第8話事件の終わりのハーモニー

「ばっ、馬鹿な!」


武田はそのままヨロヨロとその場にへたりこんだ。それから三人からはさっきまでの勢いは消え、大きく肩を落としたまま連行されて行った。

続いてドクターカトーも連行されていく。カトーは最後に深々と清野達にお辞儀をしていった。

丸米は何もできずただ泣きじゃくるだけだった‥‥。


残された一同にパトカーのサイレンの音が悲しく胸に響く。それは事件の終わりを告げる鐘のようなものであった。





こうして首あり村で起きた不可思議な連続殺人未遂は終着を遂げたのである。





「あんな奴等の怪我なんか治さなくても良かったのに‥‥。あんなブタたち‥‥。」

帰り道の車内、ルミコは武田ら三人の名前の書いたワラ人形を手にパンチを繰り返していた。


「ルミコさん怖いです‥‥。でもたしかに、ドクターが診療したんだから何とでもできたかもしれないですね」


「普段から人を生かそうとしてる職業だからな。医者の性ってやつなのかもしれんな?」

佐藤は運転しながらそう話した。


「そうですね。後もしかしたらこんな理由もあったかもしれません」

清野はそういうと自らの携帯電話の画像を皆に見せた。そこには時代を感じさせる古そうな写真が写っていた。


「ん?また写真かい?」

「あっ、これカトーさんですよね!あれ‥‥?あの三人もいますよ‥‥。それにしても皆さん若いですね?」


「診療所に大事に飾ってありました。40年前にあったっていうバスケの試合の時の写真だと思いますよ」

「あれか?例の神の手ゴールのやつか?」

「皆で肩組んでて仲良さそうですね‥‥。結局あの三人はおかしくなっちゃいましたけど、この当時は大切な仲間達でもあったんですね‥‥」

メイは寂しそうに画像を見つめた。

「いろんな想いが錯綜したのでしょう‥‥。いつかは‥‥、と改心を願っていたのかもしれません‥‥」


事件が事件だっただけに、やや重苦しい雰囲気が彼らを包んでいた。それを察したメイが話題を変える。


「あっ!そういえばコロちゃんはどこに行ったんでしょうね?」

その時だ!


キィー!


「あっ危ない!」

風に運ばれた一枚の紙がフロントガラスに貼りついた!視界を阻まれた佐藤が慌ててブレーキを踏んだ。


「ん?なんだこりゃ。村長選のポスターじゃないか?」

佐藤がその紙をめくると…


【村人よ!私にまかせなさい!】


という言葉とコロ助がガッツポーズしている姿が写しだされていた。


「あいたたたた‥‥」

一同は皆、頭を抱えた‥‥



「元々この草はね‥‥‥」

清野は一枚の葉っぱを取り出しクルクル回して見せた。


「清野さん持って来ちゃったんですか!逮捕しちゃいますよ」


「メイちゃん、この草自体は違法じゃないんだよ、名前は病弱草と言って土地が豊かな所にしか生えないんだ。九尾家の先祖は、この草が枯れてしまうと村の土地が衰えてしまうと思い、見守りながら村の為に植えたんじゃないかなと思うんだ。」


「でも、草を精製すれば麻薬になってしまうんですよね?」

「精製といっても、時間と手間暇を考えれば儲らないじゃないかな。それにあんな小規模の畑からじゃ耳掻き一杯くらいしか取れないと思うよ」


「でも探偵、村が栄えたって言ってたじゃないか!」


「麻薬で栄えたのではなくて、この土地が豊かで農作物が抱負だったからだよ、20年くらい前まではね‥‥‥」

「清野さん、どういうことなんですか?」

「九尾沙江子さんが村を追われた話、あれはね沙江子さんが畑に火を付けて燃やしたんです。」


「どっ、どういうことなんですか!」

「村で農作物が取れなくなった時期があって、ゆいつ九尾家に実ってた大きな畑にあの3人が目を付けた。精製すると麻薬になる草を手にしようと沙江子さんに詰め寄った。しかし、沙江子さんは拒否したんです。それをしたら村は没落して行くってね。でも、3人は言う事を聞く訳もないし、3人がかりで襲い殺そうとした。隙をみて畑に火を付け逃げたんです。お腹の子、つまり丸米君を守る為にもね。

まっ、半分は私の推測ですけど‥‥‥」

清野は葉っぱを眺めながら呟いた。


「しかし、腑に落ちないのは沙江子さんが謎の死を遂げていることだな」

「あれ?皆さん気付いて無かったんですか?」

「何をですか?」

「だって、現在丸米君が旧九尾家の後継者じゃないのなら、誰が後継者なんですか?」

「馬鹿だな探偵、それはミソさんだろう」

「20年前、ミソさんは100歳でした。現在なら‥‥120歳ですね」


キィー!


急ブレーキで車が止まった、運転していた佐藤が後ろを振り返り


「まさか!」

「さあ、どうでしょうね。長生きなお婆さんもいますから‥‥。今頃、感動の再開してればいいですけどね。」


夕日が止まっている車の影を長く長く伸ばしていく。その影を横切る様にバスが通り過ぎて行った‥‥

バスは村でひとつしかない停留所に止まり、最後まで乗っていた客を1人降ろすと走り去った。


男はやっとのことでたどり着いた村へ降り立った、ある人物へ復讐を果たす為に。


辺りを徘徊しやっと出会った村人に声を掛けた。


「あ~、事件?さっきまで村中大騒ぎだったんじゃが、ほれこの通り解決して静かな村に戻りましたよ。

しかし何も無い村によく来ましたなぁ、バスも数少ないのに」


男は村人に礼を言い、別れ少し歩いた。



あれ?

悔しさや悲しくなんかないのに何で涙が出るんだろう?

こういう時は笑おう!

あれ?

涙が溢れて止まらないや。



男は停留所まで来ると時刻表を確認した。今度来るバスは二日後と書いてある。


その場で泣き崩れた男の名は、怪盗ヒゲゴリラこと山田健二であった。



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首あり村連続殺人未遂事件 ごま忍 @SUPER3mg

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