第7話ジェットコースターロマンス

「丸米太郎君‥‥。いや、九尾太郎君!あなたがこの復讐劇を計画しましたね!」


清野が手にしていた物とは、メイが丸米の部屋から凶器と一緒に見つけた九尾沙江子の写真であった。


「なんだって!それじゃ九尾沙江子の子というのは?」


「そうです、警部補。九尾家は現在その姓を丸米に変え生活している。ですよねミソさん?」

少しの沈黙の後、ミソがうなずいた。


「元来、九尾家はこの村の麻薬の存在を知っており、それを守り続けてきた。

子守歌にもある至宝の宝とはその事だったんです。ところが村人が九尾家からそれを奪い沙江子さんを村から追いやった。

人伝で沙江子さんが村を追い出されたのを聞いて、村から離れていたあなたが替わりに守ろうと村へ移り住んだ所、九尾家は村人の物に変っていた。

そして、仕方なく姓を変え生活を始めたんです。」

清野は更に話しを続けた。


「そして沙江子さんを追い出した村人というのが村長選に立候補した三人です。」

「大村田、砂王、武田の三人か!」

「はい。村長選はいわゆる出来レース。誰がなっても村をコントロールでき、より麻薬の売買が強固のものとなる、そう考えたのでしょう。

麻薬は首ありリカちゃんを利用し、運び屋は山寺さんを使った。

そして、この三人への復讐の為、丸米君はミソさんがいるこの村にやって来て殺人計画を立てたのです。」

「‥‥‥。」

丸米は目を瞑りうつむいている。


「大村田さんが襲われた現場に、赤いきつねのカップラーメンがあった。あれこそ九尾伝説を謎ったつもりだったのでしょうが、この村で育った者ならあんなでたらめなメッセージを残しませんからね。」

「赤いきつねの子守歌は、子供を寝かしつける用です。本当の子守歌に赤いきつねは出てきません。丸米君がずっとこの村にいたなら当然知っている事なんですが。」

丸米は瞑った目を見開きこう言った。


「母が歌ってくれた子守歌しか知りませんから‥‥。」

「全て…探偵さんの言った通りです…。」丸米の自白と取れる内容だった。

「事件は解決だ!探偵!今回はワシの睨んだ通りだったな!」

「お前大して何もやってないだろ!」

佐藤に対しルミコがスタンハンセンばりのラリアットを見舞った。


「ぐへー」


「あの…警部補。丸米君は計画を立てたとは言いましたが犯人だとは言ってませんよ?」


「犯人はあなたです!」


清野がドクターカトーを指差した。カトーはなにも言わず、一息ついてコップの水を飲んだ。


「どっどういう事だ探偵?」

佐藤が問う。


「警部補。ひとつ大事な事忘れていませんか?今回の事件、誰も殺されていないのですよ。」

「丸米が大村田さんの心臓の事を知らなかっただけじゃないのか?」

「いえ。心臓じゃなくたって状況によっては人は死にますよ。」

更に話しを続ける。

「ドクターは丸米君の犯行計画を知っていたんです。この村には診療所がひとつしかない。怪我をした者が自分の所に来る事を知っていた。白仮面を被って大村田さん、砂王さんを死に至らない程度に襲い、自ら治療をしたんです。」

「それにしても何故そんな事を?」

メイが不思議そうに問い掛ける。


「メイちゃん。ポケット」

清野はそう言ってメイのポケットを指差した。


「え!あっあれ?これは?」

メイがポケットから取り出したものは、清野が持っている九尾沙江子の写真であった。


「あれ?同じものがある?」

「メイちゃん、さっき見た後しまってましたよ。

私が持ってる写真の方はルミコ君が手に入れたものです。

丸米君が持っていた写真と全く同じものです。これがドクターカトーさん。

あなたの部屋から見つかった時、全ての謎が解けました。」

「あなたは丸米君の父親だったんですね?」


衝撃の事実に一同は静まり返る。


「あなたは父親として丸米君を犯罪者にしたくなかった。

かといって殺人までとは考えておらず生かす事でも罪を負わせられると考えたんでしょうね。三人も、傷付けられたリカちゃん人形の事を知れば、この先また襲われるんじゃないかと怯えて生活するだろうと…。あなたは常に丸米君の先を回り犯行を行っていたんです」

「丸米君も始めは、なにがなんだかわからなかったと思いますよ。しかし真実を知りその想いを知った事で、今度は自分が捕まるように仕向けた」

「自作自演の怪我はそういう意味があったんだな」

「仕掛けられたワイヤーに自分の指紋をつけてましたしね。」


沈黙が続く


「いやーいっぱいやられたな探偵君。だから君の助手をしつこく私の所に残していたのか?」

ドクターカトーが重い口を開いた。


「あなたの事は最初から変だと思ってましたから…」

「うーん。聞かせてくれないか探偵君。」

「初めてあなたにお会いした時、それは怪我をした武田さんを連れていった時でした。あの時のあなたの第一声は

【ばちがあたった】でした。

大村田さんや砂王さんと違って、武田さんはあなたが手を下したわけではなかった、ですから襲われたとは思ってなかったんでしょうね。単純に転んで怪我でもしたんだろうと思って出た言葉だったんですよね。確証は持てませんでしたが、少しひっかかりまして…。」

「ハハハ‥‥、そうか。その通りだ。ワシはてっきり転んだかなんかだと…。んじゃあいつの怪我は…。」

全員が一斉に清野を指差した。実行犯のルミコまでも。当の本人は誰かを探す様にキョロキョロしている。


そして…


「全て探偵君の言った通りだ。ワシは罪多き男。20年前、沙江子が突然いなくなった理由もわからず何も出来なかった‥‥。太郎には殺人犯になってほしくはなくてな。せめてもの罪ほろぼしのつもりだったんだ」


「まっ、でも今回の事件、未遂で終わったしな。刑期を終えたらやり直せばいい」

「そうですよ、警部補!誰も死んでいないんですし!」

佐藤とメイが刑事らしからぬ言葉をかけた。


「刑事さん達。それは違うんですよ。沙江子はたぶん死んでます。ワシが沙江子を殺したようなもんだ。そろそろだな…」

ドクターカトーはそういうと腕時計に目をやり…


「さらばだ太郎!皆さん、最後の最後で死人が出る事になってしまうが…。ワシは沙江子に直接会って詫びてくる。」


「父さん?何言ってんだ!」

丸米が詰め寄る。


「さっき飲んだ毒が、そろそろ効くころだ…。」

「まさかさっき飲んだ水の中に…」

「ドクター!」

「カトーさん!」


「やっぱり‥‥」


「‥‥‥」


「ドクター、あなたが飲みたかったのはこれですね。ルミコ君にそれっぽい物は事前にすり替えさせてまして‥‥。それに罪は死んで償うものではない!とあなたが実証してるじゃないですか!」


そういうと清野は先程の駄菓子屋で買った粉ジュースの袋を掲げた。


「ハハハ!どおりで甘いわけだ…」


突然武田が頭を抱え膝を落とす。

「はっ、あはははは!こっ、これでこの村も、おっ終わりだー!」

砂王は殴られた頭を擦りながら苦々しい顔をし俯いていた。大村田は車椅子に乗り下を見たまま青い顔をしている。


「麻薬で栄えたこの村も、この馬鹿と共に俺達も終わりだよ。なあ?」

武田はフラフラと立ち上がり、狂った様に笑いながら一同に同意を求めるかのごとく、指を差して回った。


「あなた達最低、自業自得だわ」

メイは眉間にしわを寄せて不快感をあらわにしている。ルミコは攻撃体制に入っていた。


「終わりだよ、終わりだよ!なあ、探偵」

武田が清野の前に来て、肩をポンポン叩き軽く掴み下を向いた。それに動じず清野は真直ぐ前を見て


「ホントに終わり何でしょうか?」

それを聞いた武田、砂王、大村田の体が微かにビクッと動いた。それに先程の武田の表情は一転して目を見開き真面目になっていたが、下を向いていて誰も気付かなかった。


そして、瞬時に表情を戻し上を向いて

「おいおい、探偵これで事件は終わりだろ~が。お前も満足しただろ!」

武田は清野の顔の前でへつら笑っている。

清野は肩に乗っている手を払いのけ

「少なくともあなた達3人は、終わりではなないんじゃないですかね?」

清野は武田以上にへつら笑った。


「探偵!どっ、どういうことだ!」

久し振りに佐藤が一言叫んだ。


「至宝の宝ですよ…‥」

「馬鹿な探偵だ!至宝の宝はこの村の麻薬の利益だよ」

武田は清野を指差し笑った。


「ホントにそうでしょうか?いいえ、子守歌が二つ存在する様に、至宝の宝も二つあるんですよ」

武田の顔が先程と同じ様に変わり、清野を睨み付けた。

「昔からの子守歌はこれです‥‥‥」


起きろや起きろ。

九尾のきつねさまがやってきて

九尾のたぬきさまがやってきて

二匹が出会い喜んだ

お礼にあげよう

至宝の宝


「子供に聞かせるのがこれです‥‥‥」


起きろや起きろ

赤いきつねがやってきて

緑の狸がやってきて

タケダのおじさん喜んだ

お礼にあげよう

腐ったみかん


「この子守歌は二つでひとつなんです!」


「清野さん、どういうこと何ですか?」

メイの声と共に一同が清野を見つめる。


「元々どちらも古い子守歌だから、解釈と順番が違うんですよ」


起きろや起きろ

九尾の赤い狐様がやってきて

九尾の緑の狸様がやってきて


「この二つの文章は元々ひとつでした」


「タケダのおじさん喜んだは」

【猛々しく持参し喜んだ】


「腐ったみかんは」

【草と幹】


「二匹が出会い喜んだはそのまま。」

「至宝の宝は」

【技法の宝】


「並び変えると‥‥‥」


起きろや起きろ

九尾の赤い狐様がやってきて

お礼にあげよう

技法の宝

九尾の緑の狸様がやってきて

猛々しく持参し喜んだ

お礼にあげよう

草と幹

二匹が出会い喜んだ


「となります、これには続きがあって、二匹が見つめる至宝の宝で子守歌の完成です」

「だからなんだって言うんだ!」

「丸米家いえ、九尾家には赤い九尾様の銅像があります、そしてこの診療所には小さな緑の九尾様。つまり、二匹が見つめる同じ所、即ち麻薬の栽培が行われている場所の奥に至宝の宝が隠されているってことですよ」

3人の顔が苦々しく歪んでいく。


「ここで捕まっても、至宝の宝のことさえ隠し通せていれば、刑期を終えた後に宝を見つけて換金し、麻薬の利益がなくとも楽に暮らせると思っていたんでしょ。残念でしたね、宝ありませんでしたよ。大昔に取られたみたいですね」

清野の顔がより一掃ニヤついていた。

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