Scene.3/Jack‐of‐all‐trades!
3
【SIDE:ADS】
――――さかのぼること、30分前。
ども、いきなり失礼。オレはハリヴァ=ロトワールだ。
え? 知らないって? 参ったな、このお話の裏主人公と言ってもいいくらいなのに……。
とりあえず自己紹介させてもらうと、自分はワケあって昼間は何でも屋、夜はボディーガードっつうよく分らん会社を経営してる。これは現在失踪中で俺の師匠(そして先代社長)である
そいでもって、社員がオレを含めて二人しかいないこの会社だが、一応今はオレが社長ってワケだ。ちなみにオレは三度の飯よりプリンが好きだ。もちろん三度の飯も好きだ。だが、三食全てプリンが食べられるなら、それでも一向構わない。それくらいプリンが好きなんだな。
……すまん。話それたな。てことで、せっかくなので、オレ以外の社員と、同居人も紹介しておこう。
今、オレの横で部屋の掃除をしているのが、住み込みで働いてる、助手のイオだ。始めはこんなガキをここに置くのはそりゃ渋ったもんだが、こいつと「賭け」をして負けたオレは、約束通り雇わされるはめになっちまった。
まあ、実際こいつはオレなんかよりよほどしっかりしてるので、掃除や料理の家事などはもちろん、客の応接や電話の受け答えまでやってくれて、今では大助かりなことこの上ない。
そして最後に、天井からぶら下がってるのが、間抜け顔の愛すべきサンドバッグ、我が家の「ボニー君」だ。顔はオレが描いた。……ん? なぜサンドバッグに名前なんか付けてるのかって? 別にいいじゃんか、そんなこと。世の中にはサッカーボールにポチって名前を付けてるサッカー部員もいるくらいだ。え? そんな奴知らない? 中学校の時いたんだよ、オレは知ってるんだ! ほっとけ!
とまあ、そんなこんなで本業の「ボディーガード」はもちろん、副業の「何でも屋」でさえ儲かってはいない。まるで閑古鳥、依頼があったとしても、近所のじいちゃんが草むしりしてくれとか、おばちゃんがコンピュータの配線やってくれだとか、せいぜいそんなレベルだ。従業員二人のちっぽけな会社なんて、誰も相手にしないんだな。
「ハリヴァさん、仕事の電話ですけど……」
……と、そんな事を言ったばかりなのに、助手のイオが電話を持ってきた。久しぶりの仕事である。何ヶ月ぶりか。しかし、イオの方はというと、浮かない顔だ。オレは何となく察した。
「ややこしい仕事か……?」
「ええ、まあ……」
普段、仕事しろしろ働けニート社長とうるさいイオが、これだけ不安そうにしているということは、よほど気乗りしないのだろう。こいつの勘は結構アテになる。
しかしまあ、やれやれだ。たまに、本当にごく稀に、昼間の「何でも屋」のほうでも、物騒な依頼が舞い込むことがある……。どこで聞いたのか、オレの腕を見込んでとのことだ。
「はぁ……冷蔵庫にプリンはあるか?」
オレは溜め息混じりにイオに尋ねた。ここだけの話、オレはプリンを愛してる。むしろプリンが原動力であるといっても過言ではないだろう。
「ありませんよ、一個も……。昨夜食べたのが最後です」
イオがそう言って開け放った冷蔵庫内には、プリンどころか、めぼしい食材すら見つけることは出来なかた。中におわすのはケチャップとかマーガリンとか、そういったおなじみの長期滞在者だけだ。
やれやれ。だからさっき行ったレストランで、イオがお子様ランチを頼んでいれば良かったのだ。
「おなか減ったよなぁ……ジュースばっかりじゃ腹は膨れませんぜ、イオさんよぉ」
「いや、そもそも最初に、金が無いからドリンクバーだけで粘ろう、って言ったのハリヴァさんですよね」
「アーアーアー、聴こえなーい」
……イオの言う通り、今月も大ピンチの財政難で、お子様ランチはおろか、三連セットのプッツンプリンさえ買っている余裕もないというのが、我が家の現実である。
オレもぶっちゃけ、この仕事は何だか気乗りがしなかった。だが、プリンが無いのでは仕方ない。それ以前に、電気代水道代でさえ払えるかどうかの瀬戸際なのだ。もとよりオレに、選択の余地など無かった……。
「よし、依頼を受けろ」
――オレはイオにそう言い放ち、仕事用の黒いスーツを勢いよく羽織った。
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