第8話 毒草混じりの食べ放題セット 07
全ての始まりは10年前、俺が15歳の時だった。
俺が生まれたのは平凡な中流家庭だ。特別大金持ちではないが、その代わりに特別に貧しくもない。父に母、そして兄が一人。四人暮らしの本当に普通の家だった。それが崩壊する出来事が起こったのはとある冬の寒い日のことだ。
その頃、父と母は謎の体調不良に悩まされていた。家にいても外にいても、「空気が薄い気がする」らしいのだ。それに加えて、二人の肌には鱗にも似た発疹が浮かび上がっていた。
もしかして同じ病気にかかっているのでは。そう思った父母は、次の日に大きな病院に行くことになっていた。
その前日の夜。一家団欒中に突然インターホンがけたたましく鳴り響き――家にやってきたのは管理局の連行官だった。
「あなた方には連行命令が出ています。ご同行を」
連行官はそれだけを言って、父母に大人しく連行されることを促した。父母は不審に思いつつもそれに従い――そしてそのまま帰ってこなかった。
俺たちは二人きりで生活することになった。幸い、街からは補助金が出たので、貧しくてもなんとか生きていけた。
そして二歳年上の兄は警察官になり、俺も追うようにして警察に入った。しかし俺が警察に入って二年目、兄さんはとある課に転属になった。詳細は弟である俺にも教えてはくれなかったが、どうやら特務課と呼ばれる場所らしかった。
――ほんの数か月後、兄さんが死んだという知らせが俺の元に届いた。死因は知らされなかった。ただ任務中の死とだけ。交渉の末に帰ってきた兄さんの死体は――人の形を留めていなかった。
全身は鱗に覆われ、顔にはもう優しかった兄の面影はない。手足は異様に伸び、その喉は食いちぎられていた。
俺はその鱗に見覚えがあった。これは病気だ。父母が感染したというあの病気だ。俺は家族の死の真相を知るために特務課に入り――この一連の出来事の根が同じなのだと知った。
だから俺は――
「えっと……私が対象を探すので、マスターは対象の捕縛と連絡をお願いします。詳しくは言えませんが対象は発症者なので……マスター? 聞いていますか?」
33番の呼びかけに、シンゴは思考の渦に捕らわれていた意識を浮上させた。
「あ。ああ、聞いてるよ。大丈夫」
不思議そうな顔をする33番に対して、シンゴは無理に笑ってみせる。33番はおどおどとシンゴを見た後、シンゴに背を向けて歩き出した。
「じ、じゃあ私たちも対象探しを――」
「33番」
少女は振り返る。シンゴは彼女に真剣な表情を向けた。
「話が、あるんだ」
*
裏口からクラブハウスに潜入したトシヤたちは、暗がりに紛れるようにして対象を探していた。目立たないように黒のコートを着せたネコたちは、客たちの足元を歩き回っては、ふんふんと匂いを嗅いでいる。
トシヤたち捜査官はその後ろを不審に思われない距離でついてまわり――やがてミィは立ち止まって、トシヤのもとへと戻ってきた。
「いた。灰が薄くて、手に鱗がある人」
端的に伝えられた情報に、トシヤは示された方向を見る。そこにいたのは、ここからでは鱗が生えているかどうかは判別できなかったが、確かに体調が悪そうな仕草をしている男性だった。
「他のネコたちの見解は?」
通信で伝えると、シジマはそうやって確認をしてきた。17番と33番に視線を送ると、二人はこくりと頷いた。
「間違いありませんね。その方です。確保をお願いします」
トシヤたちは目を見合わせるとその男性に歩み寄り、警察手帳を見せた。
「警察です。ご同行を願います」
男性は突然の言葉に目を見開き――何かやましいところがあったのだろう、そのまま腕を振りきって走り出した。
「逃げた……!」
男は人混みをかきわけて走っていってしまう。ミィの見たものが正しければ、発症は始まっているはずだ。ここで逃げられたら、民間人に被害が出るかもしれない。トシヤは鋭く叫んだ。
「走れ、ミィ!」
「追え17番!」
「あっえっと、33番も行くんだ!」
ネコたちは命令に従い、弾きだされたかのような勢いで走り出した。
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