同級生百合編
貴女にための百合の花
桜が咲きほこる四月。
私は、彼女に恋をした。いわゆる一目惚れというやつだ。
金色のふわっとしたウェーブのかかったロングの髪。すんだ空のように青い瞳。陶磁器のような白い肌……
そんな彼女の姿は、私の目を奪うくらいに美しかった。
「はぁ……結局、声をかけそびれちゃったなぁ……」
私、
あのあと、一度も声をかけられずにクラス発表の場まで来てしまった。
自分の名前を探すついでに、親友の名前を探してみる。ズラーっと並んでいる名前を目で追っていく。
あった、どうやら私たちは三組のようだ。まぁ、彼女の双子の妹とは別になってしまったが、あの子なら大丈夫だろう。
ついさっき見たあの子の名前も探そうとしたが、名前すら知らなかったことに気づき盛大に落胆した。
(なにやってんだろ、私……名前も知らないような子に恋して……)
少し重い足取りで指定された二年三組の教室へと向かう。
親友のさくらは…まだ来ていないようだ。まぁ、相変わらず遅刻ギリギリで滑り込んで来るのだろうからあまり気にしない。
黒板に貼られている座席表を確認し、自分の席についた。
まだ、隣の席の人は来ていないようだ。
場合によっては、あの子以上に私の対象になるかもしれない……そんな淡い期待を持ちながら、最近ハマっている百合ものの恋愛小説を読み始めた。
この小説は、たくさんのカップリングの子たちがイチャイチャするという短編集のようなものなのだが、中でも一番のお気に入りは「貴女のための百合の花」という作品だ。
同級生ものという王道を攻めていく話なのだが、すごくドキドキする展開にもっていかれるので飽きない。
これだけでも何十回と読んだことか……
この話の作者である藤堂氷雨先生に会ってみたいとも思ったくらい好きな作品だ。
と、私は一旦本から目を離し、時計に目をやった。
針は八時二十分を指している。
(始業まであと三分もあるのか……何をしよう)
と、私がすることも無く迷っていると
「はじめまして、百合さん。隣の席の
「あぁ、はじめま……」
そう言いながら顔を上げたところで、私は硬直した。
なぜなら、そこに居たのは今朝一目惚れした少女だったからだ。
「え……あ……」
突然の出来事に、口をパクパクしながら彼女を見ている私は、彼女から見たら魚のようだっただろう。
「どうかしましたか?百合さん」
と、彼女の小首をかしげる仕草に思わずドキッとしてしまう。多分、彼女はいいとこのお嬢さまなのだろう。だって、そんな感じがするもん。
「あ、いや……綺麗だから、少し見蕩れていただけです……」
(って、何言ってんの私!?絶対引かれたよねぇ……)
「ふふっ、そうかしら?嬉しいわ。ありがとう」
あれ?割と満更でもない感じかな?いやいや、そんなことないよね……
「ま、まぁこれから一年間よろしくね」
と、私は半ば無理やり会話を途切れさせた。そうでもしないと、心臓がもたなそうだったから。
(やっぱり、すごくいい人だなぁ……ますます好きになっちゃうよ……)
私が、
「あー、百合ぃ…おはようー」
「あ、さくら。どうしたの?朝からテンション低いけど」
目の前にいる私の親友は、目に見えてテンションが低かった。まるで、というか明らかにネガティブオーラを辺りに振りまいていた。
「うぅ……楓と違うクラスになった……もうおしまいだぁ……」
「うん、そんな事だろうと思ったよ。てか、私じゃ不満なの?」
「うん」
こいつ、即答しやがって…
少し腹がたったので、私は額にチョップをくらわせた。
「いたっ!なんで無言でチョップするのさ!」
「さくらが即答したからでしょ。そんなことより、そろそろ始業式始まるから。自分の席に荷物置いてきなさい」
私の親友がいなくなったあとは、まるで台風が去った後のように静かになる。
読書するには丁度いい環境になるのだ。
それでも、考えることは隣にいる彼女のことばっかりで
(こんなんじゃ、集中して本も読めないよ……)
早いとこ、楽になりたい。それでも、初めて恋をした私にはどうすればいいか分からなかった。
始業式の最中も、新しいクラスで行われる自己紹介などのレクリエーションも全く身に入らなかった。
ただ、彼女との距離が縮まないまま時間だけが無慈悲に過ぎていった。
それどころか、彼女の笑顔を見る度に彼女と会話を交わす度に、この気持ちが抑えられなくなっていった。
(このままじゃ……でも、どうしたらいいんだろう……)
「あら?どうかしましたか?百合さん」
と、隣からかけられる声。どうやら、私のことを心配してくれているらしい。
(こんなに優しい彼女に、果たして告白などしていいものなのか……仮に出来たとしても、私なんかで釣り合うのだろうか……)
瞬間で答えを出す。答えはNOだ。
(あはは、私らしくないなぁ……こんな事でクヨクヨ悩むなんて……)
「ううん、なんでもない。大丈夫だよ」
「それは良かったですわ。それなら、少しついてきて欲しいところがあるのですが……よろしいですか?」
「もちろんいいけど……一体どこに?」
「ふふっ、それは秘密ですわ」
秘密、と言われたが私には行きたいところがなんとなく分かっていた。
そりゃあ、階段を一番上まで登ったら……ねぇ
「で、私を屋上まで連れてきてどうするの?」
「……百合さんは、この学校の
「……花に関係のあるところで告白すると、カップルになれるってやつ?」
もちろん、私は知っていた。むしろ、さくらに勧めたのが私だった。
「ここから見える胡蝶蘭の花畑は本当に綺麗なんですよ……百合さんもどうぞご覧になって?」
そう促され、鉄柵から少し身を乗り出すようにして眼下の景色を見る。
そこには、一面にピンク色の胡蝶蘭が太陽に照らされ咲き誇っていた。
「うん……すごい、綺麗だね……」
「百合さんは胡蝶蘭の花言葉を知っていまして?胡蝶蘭の花言葉は『あなたを愛しています』……素敵ですわよね」
(それと、これになんの関係が……)
少し考えたことで気がついた。彼女が私に伝えたかったことに。
「ふふっ、流石にこれで鈍感な百合さんも気が付きましたわね。さぁ、お返事を聞かせていただけませんか?」
「……やっぱり、亜理寿さんにはかなわないや。どうせ、私の返事だってとっくに気づいているんでしょ?」
「それでも、返事はその人の口から聞きたいものでしてよ」
「そういうものなの?」
「そういうものですわ」
「じゃあ……これで察してくれる?」
真昼の太陽に照らされて、二つの影が重なりあった。
百合色に染まる私たち 宵月アリス @UTAHIME
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