第3話 お姫様はアヤシイ?
ファミレスの扉を開けて店内に入る。
「いらっしゃいませー おはようござい...ます。」
「二名様でよろしかったでしょうか?」
若い男の店員はティリアを見て、珍しいものを見るかのような目で動揺していた。
それもそうだ、日曜日の早朝から、立派な可愛らしいドレスを着た女の子がファミレスに来たのだから。
「はい二人です。できれば、目立たない席でお願いします。」
店員に目立たない席にと言ったのは、先ほどティリアを追っていた、男たちがこの辺りに現れるかもしれないと思ったからだ。
「はい、分かりました。それでは奥の席へご案内いたします。」
俺は先ほど出会ったばかりのお姫様とテーブルを挟んで対面して席に座った。
突然な出来事で、俺はあまり深く考えずに助けたのだが、これからどうしようか?
そんなことを考えていると"ピンポーン"と店員を呼ぶベルが鳴った。
「涼祐? このボタンはなんですか?」
...押す前に聞いて欲しかったよ。
「これは店員を呼ぶための装置だよ。」
「へぇ〜そうなのですか。なんのために店員を呼ぶのですか?」
「それは自分の食べたいものをメニューから選んで、注文するために呼ぶんだよ。」
「私は、まだメニューを選んでないのですが?」
うん、そうだろうね。店に入って案内されて席に座ったばかりだからね。
すると、先ほどの店員が来て、「メニューの方はお決まりでしょうか?」と注文を聞きに来た。
「いえ、すみません。間違ってしまって...」と俺が謝ってる時に、ティリアは「このフレンチトーストのAセットをお願いします。」と自分の注文を済ませた。本当に自由すぎるな、このお姫様は...。
「じゃあ、俺も同じものをください。」
「分かりました。フレンチトーストAセットを二つですね。注文したものが来るまで、少々お待ちくださいませ。ごゆっくりどうぞ〜。」
このお姫様は、異世界からやってきたと言っていたが、フレンチトーストがなんなのか分かっているのか? 異世界にもフレンチトーストがあるのか? ...なんだか怪しいかもしれない。
「私は、お腹がもうペコペコです。涼祐はお腹ペコペコですか?」
もしかして...新手の詐欺なのか? あの追っていた男たちもグルなのかもしれない。
「どうかしましたか? 涼祐?」
「おーい、りょ〜すけ〜? ど〜かしましたか〜?」
そもそも、異世界ってなんだよ! そんな話、ニュースでも聞いたことないぞ?
「その...なぜ返事を返してくれないのですか?」
「しゃべる元気がないくらいにお腹ペコペコなんですか?」
この後に...クソ高い絵画や怪しい宗教をを勧められたら、これまでの出来事は全て仕組まれたものだろう。
「その...涼祐! おーい! 聞いてますか!」
「え?ゴメンなんだっけ?」
ティリアに視線を移してみると、碧く綺麗な瞳が潤んでいた。
「その...怒っているのですか?」
「え? いや怒ってないよ。ごめん少し考え事してたんだ。」
「そうですか。良かったです。怒ってるのかと思いました。だって涼祐、険しい顔をしてたので。」
ティリアは不安な表情だったが、怒っていないことを伝えると、安心したようにホッとしていた。
「えーっと...なんの話してたっけ?絵画の話だっけ? それとも神様の話だっけ?」
「りょ〜すけ? 何を言ってるんですか?」
「え?イルカの絵が綺麗だから...いや、神様がいかに世界の平和のために必要なのかとか...あれ? 違ったっけ?」
「涼祐? お腹がペコペコ過ぎて、頭がおかしくなったのですか?」
「そうかもしれない。俺もお腹がペコペコなんだよ。」
俺はどうやら頭がおかしくなったらしい。
きっと、日課の朝の散歩をしなかったせいだ。
「ティリアは何を飲む?」
「飲み物ですか? う〜んジュースが飲みたいです。」
「わかった。とってくるから待ってて。」
とりあえず、混乱した頭の整理をするために席を立ち、ドリンクバーに俺は向かう事にした。
コップに氷を入れてオレンジジュースを入れてストローをさす。
自分は大人ぶって好きでもないホットコーヒーをティーカップに入れて、両手に飲み物を持って自分の席に戻った。
「ごめんね。っでなんの話だっけ?」
そう質問をしながら、オレンジジュースをティリアの前に置いた。
「お腹がペコペコです。って話ですよ。」
そう言うとティリアはストローに口をつけてオレンジジュースを飲む。
「あぁ〜そうだった、そうだった。」
少しテキトーな感じで俺は相槌を打つ。
「早く、フレンチトースト食べたいですね。」
「そうだね。」
俺は気になっていたことを、ティリアに聞いて見ることにした。
「あのさ、ティリアは異世界から来たんだよね?」
「はい、そうですよ。ラピス王国から日本に来ました。」
「ラピス王国って所にもフレンチトーストはあるの?」
「はい。ラピス王国にもフレンチトーストありますよ。」
...つまり、ラピス王国には、俺が住んでいるこの世界の料理が存在するということか。
「という事は、ティリアのいた世界にもニワトリが生息してるんだね。」
「いえ、私たちの世界にはニワトリはいませんよ。鳥はいますけど。」
...何を言っているんだ?ニワトリがいないのにフレンチトーストをどうやって作るというのだ。意味がわからない。
もう、気になる事は全て聞く事にしよう。
「ニワトリがいないのに、フレンチトースト? どうやって作るの?卵は?」
「ニワトリの卵ではなくて、主にエッグバードの卵を使って作ってますね。」
確かにニワトリの卵ではなくても、鳥の卵であればフレンチトーストは作ることは可能だったな。
「ニワトリの卵はとても美味しいので貴重品ですね。」
「ニワトリの卵は、この世界から、私たちが住んでいる世界に、商品転送業者の"Ama天"を使って、輸入してるんですよ。」
あぁ〜なるほどね。ネット通販みたいな事なのかな? ...そんな事できるのか?
「そうなんだ。じゃあティリアが住んでいる世界の食べ物とか、服とか、その"Ama天"ってのを使って、日本に届けてもらう事とかできるの?」
「う〜ん...できるんですかね?私の住んでいた世界では日本に輸出はしてなかったと思います。日本から輸入はしてましたけど。」
そんな話をしていると、店員がフレンチトーストと、Aセットでついてくるスープとサラダを運んできた。
「お待たせいたしました。こちらフレンチトーストAセットが二点でお間違いないでしょうか?」
「はいそうです。ありがとうございます。」
「それではごゆっくりどうぞ。」
お決まりのやり取りの後、店員は伝票をテーブルに置いてキッチンに戻っていった。
「わぁ〜美味しそうですね〜。涼祐、早速いただきましょう♪」
「そうだね、食べようか。」
とりあえず、ティリアも俺もお腹が空いていたので、話を中断して朝食を食べることにした。
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