第30話 デバイスの不思議な動作
石田先生は了承し、皆でナノ・デバイス関西拠点に出向いた。
荒井は待ち構えており、すぐにクリーンルームの案内と完成品を見せた。クリーンルームは完全に完成してはいないようだったが、生産はできるようだ。パッケージングも同時にやっており、完成品は指紋ロックのある部屋にあった。
私にはそのデバイスがごく普通の部品のように見えた。
「何か、なんの変哲もない、ただのLSIみたいだ」
私はそういった。荒井は答えた。
「そういうところで作るから、そうなっちゃうだけだ。説明書、仕様書も作った。だからあとは回路を組んで動作を見極めるだけ、それだけなんだが私たちがやってもどうみても理解できないことばかりで」
「石田先生、という電気工学の専門家にご一緒いただいた。そのためだよ」
「そう。あ、わたくし荒井と申します。石田先生どうも、こんな状況で」
石田先生は答えた。
「いえ、分かるんですけどね、私だってこんなデバイス始めて使うわけなのでね、それは仕様がはっきりしてるなら、回路を考えて作るくらいはできるんだけど、それがどういう答えを出してくるかというとね、分からないわけですよ」
荒井は回答した。
「私たちがやるより、遙かにましな回路を作れるでしょうし、武田たちが分析するでしょう。やってみましょうよ」
「ああ、いいけれど、まずは仕様を読んでからだね。学生連れてこなかったから久しぶりに自分でやることになるけれどね、本当に手作業だから数日かかると思う」
「仕方ないですよ、世界初のデバイスです。基本動作は確実です。でも量子ニューロン回路を構成すると訳分からないのです。量子ゲート素子どうしはマイクロプログラミング方式で結合するようになっています。ですから、専門家のほうがよろしいですよ」
「そりゃ、そうですけれど、結果は武田先生がたに解釈してもらうしかないよね、今からやるけど、仕様書をもらえますか」
「どうぞ、薄いですけど石田先生は専門家ですし、ピンは普通のLSIと同じように作ってあります。きちんとそれ用の周辺部品もあります。ですからぜひお願いします」
「ええ、ま、世界初の仕事、やってみなければ分からないけれど」
石田先生は仕様書をめくり始めた。どうやらそれほど難しいわけではなさそうだ。難しいのは、結果の解釈なのである。その日から石田先生はその厳重に守られた部屋で作業を始めた。
私たちは宿舎でデータをまとめて、完成を待つことにした。
それから三日ほどして石田先生から完成の電話がかけられてきた。
「武田先生、できたんだけどね、荒井さんの言ってるように訳分からんよ、手に負えない。回路的な間違いは検証すべきだが、間違ってないと思う」
「そうですか、荒井と相談して私たちも例の部屋に行きますから、お待ち下さい」
「分かった、だけれど、これそんなに簡単な話ではないと思うよ」
「分かっています」
そう言って電話を切った。私は宿舎で各人にナノ・デバイスに行くことをつげ、すぐにタクシーで向かった。
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