第2話異界の焔 第一章第一節


 冴えわたる暗闇の中で私は眼を開けた。

数秒の沈黙。

首に手をあてる。

…縄が無い。

一陣の風が吹き抜ける。

まさかここは外なのか!

手探りで地面を触ると、湿った土、そして草の様な感触。

眼が暗闇に慣れてくると、上に星が見える。

地獄?天国?あの世?

流石に事態が飲み込めない。

辺りを見回すと、木々に覆われ人の気配はない。エンジン音もしない静寂であった。

大きく娑婆の空気を吸えば、どことなく青臭い。

指を目頭にあてると眼鏡がない。

そりゃ死後の世界には眼鏡はないかと、納得して、次に右頬を触ると驚いた。

火傷の感触が無い。

深い火傷の為、一生治らないと医者から言われたが、もしかすると本当に黄泉の国なのだろうか。

五体満足を確認した私、いや俺は思い切って起ちあがってみた。

素足で囚人服、足裏の感触はやはり土だ。

もう一度辺りを見回すが人工の灯りは見えない。

どことなく看守かドッキリカメラの登場を期待したが、そんな気配は微塵もない。

自分がいま道の上にいる事に気が付いた。

舗装されていない為気付くのが遅れたが、これは確かに林道である。

もしかしたら、人里へ続いているかもしれない。

だがもし地獄ならば、俺は罰を受けるのでは?いや若しくはこれ自体が罰?いやでも未だ三途の川だったり、閻魔王の裁判を受けていない。加えて、天使や釈迦のお迎えにも逢ってない。…だとすると、俺って生きてる?

迷っていてもしょうがない、感じる事が事実だと割り切って俺は生きる?事にした。

 一時間ほど歩いた時、ようやく森の終わりが見えた。開けた場所に出ると満点の星空がひろがる。だが地上は真っ暗で様子がわからない。

疲れから、木の根元に座り込み、足裏の生傷を撫でた。ヒリヒリする痛みは本物だ。

夜の森を歩く事は無茶であったと反省する。

日の出を待つか。

新月の空を見上げ、知った形の星座がないか探す。

北極星、北斗七星、オリオン座、火星…記憶にある星の形を探すが、この空には見知った形が何処にもなかった。

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