴソゴソとア○コスを口にする。
「いえ、これは私の家の問題で……」
「やめましょ、グダグダいうのは。そういうの好きじゃない」
私の一声で、アイーシャは黙った。
「なんかまぁ、予想外の連続で疲れたわ。でも、あなたの腕の銃の腕も見られたし、これからも頼むぜ。ジョニー」
ア○コス片手にそう言うと、アイーシャは吹き出した。
「任せとけ相棒、あんたの背中は俺が守るぜ!! なんちゃって」
アイーシャが乗ってきた。
「どうするよ相棒。今度は銀行の巨大金庫でも狙ってみるか?」
「おっ、いいねぇ」
よしよし、アイーシャに活気が戻ってきた。
「よっしゃ、このノリで帰ったら戦闘機の乗り方をレクチャーするわ。王家の人間なら嗜みの一つだし」
「えっ、は、はい!!」
私たちを乗せた王家専用二号機は、海上を音速の二倍でひたすら快調に飛ばすのだった。
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