第5話部屋とYシャツと靴下とタワシ

「郵便でーす!」

突如現れた郵便配達員の男から佐藤が封筒を受け取った。


「ん!おい探偵!おまえ宛てだぞ。」

「警部補捨てちゃっていいですよ。どうせ…、怪盗ヒゲゴリラからですよ。今忙しいので相手できないですし。」

「差出人は書いていないが…。まっ、開けるだけ開けてみるぞ。」


「ん!なんだこれは?」

佐藤が封筒から取り出した紙には、なにも書かれていない。すなわち白紙であった。

「炙り出しとかですかね…。」

「メイちゃん。そりゃ古典的だろ。」


「いや警部補。やってみるだけ損はないですよ。意外とこの事件に関係あるかもしれないですし。」

手紙が白紙という不可思議な状態であると聞いて探偵心に火が点いたのか、清野が身を乗り出してそう言った。そしてさっそうとライターを取り出し紙を炙ってみせた。


ボボボボーボボ



ライターで紙を炙り出す。


「あっ!なんか出てきましたよ!」

「やはりやってみるだけ損はないという事ですね!」

するとそこには、文字が浮かんできたのだ!



【今日こそ待ってる鶴亀旅館】

怪盗ヒゲゴリラこと山田健二より



ビリビリビリ


「損した…」

清野はボソッと言葉を述べその紙を破り捨てたのであった。

その後、怪盗ヒゲゴリラのせいで無駄な時間を過ごした一同は、夜もふけて来たという事で今日は捜査を打ち切り、丸米邸で夜を明かす事になった。


そしてその夜…


佐藤は離れにあるトイレに向かう途中であった。


「お願いだ!なんとかしてくれないか!」

その声は林の奥から聞こえてきた。どうやらただごとでは無さそうは会話のようだ。

「誰だこんな夜中に…」

佐藤がその声の方へ目を向けとそこにはマルコムが立っており誰かと話しをしていた。佐藤は身をかがめ近付いてみた。


「あなたが承知の上にやった事。どうしようもないわ。」

「そんな!始めは少しこらしめるつもりだけだったのに…。こんな事になるなんて思っていなかったんだ…」

「自業自得よ!あなたも知っててやった事よ。もうなんともならないわ!」

佐藤は目を疑った。そこにいたのは紛れもなくメイの姿だった!


「小さな村だから、人目を避けたのよ。村中に知れたらお婆さんが可哀相でしょ」

「おっ、大村田さんを俺は連れて行っただけなんです!」

「誰に頼まれたの?」

「すっ、砂王さんにです!」

「ふ~ん、その話は詳しく取調べ室で聞かせてもらうわ」

メイは腰から手錠を取り出し丸米に近付いた。


「丸米太郎、拉致監禁並びに殺人未遂、その他諸々で逮捕します」

「なんだって!」

身をひそめていた佐藤が驚き叫びながら立ち上がった。


「けっ、警部補!」

その声にメイは一瞬怯んだ、その時

「俺はやってない!はめられたんだー!」

丸米は叫びながら林の奥へ逃走して行った。

「逃げた‥‥‥」

佐藤はボーゼンと逃げる丸米を見つめているだけだ。


「逃げた‥‥、じゃないですよ!何してるんですか!」

「メイちゃん、マルコムが犯人だったの?」

「警部補!トウモコロシ事件の時みたいにしっかりして下さい!」

そう言うとメイは逃げる丸米の後を追いかけた。佐藤もそれに続く。

丸米が逃げた獣道は曲がりくねっていて迷路の様になっていた。


「丸米は山を知り尽くしています、このままじゃ逃げられてしまいます」

「くそ!」


その時だ!

「ギャー!」


暗闇に包まれた林の奥から、丸米の悲鳴が響き渡った。

「悲鳴!警部補、まさか!」


「早月君こっちだ!」

懐中電灯の微かな光で、丸米の悲鳴が聞こえた方へ歩いて行った。


「どこに行ったの?」

そう言いながらメイが一歩踏み出そうとした時

「早月君、危ないぞ!」

「あっ、崖!」

そこには緩やかだが一気に降りないと転がり落ちそうにな崖があった。その下には右腕を血だらけにした丸米が倒れうずくまっていた。


「丸米!」

叫びながら崖を滑り降りようとしたメイに佐藤が

「待て!これを見て見ろ」

そう言うと崖の中間辺りを照らした。そこには真っ赤な血が付いている細い糸がピンと一本張ってあった。


「警部補、これは?」

「どうやらここを通ることを知ってた犯人が、仕掛けたんだろう」

「犯人って!」

「どうやら、丸米は事件の主犯格では無さそうだな。お前達、早く手当てしてやれ」

追い付いて来た他の警官達に佐藤は的確に指示を出した。



その頃‥‥



清野は推理を考えてると思いきや手紙を書いていた。


【拝啓怪盗ヒゲゴリラ殿】

鶴亀旅館には遠いので行きません。仕掛けた謎はすべて片付けて下さい。

それでも来てほしいなら、早急に首あり村にいるので300万送金して下さい。

事件を解決して行くか検討したいと思います。敬具

【永遠の好敵手、清野耕助】



「ドクター!今度は丸米君が!」

「またか!いったいどこのどいつが…。」

場面はドクターカトー診療所に移る。普段は暇な診療所も、これだけ立て続けに患者が来ると大忙しであり猫の手も借りたいという状況であった。


「ルミコ君、メス!」

「あっ、今忙しいので無理です!」

「ルミコ君、汗!」

「私はおまえの母上かよ。そのくらい自分でおやり!」

「‥‥‥。」

困り果てた表情でカトーは語った。


「あの~、探偵さんよ~。」

「どうしました。ドクター?」

「この娘、クビにしたいのだが…。」

「いやいや、こう見えても真面目な良い子ですから。長い目で見てやって下さいよ。」

急遽、診療所のアルバイトとしてルミコが手伝っているのだが、案の定この有様だ。



「丸米君!」

焦った様子で一人の女が診療所にやって来た。その女性は、九尾祭りの踊り手の一人である柳沢孔美であった。


「丸米君までも…。きっと私にも九尾様の祟りが来るのよ…。」

孔美は怯えた口調でそう言った。


「孔美さん‥‥?ですかね‥‥。」

「はい。あなた達は刑事さんですか?」

「ええ。まっ、私は探偵ですがね…。孔美さん。これは祟りなんかでは無く、謎られたれっきとした事件です。犯人は祟りや神では無く人間です。我々がEXILEの名にかけてあなたをお守りします!」

柳沢弘美がちょっと可愛いかった事もあり清野はかっこつけそう言った。


その時だ!


プスッ!


ドクターカトーの尻に吹矢が刺さった。


「オーマイゴット!」


柱の影からルミコがほくそ笑む。

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