第9話『友達 その2』
急遽迎えることとなったピオは、よっこらせと玄関で背負っていたリュックを置いた。
「すまねーな、瑛人。荷物置かせてもらうよ」
「好きにしてくれ」
瑛人は手を挙げて降参のポーズ。
リュックに視線を向けると、ぱんぱんに膨れている。とはいえ、大きさはせいぜいランドセル程度。女性ならば一泊すれば着替えは無くなろう。
つまり、
「また勢いで飛び出したのか……」
ピオの常識人たる母親を知っているだけに、瑛人は心を痛めるより他にない。
「おぉーい、なんか飯くれよー」
「――まったく」
瑛人はリュックを手に取ると、リビングへと向かった。
キッチンと食器棚が壁側にあるためか、ピオがいると途端にリビングが狭くなったような印象を受ける。それもこれも大きな胴体故ではあるが。八本も脚があれば、それだけ面積を有するのは自明の理だ。
「ソーセージで良いか?」
オサキは予想していなかった友の来訪に、心なしか声が弾んでいる。
「おう! 豚の腸で頼む!」
「それ以外は日本じゃあんまり見かけないぞ」
瑛人はリュックを下ろし、ピオの場所を確保する。
基本的に椅子が必要ないため、こういう時は椅子をどかすだけでいいのが楽だ。
「あ、ついでにビールも頼む。キリンの淡麗で一番搾り。五百ミリな」
「注文多すぎだろ」
とはいえ、オサキが軽く炒めているソーセージの香りで、瑛人もぶっちゃけ飲みたい。
香ばしい肉の焼ける香りに、少しのブラックペッパー。油で表面がてらてらと光るソーセージを見ていると……。
「オサキ、俺達も飲もう」
気がつけば、瑛人はピオ用に取り置きしている淡麗と自分用の金麦を冷蔵庫から出していた。
「ほえ、いいのかえ? わしならば飲む気満々じゃぞ?」
「今日くらい、いいだろ」
「ならばすーぱーどらいで頼む♪」
「あいよ」
ビールを取り出しながら、瑛人は思う。
何故こんなにもビールの好みが全員違うのだろうか、と。
いや、確かに大事だけども。舌に合わないビールは飲めたものじゃないけども!
冷蔵庫の中が缶ビールでカラフルに染め上げられている姿は、子供がいたらとてもじゃないけど見せられない。無駄な出費も甚だしいが、ビール用の小型冷蔵庫とか、欲しいかも。
「できたぞー」
「待ってましたぁ! さっすがオサキ。炒め方が上手いな!」
「馬鹿にしておるじゃろ、貴様」
酒肴も登場したことだ。
瑛人は三者三様のビールを手に、食卓に戻る。
「ほいよ、おふたりさん」
「さんきゅー」
「ありがとなのじゃ」
そうして、同じタイミングでプルタブを開ける。
ぷしゅ。
良い音と共に、香りが鼻孔を刺激する。
「じゃ、乾杯」
「かんぱーい!」
「かんぱーい、じゃ!」
そうして缶を打ち付けた時に、思う。
カラフルなのも、悪くないな、と。
そうして。
石動家の遅めの晩酌が幕を開けた。
これはただの平凡な物語。
妖怪と添い遂げた男の、何でも無い日常の一幕である。
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