百合色に染まる私たち

宵月アリス

双子姉妹百合編

あの日の恋の歌

あの日から、私は夢を見ている。

絶対に届かない恋の夢を…


窓から差し込んでくる朝日が眩しい。

「うぅ…もう朝なの…?」

近くに置いてあるスマホを手に取り、寝ぼけ眼で時間を確認した。

「なんだぁ…まだ八時かぁ…って、もう学校に行かないと間に合わないじゃん!」

私は、急いで学校に行く準備を始めた。もう眠気などとっくにとんでいた。

(昨日、遅くまで夜更かししてネトゲのイベントやってたのがいけなかったかなぁ…)

するとガチャリ、とドアが開いて双子の妹のかえでが慌ただしく準備している私を見て、呆れたように声をかけてきた。

「お姉ちゃん、なんで制服を着てるかは何となく察しがつくから一応言っておくね。今日、土曜日だから」

「……へ?」

私は少し惚けてからもう一度スマホの画面を見た。

そこには、土曜日と出ていた。

「………………二度寝するね」

「いや、起きたんだから朝ごはん食べちゃいなさいってお母さんが言ってたよ」

制服を脱ぎ捨てて布団にダイブしようとした所で、楓に止められた。

「えー…今からネッ友さんとイベなのに…」

私、十六夜さくらいざよいさくらはリアルに友達が少ししかいない典型的な引きこもりだ。

そして、もう一つ周りに秘密にしていることがある。それは、双子の妹の楓が好きだという事だ。

自分でも、おかしいことは分かっている。同性同士、しかも実の双子の妹に恋をしているんだから。

「ま、ゲームもほどほどにしないとまたお母さんに怒られるよ、お姉ちゃん」

「…分かってるよ、楓」

私の部屋から出ていく楓の背中を見つめながら、私はそう呟いた。


「…と、言うことがあった訳で…」

「ふぅん…ネトゲしてて遅れた、と」

「いや、ほんと悪かったと思ってるから。許して…」

私は、駅前に来ていた。

今日、買い物に行く約束をしていたのをすっかり忘れていて、今は私の数少ない友人の一人である小波百合さざなみゆりに説教をされている最中だ。

「それ、言うの何回目かな?この前も反省してるって言ってたよねぇ?何回反省すれば分かるのかなぁ…」

「ほんとごめんってば。今度はきちんとまもるから」

「じゃあ、今日なにか奢ってよね」

「えぇ…お金ないんだけど…」

ちなみに、私の今の所持金は624円だった。

「えー…じゃあ、さくらの好きな人教えてよ。それで手打ちにしてあげる」

「うぅ、分かったよ…言えばいいんでしょ」

「じゃあ、喫茶店行こうか。恋バナを立ちながら…なんて味気ないしね」

私は、半ば諦めて百合について行った。

「…で、さくらは誰が好きなの?」

「私は…あ、笑わないでよね。こっちだって真面目なんだから」

「分かってるよー、笑わないから」

怪しいな…絶対笑うよなぁ

「えとね…私は、楓の事が好きなんだよ。もちろん、妹としてではなく一人の女の子として」

「……………まじ?」

「うん、変だってことは分かってるよ。同性同士でしかも妹に恋してるんだから」

私は、少し投げやりに言った。もう、どうなったっていい。

「私は…いいと思うよ。だって、さくら自身が楓ちゃんの事を好きなんでしょ?じゃあ、それ以外に理由は要らないんじゃない?」

「百合…」

こんなにも友人が応援してくれている。それだけで、私は嬉しかった。

「さくらは、自分の気持ちに素直に行けばいいんだよ。ほら、行ってきな。素直な気持ちをぶつけてみなよ」

「ありがとう、百合。私、言ってみるよ」

「さて、行きますか。買い物に」

あ、やっぱり行くんだ…

「ほら、嫌そうな顔しないで。そんなんだと楓ちゃんともデート出来ないぞー」

やめ、ちょ、肘でぐりぐりするのはやめて…

「分かったよぉ…行く、行くから…」

「うん、それでよし!」

(なーんか、乗せられた気がするなぁ…)

そして、私たちは半日ショッピングをしていました。お陰で、私の足は悲鳴をあげてますが…


翌日、私は楓を連れ出して散歩に出かけた。

「お姉ちゃんが散歩したいだなんて…熱でもあるの?」

「しっ、失礼な!私だってたまには外にだって出るんだぞ!」

まぁ、今日は楓に告白するために出てるんだけどね…

「あ、この公園懐かしいね。よく二人で遊んだよね」

「そうだね、あの頃は楽しかった…あ、あのね楓。聞いて欲しいことがあるんだけど…」

「いきなり改まってどうしたの?」

言うんだ…今日こそ伝えなきゃ

「楓、私は貴方の事が好き。姉妹としてじゃなくて。likeライクじゃなくて、loveラブで」

「………ふふっ、やっぱりお姉ちゃんらしいね。くふふ、ふふふふふふ」

「わ、笑わないでよぉ…本気なんだから」

「いいよ、お姉ちゃん。私も大好き、お姉ちゃんの事が。でね、まさか好きな人にすることくらい出来るんでしょ?」

「え?なにを…」

なんだろう…全くわからない

「もー、キスだよ。キス」

「あ、あぁ…そうだよね」

私と楓の顔の距離が縮まっていく。そして、触れる唇と唇。

数秒間だけだったのに、無限にも感じるような時間が過ぎていった。

「ふふっ、しちゃったね。私たち」

「そうだね、しちゃったね」

数秒間の間が空く。

「……ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?楓どうしたの?」

「これからもよろしくね。私の彼女として」

少し強めの風が吹き、夕日に照らされてオレンジ色に光っているキキョウの花が舞っていた。

それは、まるで私たちを祝福しているかのようだった。

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