第18話☆胸中は…

「・・・・・・・・・・・・」


「殿下? 殿下!」


「駄目だ…反応がないぞ?」


「毒か?」


「ああ 猛毒だ…」


「チャンスか?」


「どうだろうな…」


クラクフの街に有るバルム侯爵邸で第二王子一行は 王子の異変で騒がしく それでいて楽しく騒いでいる。


「あの方が 遂に…」


そう言って涙を拭く男が子の屋敷の主である アルビス・ルンデ・バルム侯爵である。


妹の子である『可愛い甥』がどうやらようやく人並みに異性に興味を持った!と言うのがとてもうれしく そして不安でも有った。


「あの『姫』の素性はどう?なのだ?」


子爵でロベリア王国の外交特使のルドルフ・バン・アルツァーは言う。


「アマテラスなる名は知りませぬな…会頭はご存知か?」


カラグナ商会会頭 ドルクセン・カラグナ ロベリア王国の三分の一の富の流れを牛耳ると言われる 王国最大商会の5代目会頭である。


「若き日に周辺諸国はおろか マイマール大陸にも渡った私ですが アマテラスなる名は知りませぬな」


彼は若き頃大冒険家として知られており彼の著書は今でも読まれるベストセラーとなる程経験知識などに置いて 王国でもこの派閥の中でも抜きん出ていた。


第二王子擁するバルム侯爵派 政治力 経済力 そして武力のバランスと規模で王国でも屈指の勢力を誇る集団であった。


其の武力の一角の一人が重い口を開ける。


「あのカネサダなる剣士の技 俺より上だろう」


「王国の雷光の異名を持つ デイトリッヒ殿よりもか?」


その発言に驚きの声を上げる者はトライヒ・カラグナである カラグナ商会頭取を最近拝命した若き天才だが、武には全く無知であった だからこそ専門家のデイトリュヒの言は驚きであった自分の知り得る上での最恐が彼であるのだから。


「儂でも勝てんな あの刀とやらを持たれては 剣速が早すぎて目がかすむほどだ」


ドミテル・ガング・マイヤー 王都鍛冶ギルドマスターである彼も肯きながら言う、マスター・ナイトの称号を王より頂く王国屈指の戦士は己の武器を作ると言う理由で始めた鍛冶で王国最高と言われるまでになった 多妻で多才な人物である。


「それより いい加減にアマテラスの産物について協議致しませんか?時間の無駄です。」


ピシリと話を斬る 彼女は王都商業ギルド副マスターである。


出来る女で合理的で理知的で正論を言う彼女は非常にこのメンバーを上手く動かす舵となっていた。


「分からぬモノに時間をかけても仕方が有りません! 分かる事を片付ける事で あの『姫』との『関係』も築けるのではありませんか?殿下?」


「・・・・・確かにミランダ女史の言う事が正しい… あらゆることを許す 全てを私の元に持って来い!!」


彼の号令一家 バルム侯爵派は動き出す 王子である彼をこのクラクフ領に連れて来たのはバルム侯爵の軽い策略で有った。


クラクフ伯爵とは仲が良く、互いの領地に互いの別荘を建てる仲で有った。


マリアの事も良く知っている 彼女と第二王子を引き合わせようと思いついたのがこのクラクフ領に王子一行を連れて来た理由であった。


マリアのアレで王子に異性に興味を持たせる狙いが有った。


逆効果になるのでは?とは思ったが…世の中成る様になる物である。


アレならコレでいいか?と思うかも知れない…マリア…いい子だったのだが…どうしてああなったのか…心配もしている侯爵であった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



マリアお嬢様が王子一行では無く『輝きの渚亭』に過剰な護衛を付けたのは、バルム侯爵派に対する牽制とソレ以外に対する牽制で有った。


「王国も一枚岩ではない」


ドリストバル将軍は入り婿のロイドと娘のリンゼにそう言った。


「この国は人外融和派と中立派と人外排斥派の三つがせめぎ合っている クラクフ伯爵は融和派の旗頭それに中立派のバルム侯爵派の中枢がこの街に居る」


執事長とメイド長は肯く…将軍と3人は家族で伯爵家を支える忠臣であった。


「もしもの時は すまぬが死んでくれ 生き残った者がお嬢様と2人の子らの面倒を見よ…」


排斥派の狙う場所はココだろう…お嬢様は其の為にこの屋敷に最少人数で居るのだから。


なにも言わずとも『教え子』である マリアのする事は良く分かっている。


あの子は 今回 何も『得ない』だろう…むしろ『失う』はずだ…それを最小限にするのが私の仕事…将軍なんぞと言った処で『老いた56の老いぼれ騎士』幾人食えるか…


敢えて『伯爵の屋敷』の警備を緩めたのは確実に敵を誘い込むため…『異国の姫』と『自国の王子』どちらかに刺客が行けば…クラクフ伯に反意有り!と王都の旦那様はおろかお嬢様の進退は…皆も只ではすむまい…


刺客も『王族』を襲うのはリスクが大き過ぎる。


どれだけの『刺客』がくる?その『情報』は全くない、10人か20人か…ココの護衛で守り切れるのか?お嬢様はどれだけ読んだ?


「お嬢様…」


会議の場で人目をはばからずき『涙』を流されたのは『決別』か『諦め』か…


「この一戦…押し通おる…」


老騎士は覚悟の死地に向かう…



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



クラクフ伯爵の館は質素な物だ…贅沢よりも領民の生活向上を…


グラナド大森林から溢れる『破軍』の処理に資金を使い…少ない予算で作るために城壁も一部木造にしてある。


木造にしてあるのは 其処に敵を集中させるためと 内部から外部に直ぐに打って出る臨時の扉でも有るためでもある。


口さがない物は 『堀無し木壁 品も無し』などと嘲るが、機能的な城塞都市であるこのクラクフの街を伯爵も領民も誇りにしている。


何故なら『破軍』を弾き返しているのはまさしくこの街の『城壁』なのだから…


その城壁を越え『異物』がクラクフ領内に潜入して来た。


ソレは暗闇を見据え 音無く走り 高く飛んだ。


ソレを知る者は言っただろう『人外』と…彼らは人外と認定されている種族の一つ『獣人族』で有った。


ハンドサインでお互いの意志を伝え合い 目的の場所に 淀みなく辿り着く 彼らは一人一人が傑出した戦士であった。


その数50あまり…その数は多すぎた その質は強すぎた。


クラクフ伯爵の館の衛兵の数は20あまり…平時に人件費は使えない『懐事情』が有るにしても少なすぎた。


侵入者はしかし 知っていた 衛兵の数も 誰が何処に居るのかも…内部に彼らを導く仲間が居るのだから…


「本当にやるのか?」


その集団の副官は その女に聞いた。


「… … …」


返事など出来るはずが無い…私の裏切りはクラクフ領に暮らす同族の運命を決定付けかねないのだ。


しかし従わねば『息子』が殺されるのだ。


顎をしゃくって『旦那』を行かせる。


『マリア様』は私が殺す…あの無垢な笑顔を『消す』そう思うと…しかし他にも『殺らねば』ならない物が居る。


私はまず『自分を殺した』


私は50人余りに突入命令を出した。


もう…後戻りはできない…神様…あの子にご加護を!!

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