第3話
もう三十分も経っただろうか。夜のとばりがおりて、辺りはすっかり暗くなった。街灯がないところは子供には危ない。愛美はいろいろな想いを胸に黙って二人を追っていたが、ついに声をかけた。
「ちょっと、明るいところに行って休憩しましょう」
三人は人の多い「摩耶★きらきら小径」の脇の、夜景が見下ろせるベンチまで戻り、並んで腰かけた。涼しい夜風が三人の頬を撫でる。
「めぐる君、あかりちゃん、いくら何でも、もう日がくれちゃったよ。お家の人が心配するから、もうロープウェイに乗って帰りなさい」
「やだよ、まだマーヤを探し始めてそんなに経ってない」
「大人として、このままあなたたちを放っておくわけにはいきません。ほら、あそこの駅まで送っていくから」
「おばさん、後パパは僕らのこと、心配なんかしないから」
「そんなことないと思うわ。口では何と言っていても、きっと心配しているわ」
「こんな時間に帰ったら、また蹴られる」
「え?」
「あのね、おばさん。『お前らは死んでも別にいいんだ、いつでもいなくなれ』って、いつも後パパは言ってる。だから後パパは、ぼくらの心配なんてしないんだ。それに、『今日は僕の誕生日だから、摩耶山に行きたい』ってお願いしたら、ママじゃない人が家に来るから行かないって、後パパは言ってた。『お前たちで勝手に行け、そして今日も夜まで帰ってくるな』って言われてるんだ。でも今日は二千円もくれたから、摩耶山に登れると思って、あかりと一緒にここまで来たんだ」
「今日、あなた、誕生日なの?」
「うん。あかりの誕生日にしか来たことないから、あの時はあかりにしかマーヤが見えなかったのかな。今日は僕の誕生日だから、僕にマーヤが見えると思ってるんだけどな。でももし見えなかったら、どうしよう。僕、結構真剣に、ママごめんなさいって思ってるんだけどな」
その時、あかりがごね始めた。
「お兄ちゃん、お腹減ったー。あかり、もう疲れたよ。マーヤは、あかりの誕生日にしかいないんじゃないかな。今日はお兄ちゃんの誕生日だから出てこないんじゃないかな」
「そんなこと言うなよ、あかり。あかりが見たって言うから、僕も信じてるんじゃないか。お腹減っても、泊まってでも探すって約束したじゃないか。がんばってマーヤ、探そうよ。それで、どうしても見つからなかったら、もう、マーヤにメッセージお願いするの止めて、僕らが直接ママのとこへ行けばいいじゃないか」
「お兄ちゃん、あかり、ここで休んでる。もう足が動かない」
「あなたたち、いつ家を出たの?」
「昼前かなあ」
「どうして夕方にケーブルカーに乗ったの? それまで何してたの?」
「ずっと歩いてケーブルカーの乗り場まで来た」
「ええ!? どこから?」
「だって、ケーブルカーやロープウェイの切符買うお金残しておないといけなかったから、電車代やバス代に遣えないから……」
「それで、何か食べたの?」
「何も。そんなお金、ないです」
めぐるはそう言いながら、あかりのひざにとまった蚊をぴしゃりと叩いてやった。愛美は思わず天を仰いだ。そしてスマホを取り出し、電話をかけた。
「私です。うん、今、掬星台まで上がって来てる。実はね、急だけど、小三と小一の子どもを二人、そっちへ連れて行きたいの。違う、違う! 悪い冗談じゃないの、生きてる他人の子だってば。うん、一緒に。わけは後で話すから、お願い」
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